“忙しすぎて話せない”職員室に風を通す――日常会話から始めるファシリテーション

「毎日バタバタで、同僚とゆっくり話す時間なんてない」「気づけば、職員室がただの“作業場”になっている」
――そんな実感はありませんか。

忙しさが常態化した職員室では、雑談や何気ない声かけが減り、相談や協力の糸口も見えにくくなっていきます。

わたしも学校現場にいた頃、日々の業務に追われて周囲とほとんど会話を交わせなかった時期がありました。
けれど、心理学やコーチングを学ぶ中で、「小さな対話」が職員室全体の空気を変え、協力しやすい関係づくりの出発点になることを知りました。

この記事では、忙しい中でも無理なくできる“日常会話から始めるファシリテーション”のコツをご紹介します。
先生方の日々に、そっと風を通していきませんか。

1.Point:雑談は「余分なこと」ではなく、協働を生む土台

多忙な学校現場では、「雑談している暇なんてない」と思われがちです。

けれど、実は日常的なちょっとした会話こそが、職員室の空気をやわらげ、協働の土台をつくっています。
人は安心できる相手にしか相談や協力を求められません。
だから、表面的には業務に関係なさそうな日常会話が、関係づくりにおいては最も重要な「仕事」でもあるのです。

つまり、職員室に風を通すために必要なのは、大掛かりな改革や制度ではなく、日常の会話をファシリテートする姿勢です。

管理職やミドルリーダーがそれを意識的に仕かけることで、職員室は「作業場」から「チーム」へと変わっていきます。

2.Reason:なぜ今、職員室から会話が消えつつあるのか

では、なぜ職員室から会話が減ってしまうのでしょうか。
これは単なる忙しさだけでなく、学校という職場に特有の背景が複雑に絡んでいます。

◆業務の細分化と個別化

学校の仕事は近年、急速に細分化・多様化しています。
生徒指導、行事、ICT、働き方改革、保護者対応……それぞれが専門的かつ分業的に進められ、担当以外が関わる余地が減りました。
その結果、「自分の持ち場に集中する」意識が強まり、自然な横の会話が起きにくくなっています。

◆時間的・心理的余裕の欠如

放課後もぎっしり会議や事務仕事が詰まり、ほっと一息つける時間がありません。
しかも「みんな忙しいのだから、話しかけたら悪い」という遠慮も働きます。
忙しさは「話しかけること」への心理的コストを上げ、沈黙を常態化させてしまうのです。

◆上下・横の関係性の固定化

職員室には、年齢や経験年数、立場による見えないヒエラルキーがあります。
「自分なんかが話しかけていいのか」「余計なことを言って煙たがられたらどうしよう」と感じる若手は少なくありません。
また管理職や主任も、「話しかけると邪魔になるかも」と気を使いすぎてしまい、結果的に距離が広がってしまいます。

◆雑談=“無駄”という思い込み

日本の職場文化では、「無駄を省く」ことが美徳とされやすい傾向があります。
そのため、「雑談していると怠けているように見える」と考えてしまう先生も少なくありません。
しかし、心理学的には雑談はチームビルディングに不可欠な要素であり、欧米では「雑談を戦略的に取り入れる」研修さえ存在します。
こうした背景から、職員室は「静かな作業場」になりがちです。
でも、その沈黙の中で、先生たちは孤立し、相談や協力をためらうようになってしまいます。
だからこそ、忙しい中でも「会話の回路」を取り戻すために、ファシリテーションという視点が必要なのです。

3.Example:日常会話をファシリテートする具体的な実践

ここからは、わたしが現場や研修で関わってきた管理職や主任の先生方が、実際に行っていた「日常会話を活性化する」ための実践をご紹介します。
どれも大がかりな時間や労力を要するものではありません。
むしろ、「わずかな意識」で職員室の空気が変わることに驚かされるものばかりです。

①「声かけの習慣」を小さく設計する

中学校の教頭だったA先生は、毎朝職員室に入るとき、必ず5人の先生に
「おはようございます」「昨日はおつかれさまでした」と目を見て声をかけることを日課にしました。
最初はルーティン的でしたが、次第に返ってくる笑顔や雑談が増え、「朝の職員室が明るくなった」と言われるようになりました。
「話題を提供する」のではなく「存在を承認する」ことが、信頼感の入り口になります。
心理学でも、挨拶や軽い声かけは「社会的承認欲求」を満たし、安心感や帰属感を高めるとされています。

②「他愛ない話」を意図的に交える

学年主任のB先生は、打ち合わせの冒頭で毎回「小ネタ」を一言入れるようにしていました。
「今朝、通勤中に虹が出てたんですよ」「この前、生徒が面白い質問をしてきて…」といった一言です。
すると、他の先生も自然と「うちのクラスでは…」と話し出し、打ち合わせが柔らかい雰囲気になりました。
「雑談から始める」と決めることで、話題のやりとりがしやすくなるのです。
このような「ウォーミングアップ的雑談」は、ブレインストーミングや創造的対話を促すうえでも効果があると心理学研究でも示されています。

③「感謝と労い」を口にする文化を育てる

高校の教頭だったC先生は、「会議後に必ず誰かをねぎらう」習慣をつくりました。
「○○先生、資料づくり大変だったと思います。ありがとうございました」といった一言です。
最初は形式的でしたが、徐々に他の先生も「××先生、子どもへの対応おつかれさまでした」と言うようになり、自然と会話が増えていきました。
感謝は言語化されて初めて伝わります。
心理学的にも、承認は自己効力感と関係性満足度を高め、行動意欲を引き出す力があります。

④「相談ハードル」を下げる声かけをする

多忙な職員室では、「こんなことで相談していいのか」と迷ってしまい、問題を抱え込む先生が少なくありません。
管理職や主任が「何かあれば、小さなことでもいいから気軽に話してね」と普段から伝えておくだけで、相談のハードルはぐっと下がります。
B先生は、昼休みに職員室を歩きながら「困ってることとか、手伝ってほしいことない?」と軽く声をかけていました。
その一言で、溜め込んでいた悩みを打ち明けてくれる先生が増えたそうです。
相談の第一歩は、実は「話しかけやすい空気」をつくることです。

⑤「立ち話の場」を意図的につくる

「話したいけど座っている席が離れていて声がかけにくい」という声もよく聞きます。
そこで、ある中学校の教頭は、職員室に小さな「共有ホワイトボード」コーナーを設け、日替わりで「今日のひとこと」「子どもとの心あたたまるエピソード」を書いてもらうようにしました。
書き込みをきっかけに立ち話が生まれ、「自然な会話の接点」ができました。
物理的な「会話のハブ」をつくることは、意外なほど効果的です。

4.Point:日常会話はチームづくりの最も小さく、最も強い一歩

雑談や声かけは、決して“余分なこと”ではありません。
それは、職員室を「静かな作業場」から「安心してつながれるチーム」へと変える第一歩です。

  • 挨拶や一言の声かけで、存在を承認する
  • 小さな感謝や労いを口にして、関係を温める
  • 他愛ない話題を交え、会話の回路をひらく
  • 立ち話や雑談の「きっかけ」を意図的につくる

これらは一見すると些細なことですが、継続することで確実に「相談や協力のしやすさ」が高まります。

わたしが関わってきた学校でも、このような小さな取り組みが、結果的にチーム文化を変えていきました。

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