“一部の人だけが動く”組織を変える――協働を引き出すファシリテーション

1.Point:一部の人に依存する組織から、みんなで支え合うチームへ

学校という組織では、どうしても「動ける人」「責任感の強い人」に仕事が集中しがちです。

しかし、一部の人に頼り切ったままでは、組織は持続しません。
やがて疲弊や不満が生じ、雰囲気も重くなってしまいます。

協働とは「みんなが同じことをする」ことではありません。
それぞれが得意や関心を活かして役割を担い、互いに支え合いながら前に進む関係です。

そのために必要なのは、リーダーや管理職が「全員が参加できる関わり方」をファシリテーションによって意識的に設計すること
これは単なるスキルではなく、チーム文化を変えるための姿勢でもあります。

2.Reason:協働が生まれにくい背景と、負担集中が起きる心理的メカニズム

「なぜ一部の人に仕事が集中してしまうのか」。
そこには、学校組織特有の構造と心理が複雑に絡み合っています。
いくつか代表的な背景を見てみましょう。

◆責任感の強い人への“無意識の依存”

周囲は「○○先生ならきっとやってくれる」と期待し、頼みやすい人に仕事が集中します。
頼まれた側も「断ったら迷惑かける」と抱え込みやすい。
これは一種の「役割固定化」であり、同じ人ばかりに負荷がのしかかる要因です。

◆仕事を振ることへの心理的ハードル

「忙しそう」「負担を増やしたら悪い」という遠慮が先立ち、分担の声をかけにくくなります。
結果的に、声をかけやすい人に偏る。
日本的な職場文化では「察する」「空気を読む」ことが重視されるため、なおさら頼みづらさが強まります。

◆組織内での発言・意思決定の非対称性

年齢・経験・立場による力の差があり、「決まった人が決める」「若手は黙る」構図が固定化されやすい。
これが続くと「どうせ意見しても変わらない」という学習性無力感が広がり、参加意欲が低下します。

◆同調圧力と「目立ちたくない」心理

周囲と違う行動を避けたいという同調傾向から、新たに動き出そうとする人が現れにくい。
とくに若手や中堅は「浮いてしまうのでは」と不安を感じやすく、静観することを選びがちです。

こうした要因が重なると、学校は「静かな分業社会」のようになってしまいます。

一部の人に業務が集中し、他の人は「見守るだけ」になる構図。
これが続くと、動いている人は燃え尽き、動いていない人は無力感や疎外感を深めていきます。
心理学的には「傍観者効果」「責任の拡散」とも似た現象です。

「誰かがやってくれる」という前提が、無意識に主体的な参加を抑えてしまうのです。
だからこそ、意識的に「みんなが関わる設計」をファシリテーションで組み込む必要があります。
自然に任せているだけでは、協働は生まれにくいからです。

3.Example:協働を引き出すための具体的ファシリテーション術

では、どうすれば「一部の人だけが動く」状況を変えられるのでしょうか。
わたしが現場や研修で関わってきた先生方の実践を交えながら、効果的だった方法をご紹介します。

①「役割」を“人”ではなく“機能”として再定義する

ある中学校の学年主任・A先生は、学年行事の準備が毎年ごく一部の先生に集中する状況に悩んでいました。
そこでA先生は、準備作業を「人ベース」ではなく「機能ベース」で洗い出すことにしました。
たとえば「①全体設計」「②備品手配」「③当日の進行」「④ふり返り記録」といった具合に業務を細分化し、ホワイトボードに書き出して「どれならできそうか」希望を募ったのです。
すると、これまで手を挙げなかった若手が「記録ならできます」と名乗り出ました。
「人に頼む」より「機能を担う」ほうが心理的ハードルが低いため、参加しやすくなったのです。
役割を“人”で固定せず“機能”として扱うことは、参加の間口を広げ、偏りを防ぐ強力な方法です。

②「小さな貢献」を見える化して称える

協働文化を育てるうえで、実は「小さな一歩の価値づけ」が非常に大切です。
「資料を印刷しておいてくれた」「会議中にタイムキーパーをしてくれた」――こうした行動は軽視されがちですが、集団の運営には欠かせません。
ある小学校の教頭・B先生は、職員会議の最後に「今日、誰のどんな小さな貢献があったか」を2〜3人に話してもらう時間を設けました。
「◯◯先生が資料の配布を手伝ってくれたおかげでスムーズに進みました」
「××先生が率先して片づけをしてくれて助かりました」
これを続けるうちに、「ありがとう」が自然に飛び交うようになり、徐々に動く人が増えていきました。
称賛は脳の報酬系を刺激し、再び行動したいという内発的動機づけを高めます。心理的安全性の土台にもなります。

③「相談」から「共創」へと会話の質を変える

「〜してもいいでしょうか」「〜でいいでしょうか」といった“承認を得る相談”ばかりが続くと、組織は受け身の文化に傾きます。
これを「こうしたいと思うのですが、どうすれば実現できますか」という“共創的対話”に変えていく必要があります。
ある高校の学年主任・C先生は、会議で出た提案に対して「できる・できない」で答えず、「どうすればできるか」という視点で返すことを徹底しました。
「それを実現するために、どんなサポートがあればできそうですか?」
「一部でも試してみるとしたら、どこからがやりやすいでしょう?」
この問いかけにより、「言っても無駄」という諦めムードが薄れ、「一緒に考える」空気が広がっていきました。
結果的に、若手が自発的にプロジェクトを立ち上げるまでになったのです。

④「協働の成功体験」を意図的につくる

協働文化を根づかせるには、「一緒にやったらうまくいった」という成功体験が不可欠です。
最初から大きな行事で挑戦するのではなく、小さくて負担の少ないプロジェクトを選びます。
たとえば、B先生は「月1回のミニ勉強会」を交代で開く取り組みを提案しました。
10分間の実践紹介+質疑5分だけの気軽な形式です。
最初はB先生自身がやり、その後「来月は◯◯先生、お願いできますか?」とバトンを渡していきました。
成功体験は自己効力感を高め、「また一緒にやってみよう」と感じさせます。
さらに重要なのは、終わったあとに「協働できたプロセス」そのものをみんなで振り返ること。
単なる成果よりも、「一緒にやれた」という感情記憶が次の協働を後押しします。

4.Point:協働は「仕組み」でつくられる文化

協働とは、偶然に起こるものではありません。
リーダーや管理職が、意図的に「みんなが少しずつ関われる仕組み」を設計することで初めて動き始めます。

  • 役割を機能に分解し、希望で選べるようにする
  • 小さな貢献を見える化し、称える文化をつくる
  • 会話を「相談」から「共創」へシフトする
  • 協働の成功体験を小さく積み上げる

これらのファシリテーション術は、一度に全部やる必要はありません。
小さく試してみて、少しずつ職員室に「一緒にやるのが当たり前」という空気を育てていけばいいのです。
わたし自身も、現場時代は何度も失敗しまし、今も実は失敗ばかりです。
でも、少しずつ仲間と一緒に動けるようになったとき、組織として活動することの面白さを感じるようになりました。

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