リーダーシップの姿を問い直す(若手教諭の校長への叱責のニュースを受けて)

「リーダーシップとは何か」―この問いは、学校現場で働く先生方にとって避けて通れないテーマです。
最近、小学校で23歳の先生が校長に強い口調で叱責したというニュースが話題になりました。
児童の前での出来事だったこともあり、多くの人が驚きと不安を覚えました。
- 立場の違いから意見がかみ合わないことがある
- 感情がぶつかり合い、対話がうまく進まないことがある
- 子どもの前での大人のふるまいに迷うことがある
これは、特定の人物を責めるよりも、「学校におけるリーダーシップのあり方」を考える契機と捉えることができます。
わたしも長年、学校現場と関わってきました。その中で痛感するのは、リーダーシップとは「命令する力」ではなく「関係性を育てる力」だということです。
この記事では、出来事を材料にしながら、上下関係ではなく信頼関係を基盤としたリーダーシップについて考えていきます。
読むことで、先生方が日々直面する人間関係の摩擦や迷いを、前向きにとらえ直すヒントを得られるはずです。
小さな気づきが、明日の学校を変える一歩になります。
1.Point:リーダーシップは「関係性を育てる力」である
学校で求められるリーダーシップは「権限を振りかざすこと」や「強い声で命令すること」ではありません。
むしろ、お互いの信頼をベースにして関係性を育てる力です。
校長や管理職、主任といった役職についていても、信頼関係がなければリーダーシップは発揮されませんし、逆に立場が若手であっても、周囲の信頼を得ていれば影響力を発揮できます。
今回の出来事を単なるトラブルと見るのではなく、「学校におけるリーダーシップの本質は何か」を問い直すきっかけにすることが大切です。
2.Reason:なぜリーダーシップを「関係性」で捉える必要があるのか
(1) 学校は多様な価値観の集合体だから
学校には、若手からベテランまで、多様な価値観と経験を持つ先生方が集まっています。
授業観、子どもとの関わり方、仕事の優先順位…。
どれも背景にそれぞれの経験や信念があります。
そのため「立場が上だから正しい」と単純にはいきません。
違いを受け止め、つなぎ合わせる視点が欠かせないのです。
(2) 権威だけでは信頼は得られないから
心理学では「権威への服従」に関する研究がありますが、長期的に見ると「立場だから従う」という関係は持続しにくいと示されています。
権限に基づくリーダーシップは短期的には機能しても、安心感や協働の力を弱め、結果としてチームの力を損ないます。
(3) 感情はすぐに子どもに伝わるから
今回のニュースでは児童の前での叱責が問題になりました。
大人の感情が子どもに与える影響は大きく、混乱や不安を生みます。
つまり、リーダーシップのあり方は職員同士の問題にとどまらず、子どもへの教育的メッセージに直結します。
「人とどう向き合うか」は、子どもたちが大人の姿から学ぶ最も重要な教材の一つなのです。
(4) 心理的安全性がなければ意見は出てこないから
リーダーシップの研究で注目されているのが「心理的安全性」です。
安心して意見を言える環境があることで、先生方は本音を語り、協力が進みます。
逆に「否定されるかもしれない」「怒鳴られるかもしれない」と思えば、沈黙や諦めが広がり、組織は硬直してしまいます。
こうした理由から、学校で求められるリーダーシップは、上下関係ではなく関係性を育てる力として捉える必要があるのです。
3.Example:リーダーシップを関係性で育てるための工夫
では、実際に学校現場で「関係性に基づくリーダーシップ」を育てるには、どんな工夫ができるでしょうか。
カウンセリングやコーチングで関わってきた先生方の実践から、いくつか紹介します。
(1) 「聴くこと」をリーダーの第一歩にする
校長や主任が「指示する前に聴く」姿勢を持つだけで、雰囲気は大きく変わります。
ある小学校の校長先生は、若手の提案に対してすぐに判断を下さず、「なぜそう思うのか、もう少し教えてください」と促しました。
これにより若手が安心して意見を話せるようになり、会議が活性化しました。
(2) 背景を共有する習慣をつくる
単なる意見の対立は、背景を語り合うことで理解に変わります。
「授業の自由度を高めたい」と話す若手の背景には、子どもたちの主体性を重んじたいという思いがあります。
「基礎基本を重視したい」と言うベテランには、学力のつまずきで苦しむ子どもを支えたいという経験があります。
背景を共有することで「対立」ではなく「両立」を探る対話が始まります。
(3) 公開の場ではなく、個別の場を選ぶ
意見の相違や強いフィードバックは、子どもの前や大勢の前で行うと不要な摩擦を生みます。
大切なのは場を選ぶことです。
ある主任の先生は、若手の授業に疑問を感じた際、すぐにその場で注意するのではなく、放課後に二人で振り返る時間を持ちました。
結果、若手は防衛的にならず、前向きに改善点を受け入れることができました。
(4) 少数意見に光を当てる
会議では多数派の意見が優先されがちです。
リーダーが「少し違う考えを持っている人はいませんか」とあえて尋ねると、多様な意見が出やすくなります。
実際、ある中学校の学年会議でこの一言がきっかけとなり、隠れていた工夫が共有され、学級経営に活かされました。
(5) 「学び続ける姿」をリーダー自身が見せる
リーダーも完璧ではありません。
失敗を認め、学び直す姿勢を見せることは、若手にとって大きなモデルになります。
わたしが関わった学校では、校長先生が「自分もまだまだ学びたい」と口にした瞬間、職員室の空気が和らぎ、対話が増えた例があります。
これらは小さな工夫ですが、積み重ねることで「叱責や対立」ではなく「信頼と協力」を育てるリーダーシップにつながります。
4.Point:信頼をベースにしたリーダーシップが学校を変える
リーダーシップを「立場の力」として使うのではなく、「信頼を育てる力」として実践することが、これからの学校に必要です。
信頼をベースにした関係性があるからこそ、意見の違いを安心して出し合うことができ、子どもにとって望ましい大人の姿を示すことができます。
学校は学びの場であると同時に、働く大人たちの関係性そのものが教育的なメッセージになる場所です。
先生方一人ひとりが「どうリーダーシップを育むか」を考えることが、子どもたちへの最大の贈り物になると思います。
まとめ
ニュースで取り上げられた出来事は、驚きとともに議論を呼びました。
しかし、そこから「誰が悪いか」を探すのではなく、「これからのリーダーシップの姿」を考えるきっかけにすることが大切です。
- リーダーシップは立場ではなく関係性で育まれる
- 背景を共有し、場を選び、少数意見を尊重する
- リーダー自身が学び続ける姿を示す
これらの視点を意識することで、学校の人間関係はしなやかに変わっていきます。
子どもたちが安心して学べる環境をつくるために、先生方自身が「信頼を基盤としたリーダーシップ」を実践してみてはいかがでしょうか。