その一言が響く理由―カウンセリング的“聴き方”で信頼を築く

こんなこと、感じたことはありませんか?

  • 一生懸命に話を聞いているつもりなのに、「先生には分かってもらえない」と言われてしまう。
  • 部下や若手の先生と話しても、本音を引き出せない。
  • 相手の言葉の奥にある気持ちが、うまくつかめない気がする。

わたしも長年、学校現場にいて、そんな場面をたくさん見てきました。
もしかしたら、あなたも今、そんな気持ちかもしれません。

今日は、そんなあなたに、少しでもヒントになることをお届けできたらと思っています。

テーマは「カウンセリング的な“聴き方”」です。
「カウンセリング」と聞くと、特別な技術や資格が必要に思えるかもしれませんが、実は日常の会話の中にこそ活かせる姿勢がたくさんあるのです。

本記事では、リーダーとして信頼を築くために、どんな“聴き方”が大切なのか、カウンセリングの視点からお伝えします。
「その一言が響く」ような、そんな関わりができるよう、一緒に考えていきましょう。

Point:カウンセリング的“聴き方”が、信頼関係の土台をつくる

リーダーにとって、最も重要なスキルのひとつは「聴くこと」です。
しかし、“ただ話を聞く”だけでは、本当の信頼は築けません。
信頼関係が深まる聴き方には、コツがあります。

それが、カウンセリングにおける「傾聴」の姿勢です。
相手の言葉を受け止めながら、感情の揺れや意味の奥行きにも意識を向ける。
そして、評価やアドバイスを急がず、“その人の世界”に丁寧に寄り添う。

この姿勢が、相手に「この人には話しても大丈夫」「分かってくれる」という安心感をもたらします。
その結果、相手の本音が出やすくなり、関係性がしなやかに、そして強く育っていくのです。

Reason:なぜ「聴き方」が信頼関係を左右するのか?

リーダーという立場にあると、「指示する」「まとめる」「アドバイスする」といった役割が強く求められます。
そして、部下や若手の先生が困っていそうなとき、「何か言ってあげなくては」「正しい方向に導かないと」と、つい“話す”ことに意識が傾いてしまいがちです。

でも、よく考えてみてください。
あなた自身がつらいとき、誰かに話を聞いてもらった経験はありませんか?
そのとき、何が一番ありがたかったでしょうか。
きっと、「こうすればいい」と言われたことよりも、「うん、そうだったんだね」「それはつらかったね」と“気持ちを受け止めてもらえた”ことではないでしょうか。

人は、自分の気持ちをわかってくれる人に、自然と心を開きます。
反対に、どれだけ正論でも、気持ちを理解してくれないと感じる相手には、心の扉は閉じてしまいます。

この心理的な仕組みを理解しておくことは、リーダーにとってとても大切です。
とくに学校の現場では、感情が絡む人間関係や、忙しさによるストレスが日常的に存在します。
そのなかで、部下が抱える本当の悩みや葛藤は、なかなか言葉にされません。

だからこそ、「表面的な言葉」に反応するのではなく、「その奥にある気持ち」や「言葉にならない声」を受け取る姿勢が求められるのです。

また、リーダー自身がこの姿勢を持つことで、職場全体の“聴く文化”が育ちます。
誰かがつらそうにしていたら声をかけ、意見の違いが出ても対話を重ねていく。
そうした風土が、チーム全体の安心感や協働性を高めていくのです。

Example:3つの“聴き方”の実践例──現場の先生の工夫から学ぶ

1. 沈黙を待つ──話を「引き出す」ための余白をつくる

ある中学校の学年主任の先生は、若手との関係づくりに悩んでいました。
「何を考えているのかわからない」「報告がない」と不満を感じていたのです。
そんな彼が最初に取り組んだのが、「沈黙を待つ」ことでした。
これまでは沈黙が怖くて、間を埋めるように自分から話してしまっていた。
でも、思い切って“沈黙を歓迎する”ようにしたことで、若手が続けて話す場面が増えたのです。

沈黙は、ときに相手が考えている時間でもあります。
その時間を奪わず、静かに待つこと。
その姿勢は「急かさず、焦らせない人」としての信頼につながっていきます。

彼はこう語りました。
「黙って待つのって、実はけっこう勇気がいるんですよね。でも、その間に相手が心を整えてるのかもしれないって思ったら、じっと待てるようになりました。」

リーダーの沈黙は、安心の余白を生み出す。これは、実に奥深い聴き方の技術です。

2. 感情をたずねる──「どうしたの?」より「どんな気持ちだった?」

別のケースでは、ある高校の教頭先生が、1on1ミーティングの中で「感情に注目する」関わりを始めました。
それまで彼は、「何か困ってることある?」「じゃあ、こうしてみたら」と、問題解決型の関わりをしていたそうです。
でも、ある日を境に、「どうしたの?」ではなく「それって、どんな気持ちだったの?」と問いかけるようにしたのです。
すると、相手の反応がまるで変わった。
「えっと……たぶん、不安だったんだと思います」と、相手の先生が立ち止まり、自分の感情をゆっくり言葉にし始めたのです。

感情に焦点を当てた問いかけは、相手の内省を促します。
また、「気持ちを聞かれている」という経験自体が、受容されているという安心感をもたらします。

この教頭先生は言いました。
「感情を言葉にすること自体が、先生たちにとって癒しだったり、整理になっているのかもしれませんね。」

リーダーは問題の“原因”だけでなく、感情の“ゆらぎ”にも目を向けていくことが大切です。

3. 感情を返す──「そう感じたんですね」と言ってみる

三つ目は、感情を感じ取り、それを返す関わりです。
これはカウンセリングで「感情の反映」「感情の明確化」と呼ばれる手法です。

わたしが以前コーチングで関わった小学校の主幹教諭は、対話の中で次のような言葉をよく使うようになったそうです。

「そうか、それは悔しいよね」
「うん、その場面は緊張しますよね」
「ええ、怒りたくもなりますよ、それは」

このように、相手が話した気持ちを“そのまま”言葉にして返すだけで、「この人はちゃんとわかってくれてる」と感じさせる力があります。

この主幹教諭はこう振り返っています。
「感情を返すことで、相手が“ほっとしている”のがわかるんです。たぶん、否定されずに済んだって思えるからなんでしょうね。」

アドバイスや評価よりも前に、「その気持ち、わかります」と一言添える。
その姿勢が、信頼の扉をゆっくりと開いてくれます。

このように、

  • 沈黙を待つ
  • 感情をたずねる
  • 感情を返す

という3つの実践は、すぐにでも日常に取り入れられるカウンセリング的“聴き方”です。
リーダーとしての関わりが、より豊かで温かいものになっていくでしょう。

Point:聴くことは「信頼への橋」をかける行為

リーダーとして、人に指示を出すことや、課題を解決に導くことも、もちろん大切です。
けれども、人が本当に力を発揮するのは、「自分の気持ちをわかってくれている」と感じたときです。

そのためには、「何を言うか」よりも、「どう聴くか」が問われます
評価も助言もあとまわし。まずは、相手の世界に入ってみる。
それが、信頼という橋をかける最初の一歩になります。

あなたの“聴き方”が変われば、周囲との関係も必ず変わっていきます。
そして、チームの風通しも良くなっていくはずです。

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