『あの人とはあわない』と感じた同僚とのかかわり

「この人とは、どうしても合わない……」
そんなふうに感じた同僚が、すぐ隣にいませんか?
会話がギクシャクして気まずい
価値観や仕事の進め方が根本的に違う
できれば距離を取りたいのに、仕事上どうしても関わらざるを得ない
わたしも長く学校現場にいて、こうした場面を何度も経験してきました。
そして今、大学で先生方の相談に乗る立場になっても、この悩みは本当に多く寄せられます。
「合わない人との関係」は、どう向き合えばいいのでしょうか?
無理に仲良くしようとして疲れてしまったり、反対に完全に心を閉ざしてしまって関係が悪化したり——そうならないための“ちょうどいいかかわり方”があるのです。
今回は、「合わない同僚」と仕事を続けていくために、自分の心を整えるヒントと、必要最小限のかかわりをどう穏やかに保つかについて、心理学と現場経験の両面からお伝えします。
「合わない」こと自体を責める必要はありません。
ただ、そこにどう関わるかで、あなたの心の消耗度は大きく変わります。
一緒に、考えてみませんか?
1.Point:合わない人とも、仕事は一緒に進められる
「この人とはどうしても合わないな…」と思うこと、ありますよね。
でも、だからといって、関係を断ち切ることはできないのが学校の現場です。
同じ学年、同じ分掌、同じクラスを見ている同僚と、どうしても関わらないわけにはいかない。
その状況がつらくて、悩んでいる先生も多いのではないでしょうか。
そんなときに必要なのは、「無理に仲良くなる」ことでも、「我慢し続ける」ことでもありません。
合わないと感じる相手と、できるだけ穏やかに、業務上のかかわりを維持する——そのために、自分の心の整え方とちょっとした対応の工夫を持つことが大切なのです。
2.Reason:「合わない相手」が与える心理的ダメージは意外と大きい
人は、自分と価値観や感覚が近い人とは、自然と安心して関わることができます。
一方で、考え方や仕事の進め方、言葉の使い方などにズレを感じる人と関わると、無意識のうちに「緊張」や「警戒モード」になってしまいます。
このストレスが慢性的に続くと、心と体のエネルギーがじわじわと奪われていきます。
わたしが関わってきた先生方の中にも、こんな声がありました。
- 「朝、出勤するだけで、その人と会うと思うと気が重くなる」
- 「なるべく会話を避けていたら、『冷たい人』と思われてしまった」
- 「自分ばかりが気を使っている気がして、だんだん怒りが湧いてくる」
さらに厄介なのは、「合わない相手」ほど、業務上で密に関わる必要があるケースが多いということです。
学年運営・行事・トラブル対応・保護者対応など、学校の仕事は一人では完結できません。
OECDのキーコンピテンシーにおいても、「異質な他者とのかかわり」は重要なものとなっています。
しかし、信頼関係が築けない相手と連携しなければならないとなると、相当なストレスになります。
「仕事さえ回せればいい」と割り切るにも限界がある。
まずは「どう関わるか」よりも、「どう心を守るか」が問われるのです。
3.Example:合わない相手と関わるとき、わたしが勧めたい5つの工夫
わたし自身、そしてカウンセリングやコーチングで関わってきた先生方の声から見えてきた、合わない同僚との「かかわり方の工夫」を5つご紹介します。
(1) 感情をラベリングする:「苦手」ではなく「違う」と捉える
「あの人は苦手」という言葉の裏には、「理解されない」「傷ついた」「イライラする」といった感情が隠れています。
その気持ちを無理に抑えず、まずは「わたしは今、〇〇と感じている」と言語化してみることが大切です。
たとえば、「わたしはあの人の口調にイライラしてる」「自分の考えを否定されて、傷ついた」と認めてあげる。
それだけで、自分の感情を少し客観的に見つめる余裕が生まれます。
そして次に、「苦手な人」ではなく「わたしとは価値観が違う人」と捉え直してみてください。
違いを前提にすれば、変えようとする無駄なエネルギーを使わずに済みます。
(2) コミュニケーションは「事実」と「目的」に絞る
合わない人との会話は、どうしても感情的な揺れが入りやすいものです。
そこで、会話の中身を「事実」と「目的」に絞ることが有効です。
たとえば、「○月○日の学年だよりですが、〇時までに確認いただけますか」といった具体的な依頼にとどめる。
「なんでそんな言い方するんですか?」のような感情的応酬は、避けることができます。
- 曖昧な言い回しよりも、簡潔に
- 感情を挟まず、必要なことだけ伝える
- 自分がどうしたいかを明確にする
これは「割り切り」ではなく、「自分を守るための整理」なのです。
(3) 合わない人と“つながること”を目指さず、“衝突しない”を目指す
信頼関係を築くことが理想でも、現実には「合わない人と深い関係を目指さない」選択も必要です。
そのかわり、「衝突しない」「仕事は回せる」「自分とは違うやり方をしてもらう(その人の長所を活用する)」をゴールにすること。
- 最低限のやり取りだけを丁寧に
- 主観や感想はなるべく挟まない
- 自分にはできない、相手のやりかた(長所)を活かす
- 仲良くなるのではなく、距離を保つ
ある先生が話してくれた言葉が印象的でした。
「“好き”を目指すとつらいけど、“嫌いにならない”“自分にはできないやり方をしてもらう”を目指すと気持ちが楽になる」
これは、まさに現場で使える知恵だと思います。
(4) 「心の中に第三者を置く」メタ視点で冷静さを保つ
相手の言動にカッとなりそうなとき、「このやり取りを、誰かがそばで見ているとしたら…」と想像してみてください。
それだけで、自分を感情の渦から一歩引いた場所に置くことができます。
これは心理学で「セルフ・ディスタンシング」と呼ばれる方法で、怒りや不安の高ぶりを和らげる効果があります。
わたし自身も、以前どうしても苦手だった同僚と話すとき、心の中で「もう一人のわたし」を置いて、「冷静な観察者」としてやり取りを見守らせていました。
この“見ている自分”がいるだけで、気持ちがぶれにくくなったのです。
(5) 終わった後に「自分を整える」時間を必ずつくる
合わない相手との関わりの後は、自分でも気づかないうちにエネルギーが消耗しています。
だからこそ、終わった後には必ず「整える時間」をとってください。
- ひとりで数分、深呼吸をする
- 日記にその時の気持ちを書き出す
- 信頼できる同僚にひとこと吐き出す
これは甘えでも逃げでもありません。
「回復する力」を高めるための、立派な戦略です。
4.Point(再確認):関係を変えられなくても、かかわり方は選べる
人間関係は相手がいてこそ成り立ちます。
でも、相手を変えることはできません。変えられるのは、自分の“かかわり方”です。
- 感情を整理し
- 会話を絞り
- 目標を見直し
- 冷静さを保ち
- 自分のケアを忘れない
これらを意識することで、「合わない相手」とも業務上の関係を保ちながら、必要以上に自分をすり減らすことなく過ごすことができます。
そしてある程度かかわれる関係が形成されたあと、また、次の段階に進むことができるのです。
まとめ:無理に好きにならなくていい。でも、関わりは工夫できる
合わない人がいるということは、あなたが“感じる力”を持っているということ。
無理に仲良くしようとしなくていいし、相手を嫌いになる必要もありません。
ただ、自分を守りながら、仕事を進めていくために「かかわり方を工夫する」ことはできます。
それは、逃げではなく、知恵と配慮に満ちたプロフェッショナルの選択です。
合わないというのは自分とは異なるということであり、それは創造につながる道にもなりえます。
わたしも、いつも試行錯誤しながらやっています。
あなたも、ちょっとずつ、ご自分に合うスタイルを見つけていってくださいね。