「どうせ無理」と言う子に、希望の種をまく言葉かけ

「どうせ無理です」「やっても意味ないし」
子どもからそんな言葉を聞いたとき、先生方はどんな気持ちになりますか?

  • どうにかして励ましたいのに、響かない
  • 声をかけても、そっぽを向かれる
  • 最初からあきらめている姿に、胸が痛む

わたしも現場にいた頃、そして今もカウンセリングで、そんな子どもたちにたくさん出会ってきました。
「やればできる」と励ますほど、心のシャッターが閉じてしまう――そんな難しさに、先生方も直面していないでしょうか。

「どうせ無理」と言う子どもたちは、本当にやる気がないわけではありません。
その奥には、傷つきたくない、期待されるのが怖い、という繊細な気持ちが隠れています。

本記事では、そんな子どもたちに届く「希望の種をまく」関わり方についてお伝えします。
あきらめではなく、「やってみたい」という気持ちが育つ言葉とはどんなものでしょうか。

子どもの変化を無理に引き出すのではなく、自然に芽が出てくるような、そんな関わりを一緒に探してみませんか。

1. Point:希望の種をまく関わりが、子どもの心を耕す

「どうせ無理」と繰り返す子どもに必要なのは、叱咤激励でも説得でもなく、小さな希望の種をまくような言葉です。
それは、子ども自身の可能性を信じ、否定せずに受けとめ、選択肢をそっと差し出すような関わりです。

子どもが口にする「どうせ無理」には、たいてい理由があります。
たとえば、失敗経験が重なっていたり、周囲と比べられて自信を失っていたり。

ですからまずは、「無理」と思う気持ちを否定しないで、心の土壌を整える必要があります。
そこに、少しずつ言葉という“水やり”をする。
そうすることで、やがて「ちょっとやってみようかな」という芽が顔を出すことがあるのです。

希望を押しつけるのではなく、「一緒に見つけよう」と寄り添う姿勢。
それが、子どもが再び動き出すきっかけになります。

2. Reason:「どうせ無理」の奥には、傷つきたくない気持ちがある

「どうせ無理」と言う子どもを、怠けているとか、やる気がないと判断してしまうと、かえって関係がこじれてしまいます。
その言葉の奥には、さまざまな感情が詰まっているからです。

以下のような背景が隠れていることが少なくありません:

  • 失敗経験による自信喪失
  • まじめで頑張りすぎて、もう疲れてしまった
  • 周囲の期待が重く感じられる
  • 「できない自分」にがっかりされた経験がある
  • 挑戦することで、また傷つくのが怖い

つまり、「どうせ無理」という言葉は、心の防衛反応です。
自分を守るために先に諦めておく、いわば“予防線”のようなものなのです。

心理学では、こうした傾向を「セルフハンディキャッピング」と呼ぶこともあります。
挑戦前に「無理」と言っておくことで、失敗しても傷が浅く済むようにするわけです。

こうした背景を知らずに「がんばれ!」「そんなこと言わないで!」と返してしまうと、子どもは「この人にはわかってもらえない」と感じ、さらに心を閉ざします。

ですから、まず大切なのは“共感”です。
「そう思っちゃうのも無理ないよね」「うまくいかなかった経験があると、また挑戦するのはこわいよね」
そんなふうに、子どもの気持ちを代弁するところから始めてみてください。

「わかってくれる人がいる」と感じたとき、子どもは初めて、ほんの少しだけ心の扉を開きます。
そして、その隙間に希望の光を届けることができるのです。

3. Example:実際の言葉かけと、変化の場面

では、どんな関わり方が「希望の種」をまくことにつながるのでしょうか。
わたしが実際に出会った先生方と子どもたちのやりとりの中から、いくつかの例をご紹介します。

事例1:中学2年男子「努力しても無駄」と言う子どもに

ある公立中学校の先生が、学習に対してまったく意欲を示さない男の子に悩んでいました。
「どうせテストもダメだし」「努力しても無理」という言葉が口癖になっていたそうです。
先生は最初、「でも、やらないともっと点が下がるよ」と諭していましたが、子どもはどんどん無表情になっていきました。
ある日、先生はふとこう聞いたそうです。
「無理だって思うようになったのって、いつから?」
その質問に、子どもは最初はだまっていましたが、しばらくしてぽつりと「小6のとき、努力したのに親に怒られて…」と話し始めたのです。
先生はその話を途中で遮らず、最後まで聴きました。
そして、「そっか。それはつらかったね。努力しても報われないって思ったんだね」と返しました。
その数日後、子どもが「次の漢字テストだけ、やってみる」と自分から言い出したそうです。

事例2:「どうせ無理」を逆手に取った“選択肢”の提示

別の小学校では、「運動会のダンスがどうせできない」と言い張る子がいました。
その子は、リズムに乗るのが苦手で、毎年その時期になると不安定になるそうです。
先生はあえて、「じゃあ、3つ選択肢を出してみるから、自分で選んでみて」と提案しました。

  • 1つ目:苦手なところだけ、休み時間に一緒にやってみる
  • 2つ目:最後の決めポーズだけ参加してみる
  • 3つ目:音楽係になって支える役割をやってみる

すると、その子は少し考えて、「3番なら…できるかも」とつぶやきました。
その年、音楽係をやったそうなのですが、結局クラスのみんなから言われ、最後の決めポーズは一緒にやったそうです。

使える言葉のヒント(先生の語りかけの工夫)

以下のような言葉が、子どもの心に届く可能性があります。

  • 「やらないって決めてもいいけど、もし一歩踏み出すとしたら、何ができそうかな?」
  • 「“無理”って感じてるの、わたしにも伝わってるよ。でも、ちょっとだけ別の見方もしてみない?」
  • 「〇〇さんの中に、ほんの少しでも“できたらいいな”って思ってる部分があるとしたら、それってどんなこと?」

ポイントは、強制せず、選択肢を渡すこと。
そうすることで、子どもは「選んでもいい」と思えるようになります。

4. Point:心の中にある「まだ見ぬ力」に寄り添う

「どうせ無理」と言う子どもに、無理やり火をつけようとする必要はありません。
むしろ、必要なのは“見守るあたたかさ”と、“信じて待つしなやかさ”です。

わたしたち大人の役割は、子どもの「できなさ」に注目することではなく、その中にある「まだ気づいていない力」を信じて照らすことだと思います。

そのためにできることは、次のような姿勢です:

  • 否定せず、まず受けとめる
  • 小さな成功体験を一緒に探す
  • 「選ぶ自由」を子どもに渡す
  • 過去ではなく、「これから」を対話の中心にする
  • 「一緒に考えよう」というスタンスを持ち続ける

「希望の種」は、子ども自身の心の中にすでにあるのかもしれません。
わたしたちができるのは、それが芽吹くタイミングを焦らず待ち、水や光を届けることなのです。

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