「動かない周囲」を責める前に見直したい、リーダーの“届け方”の工夫

「何度も声をかけているのに、誰も動こうとしない」
「頑張って先導しているのに、反応がない」
「自分ばかり空回りしている気がする」

こんな風に、リーダーとして働きかけているのに、周囲がなかなか動いてくれない――そんなもどかしさを感じたことはありませんか?
わたしも現場時代、何度も味わってきました。熱意を持って提案しても「また何か始めたな」と遠巻きにされてしまうことも。

でも、そんなときに立ち止まって考えたいのは、「伝え方」や「届け方」のほうです。
意見の内容が正しくても、「どう伝わるか」で行動は大きく変わります。

この記事では、周囲が“動かない”と感じるときに、リーダーとしてまず確認したい「届け方の工夫」について、心理的な観点も交えながらご紹介します。
「なんで動かないの?」というイライラを、「どうすれば伝わるかな?」という問いに変えることで、チームが少しずつ動き始めるかもしれません。

1.Point:伝え方で、人は変わる

周囲が動かないと感じたとき、つい「どうして誰も協力してくれないんだろう」と落ち込んだり、イライラしてしまうことはありませんか。
でも、そうしたときこそ一度立ち止まりたいのが、「何を伝えたか」よりも「どう伝わったか」という視点です。

リーダーがいくら熱意を持って語っても、それが相手に届いていなければ、人はなかなか動いてくれません。
人は「納得して」「共感して」初めて動くのです。内容の正しさだけでは、人の心は動かせません。

つまり、リーダーの言葉が“通る”かどうかは、その届け方や表現に大きく左右されます。
だからこそ、「動かない人」を責める前に、自分の「届け方」を見直してみる――これが、次の一歩を生み出すカギになるのです。

2.Reason:人は“理解された”と感じたときに動き出す

学校の現場でリーダーを担っている先生方は、本当に多くの責任を抱えながら、日々全体の調整に奔走しています。
時間も余裕もない中で、どうすればチームを動かせるか、いつも頭を悩ませている方も多いのではないでしょうか。

しかし、熱意を持って働きかけても、返ってくるのは無反応やため息、あるいは「また何か始めたの?」という冷ややかな空気。
そんな反応を前に、落胆し、孤独感を抱えるリーダーは少なくありません。

でも、その反応は、本当に「やる気がない」ことを意味するのでしょうか。
わたしは違うと思っています。むしろそこには、「不安」「わからなさ」「経験不足」「タイミングが悪い」など、さまざまな事情や感情が絡んでいることが多いのです。

たとえば、ある若手の先生がこう話してくれました。
「やってみたい気持ちはあるんですけど…前に失敗したことがあって、それが引っかかって、うまく動けないんです」
これは決して「反抗心」ではありませんよね。「怖さ」や「迷い」なのです。

また、ベテランの先生はこう話しました。
「最近、新しい取り組みが次々に来て、正直ついていけない感じがしてるんだよね」
これも「やる気がない」のではなく、「キャパシティの限界」だったりします。

リーダーの言葉が「また新しいこと」「強制されてる」と受け取られてしまうと、人は自然と身構えます。
そこに“押し付け”の印象が生まれてしまえば、どんなに良い提案でも届かなくなってしまうのです。

だからこそ、「伝え方」を工夫することは、相手の心理的安全性をつくるうえで欠かせないのです。

3.Example:伝え方を変えたら、反応が変わった事例

ここで、実際に「伝え方」の工夫で変化が起きた事例をいくつかご紹介します。
それぞれの先生が体験した小さな変化が、チームの空気に大きく影響を与えました。

(1) 中学校学年主任A先生:「説明」から「対話」へ切り替えた

A先生は会議で資料を準備し、明確に進行する優秀なリーダーでした。
でも、「一生懸命伝えても、誰も発言してくれないんです…」と悩んでいました。
より詳しく話を聞いていくと、「どうですか?」と尋ねる余白がないまま、決定事項が一方的に伝えられているような印象をうけました。
そこで、以下のような工夫を提案しました。

  • 資料の最初に「この件について、ご意見ありますか?」という欄を設ける
  • 説明の後に必ず「今の話を聞いて、どう思いましたか?」と声をかける
  • 一人に向けて「○○先生、前に似たようなご経験ありましたよね?」とつなげてみる
  • 関係する先生とは、事前にその件についての話をする(対話)

すると、少しずつ反応が変わり始めました。「あ、自分の考えも言っていいんだ」という空気が生まれたのです。

(2) 小学校副校長B先生:「正論」から「想い」へ切り替えた

B先生は合理的で整理された方で、いつも「なぜそれが必要か」をロジカルに説明していました。
でも、「正しいことを言っているはずなのに、心がついてこない人が多い」と感じていたようです。
そこで、「先生は、どうしてこの取組を大事にしたいと思ったんですか?」と尋ねてみたところ、少し照れながらこんな話をしてくれました。
「実は…自分が若い頃、放っておかれた苦い経験があって。今の子どもたちには、そんな思いをさせたくないんです」
それをミーティングの冒頭で少し語ってもらうようにしたところ、空気が変わったそうです。

理屈ではなく、B先生の“想い”に触れることで、周囲は「この人の話を聞いてみよう」と思えたのです。

(3) 高校教務主任C先生:「強制」から「お願い」へ切り替えた

C先生は、時間がない中で全体を効率的に動かそうと、いつも「○日までに提出してください」「これをやってください」ときっぱり伝えていました。
しかし、ある時、「先生の言い方がちょっと怖い…」という声が寄せられました。
そこから、「○日までにお願いできると助かります」「急かしてごめんなさい、でも本当に感謝しています」と、語尾を少し和らげるように意識したそうです。
すると、「なんか雰囲気が違いますね」と言われるようになり、以前よりスムーズに協力を得られるようになったとのことでした。

このように、伝える“中身”を変えるのではなく、伝える“表現”を変えるだけでも、相手の受け取り方が変わり、反応も変化していきます。

4.Point:伝われば、チームは動き始める

チームが動かないとき、リーダーとしてできることは、相手を責めることではありません。
まずは自分の伝え方に目を向け、「どうすればこの想いが届くだろうか」と考えることです。

  • 一方通行の通達から、双方向の対話へ
  • 論理だけでなく、感情や背景も添える
  • 命令調ではなく、「お願い」「相談」「共感」の表現を使う
  • 具体的な言葉で感謝やねぎらいを伝える
  • 相手が抱える“見えない事情”に思いを馳せる

届け方を変えることは、自分の意志を手放すことではなく、「自分の意志を、相手に届く形に整える」ことです。

わたし自身、伝え方を見直すたびに、少しずつ関係性がほぐれ、信頼が芽生え、チームが前に進み始めるのを何度も経験してきました。

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