その子、本当に大丈夫?『頑張っている子ども』の心の叫びを見逃さないために

こんなこと、感じたことはありませんか?
- いつも真面目でよく頑張るあの子が、最近ふとした瞬間に元気がない
- 明るくリーダーシップをとっていたのに、ある日突然、不登校になってしまった
- 成績もよく周囲から評価されているけど、どこか無理をしているように見える
わたしも長年、学校現場にいて、そんな場面をたくさん見てきました。
そして、大学に移ってからも、教職を目指す学生や現場の先生方の相談から、同じような声を何度も耳にしてきました。
頑張っている子どもは、周囲の期待や自分へのプレッシャーを無意識のうちに抱え込んでしまうことがあります。
とくに、責任感が強く、空気を読める子ほど、「がんばらなきゃ」と自分を追い詰めてしまうことがあるのです。
この記事では、「がんばっている子どもほど、実は苦しんでいるかもしれない」という視点から、見落としがちなサインや、先生としてできるかかわり方を考えていきます。
子どもたちの“沈黙の叫び”に、わたしたちがどう寄り添えるかを、一緒に考えてみませんか?
一見すると元気そうなあの子の心の声に、耳を澄ませてみましょう。
1. Point:頑張っている子ほど、気づかれにくい危うさを抱えている
「がんばっている子は心配ない」──
多くの先生がついそう思ってしまうのは、ある意味自然なことかもしれません。
授業も真面目に取り組み、提出物もきちんと出し、クラスの中心として行事にも積極的に関わっている。
そんな子どもに、「何か困っていることはある?」と、あえて問いかけることは、なかなかしにくいものです。
けれど、実際には「がんばっている子ども」ほど、心の中にプレッシャーや不安をため込んでいる可能性があります。
むしろ、周囲の信頼を一身に集めるからこそ、自分のしんどさに蓋をして、がんばり続けてしまう危うさがあるのです。
そして、ある日突然、その蓄積されたプレッシャーがあふれ、登校できなくなったり、体調を崩したりといった形で表面化する。
そうした事例を、私はこれまで本当にたくさん見てきました。
「しっかりしている子だからこそ、支援が必要なこともある」──
これが、この記事でわたしが一番お伝えしたいことです。
あなたが今気にかけているあの子の頑張りを、ただの「成長」や「責任感」として受け止めるのではなく、その裏にある気持ちにも目を向けてみませんか。
2. Reason:プレッシャーと評価のはざまで、子どもは声をあげにくくなる
わたしたち大人が意図しなくても、子どもたちは周囲のまなざしをとても敏感に感じ取っています。
特に、まじめで几帳面な子ども、親や先生の期待に応えたいという気持ちが強い子どもほど、評価されることをモチベーションにがんばります。
これは悪いことではありません。しかし、「評価を得ること」が習慣になると、「評価される自分しか価値がない」という思考に陥ることもあるのです。
たとえば、小学生のある女の子は、通知表に「◎」が並ばないと不安になり、1学期末には毎晩おなかを痛がるようになりました。
「がんばる=ほめられる」「休む=期待に応えられない」「弱音=失望される」という図式が、本人の中でできあがっていたのです。
中学生や高校生になると、より複雑な人間関係や進路への不安、SNSでの比較、部活動での上下関係なども加わり、プレッシャーはさらに多層的になります。
「まわりに迷惑をかけたくない」「下級生の手前、弱音は吐けない」「みんなの前では明るく振る舞わないと」
そんな“見えない規範”のようなものが、まじめな子どもたちを縛りつけていきます。
さらに、近年の学校現場では「自律性」が重視されるあまり、「自分で考えて行動できる子」が“理想像”として語られがちです。
もちろん、これは重要な育てたい力のひとつですが、それをそのまま“自己責任”と受け取ってしまう子どももいます。
たとえば、「先生、今日ちょっとしんどいです」と言える子はまだ安心です。
けれど、「迷惑をかけてはいけない」と考える子どもは、ギリギリまで我慢してしまいます。
そして、限界を越えたとき、初めて体調不良や無気力、無断欠席などの“外から見えるサイン”として現れるのです。
ここに「過剰適応(overadaptation)」の危険があります。
これは、自分の本音やニーズを抑えて、周囲の期待に過度に適応しようとする状態。
表面的には“いい子”に見えるため、大人も本人の苦しみに気づきにくいのです。
また、頑張っている子どもは、まわりから「がんばってるね」「えらいね」と言われることで、自分の役割が「がんばり続けること」になってしまう場合があります。
これは、子どもにとっての“役割拘束”とも言えます。
わたしたち大人がよかれと思ってかけた言葉が、「がんばり続けることしか認められない」という思い込みを強めてしまう。
このような「プレッシャーの構造」が、学校という日常のなかで静かに作られていくのです。
3. Example:目立たない「異変」のサインと、寄り添うかかわり方
わたしのもとには、学校現場で働く先生方から、さまざまな相談が寄せられます。
ある中学校の女性教員が、こんな話をしてくださいました。
「学級の副委員長をしていたAさん、いつも明るくて、クラスを引っ張ってくれていました。
提出物も欠かさず出していたし、先生たちにもすごく礼儀正しかった。
でも、2学期に入ってから、なんとなく笑顔が減った気がして…。ある日、突然登校できなくなってしまったんです」
担任の先生が面談で本人に聞くと、「誰にも迷惑をかけたくなくて、限界まで我慢していた」「もう全部投げ出したくなった」と、ポツリと語ったそうです。
また、別の学校で出会った男子生徒は、部活動でレギュラーを務め、進学校の中でも成績上位。
しかし、彼は保健室に足繁く通うようになりました。体のどこが悪いわけではなく、診断は「ストレス性身体反応」。
実は、親や先生からの「期待」に応えることが、自分の存在意義だと思い込んでいたのです。
こうした子どもたちの共通点は、自分から「助けて」と言えないこと。
いや、「言っちゃいけない」と思い込んでいた、と言った方が正確かもしれません。
そんな子どもたちの“沈黙の叫び”に気づくには、大人の側に次のような「心のセンサー」が必要です。
【頑張っている子が見せるサイン】
- 発言が急に減った、笑顔が作り笑いのように見える
- 小さなミスに過剰に反応し、自己否定が強くなる
- 保健室やトイレに行く頻度が増える
- 学習意欲はあるが、集中力の波が大きくなる
- 周囲に合わせすぎて、あまり「自分の意見」を言わない
これらの変化は、表面上は「落ち着いている」「優等生」として処理されがちです。
でも、だからこそ、「大丈夫?」と声をかける大人のまなざしが必要なのです。
「無理していないかな」「少し肩の力を抜いてもいいよ」と、こちらから“安心のサイン”を出すだけで、子どもの顔が少し緩むこともあります。
ときには、「今日は休憩しようか」「がんばらない時間を作ってもいいよ」と、あえて“期待しない時間”を作ることも有効です。
また、日常の中で、「成果」や「努力」ではなく、「存在そのもの」に目を向けて言葉を届けることも大切です。
- 「あなたのその場にいてくれることがありがたい」
- 「何も言わなくても、いてくれるだけで助かってるよ」
- 「失敗したって、あなたの価値は変わらないよ」
こうした言葉は、頑張り屋の子どもにとって、自分を取り戻すための大切な“安全地帯”になります。
4. Point:がんばりの奥にある「本音」に耳を澄ます大人でいよう
がんばっている子どもは、たしかに成長しています。
でも、そのがんばりが「無理してでも続けるべきもの」になってしまうとき、そこにはもう“支援の必要性”があります。
「この子は大丈夫」
そう思ったその瞬間に、あえて問いかけてみてください。
「最近、ちょっとしんどくない?」
「何もなくても、話に来ていいんだよ」
子どもが本音を言える場所は、多ければ多いほど安心です。
先生が“聞いてくれる存在”でいることが、どれだけ子どもたちの支えになるか──わたしは現場でも、大学でも、そのことを痛感してきました。
ぜひ、子どもたちのがんばりの「奥」にある声に耳を澄ませる先生でいてください。
そのまなざしが、子どもの未来を支えることになります。
まとめ:「がんばっている子」は、支援が必要な“サイン”を隠していることがある
がんばっている子どもは、見た目には安定していて、安心して任せられる存在かもしれません。
でも、心のなかでは「期待に応えなければ」「弱音は甘え」と、ひとりで苦しさを抱えている場合があります。
その子の沈黙の奥には、「本当はしんどい」「でも誰にも言えない」という声が潜んでいるかもしれません。
今日から、こんな視点を大切にしてみてください。
- 「大丈夫そうに見える子」こそ、あえて声をかけてみる
- 何かできることがないかと、そっと気にかける
- 成果ではなく、存在そのものに価値があることを伝える
- 「がんばらなくても大丈夫」という安心感を届ける
わたしたち大人のまなざしやひとことが、子どもたちの「休んでもいいんだ」「頼ってもいいんだ」という感覚を育てます。
子どもたちは、思っている以上にがんばっています。
だからこそ、「そのがんばりを手放してもいいよ」と伝えられる存在でありたい。
わたしも、そうした大人を目指して、これからも歩み続けたいと思っています。
ぜひ、あなたもご自身のクラスや関わる子どもたちのなかで、小さな変化に気づき、そっと寄り添ってみてください。
その行動が、子どもの未来をやさしく照らす一歩になると、わたしは信じています。