指示では動かない時代に―“問いかけ”で相手の力を引き出すコーチング的関わり

「何度も伝えているのに、動いてくれない」
「説明したはずなのに、なぜやらないのか」
学校のリーダーとして、こんな思いを抱えたことはありませんか。

職員室の中で、何度も声をかけ、資料も渡し、手順も示した。それでも、動きが鈍い。
苛立ちやあきらめがにじむ瞬間。もしかしたら、あなたも今、そんな状況にいるのかもしれません。

わたしも現場で何度も、そしてコーチングの現場でも何度も、この問いに出会ってきました。
どうすれば、「指示」ではなく、「自発的な行動」が生まれるのか——。

今日はそのヒントとして、「問いかけによるコーチング的な関わり方」を紹介します。
相手の内側に眠っている“考える力”や“やる気”を、引き出すような関わり。
実はこれは、特別なスキルではなく、ちょっとした“問いの工夫”から始まるのです。

「伝える」から「引き出す」へ。
そんな対話の力を、一緒に探ってみませんか。

Point:伝えるより、問いかけで「引き出す」

リーダーとして大切なのは、「どう伝えるか」ではなく「どう問いかけるか」です。
つまり、指示や説明よりも、相手の内側から行動を引き出す問いかけこそが、チームを動かす力になります。

もちろん、「早く動いてほしい」「ズレなく伝えたい」という気持ちもよく分かります。
でも、それだけでは相手の主体性や納得感は育ちません。

コーチング的な問いかけは、相手の思考を促し、「自分で考えて動く」を支えるかかわり方です。
それは、リーダーが手放すことから始まる、信頼にもとづいた関係性の築き方でもあります。

Reason:なぜ「問いかけ」が必要なのか

では、なぜ今の学校現場で「問いかけ」が必要なのでしょうか?
わたしが現場で出会った先生方の声を紹介しながら、背景をひもといていきます。

「ちゃんと説明しているのに…」という悩みの裏にあるもの

ある中学校の主任の先生が、こんなことを言っていました。
「週案も出してるし、指示も出してるんです。でも、伝わっていないんです。確認しても『あ、見てませんでした』って言われると、もう…」

このような悩み、先生方も経験があるのではないでしょうか。

  • 情報は出しているのに読まれない
  • 指示はしているのに行動が伴わない
  • 会議で共有したはずなのに、動きがバラバラ

これらの背景には、「伝える側」と「受け取る側」の間にある“温度差”があります。
そして、この温度差は「聞き手の意欲」や「主体性」によって左右されます。

つまり、いくら情報を“伝えても”、相手が受け取る準備ができていなければ、行動にはつながらないのです。

指示だけでは、行動の「意味」が届かない

もう一つ、重要なのが「意味づけ」の不足です。

たとえば、

  • 「今週中に○○を提出して」
  • 「この取り組みを来月から始めます」

こうした“what(何をするか)”の伝達はしていても、
“why(なぜそれが必要なのか)”や“how(どのように関わるか)”について、本人が考える余白がないと、行動は形式的になります。

先生方もおそらく、生徒に指導する際、「なぜこの学習が大切なのか」を伝えることを大事にしているはずです。
それと同じことが、職員にも言えます。

教師の自律性を支える「関わり」が求められている

近年、学校現場では「自律的な教師像」が求められるようになってきました。
中央教育審議会でも、「教職員の主体的な学び」や「組織的な協働」が提言されています。

しかし、その自律性は“放任”や“丸投げ”では育ちません。
必要なのは、「あなたはどう考える?」「どんな工夫ができそう?」といった“関心と応答”を含む問いかけです。

こうした関わりこそが、自律を支える土壌になります。
そして、それがコーチング的な関わりの本質です。

Example:問いかけが職員の行動を変えた3つの実例

ここからは、わたしが関わってきたリーダーの先生方の事例を3つ紹介します。
それぞれの問いかけが、どのように職員の行動に変化をもたらしたのかを見ていきましょう。

事例1:「あなたは、どう思った?」

ある小学校の教頭先生が、若手職員の授業観察後にかけた一言です。

以前は、「ここはもっとこうした方がいいね」「この部分、説明が不足していたかな」といったアドバイスを中心にしていたそうです。
ところが、ある時期から方針を変え、「どう感じた?」「やってみて、どこがうまくいったと思う?」と問いかけるようになりました。

その結果、若手の先生は「自分で振り返る力」が育ち、次第に「次はこうしてみたいんですが」と自ら提案するようになったのです。

事例2:「今の仕事、どこに手ごたえ感じてる?」

これは、ある中学校の主任の先生が職員室での何気ない会話で使っていた問いです。

あえて「困っていること」ではなく、「手ごたえ」というポジティブな視点から問いかけたことがポイントです。
最初は、「うーん、難しいなあ」と戸惑っていた先生も、徐々に

  • 「○○の生徒とようやく距離が近づいた気がします」
  • 「保護者対応で少しだけ自信ついたかもしれません」

と話すようになり、そのあとで「でも、実はちょっと悩んでることがあって…」と本音を話してくれたそうです。

「うまくいっていることを認める問い」は、職員の安心感と本音を引き出す力があります。

事例3:「これ、どう工夫すれば進めやすくなりそう?」

新しい取り組みに対して、職員の反応が冷たかった学校での実践です。

校長先生は、ただ一方的に「やってください」と言うのではなく、
「このままではうまくいかないのもわかっています」「どこに工夫の余地があるか、一緒に考えてほしい」と伝えました。

すると、職員たちは「それなら、時間割を見直したほうがいいかも」「説明の場面が足りない」といった具体的な提案を出し始め、取り組みが軌道に乗り始めたのです。

一方向の指示ではなく、改善の「共同プロジェクト」として関わるスタンスが、チームの協働意識を生みました。

Point:チームの力は「問いかけ」で育つ

人は、指示されたときよりも、「自分で考えた」と感じたときの方が、行動に責任と意味を感じます。
だからこそ、問いかけが重要です。

コーチング的な関わりとは、相手の力を信じて、答えを「引き出す」姿勢です。

  • 「あなたはどう思う?」
  • 「どんな工夫ができそう?」
  • 「うまくいった点はどこ?」

こうした問いの積み重ねが、職員の意欲を育て、チームの関係を耕します。

ぜひ、明日の会話から一つ、問いかけを変えてみてください。
あなたの問いが、チームの空気を変えていきます。

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