教室と教師チーム運営の違い:主任・主幹が最初に戸惑うこと

Point:ミドルリーダーが最初に戸惑う理由と向き合い方

ミドルリーダーになったとたん、「なんだか急にやりづらくなった」と感じる先生は少なくありません。
その違和感の正体は、「教室運営」と「教師チーム運営」がまったく異なる構造のうえに成り立っているからです。

子どもに対しては、ある程度、指示や枠組みで動かすことができます。
しかし、教師同士は対等な関係性のなかで協力し合う必要があります。
しかも、お互いに違う考え方、やり方、プライドを持っています。
つまりミドルリーダーとして求められるのは、「動かす力」ではなく「巻き込む力」。

指導ではなく対話、命令ではなく合意形成。
この切り替えができるかどうかが、ミドルリーダーとしての出発点になります。

一方で、「うまくやらなきゃ」という焦りが空回りを生み、かえって信頼を失ってしまうこともあります。
だからこそ大切なのは、「最初にうまくやろう」とすることではなく、「違いを理解しながら、少しずつ関係を築く」姿勢なのです。

Reason:なぜミドルリーダーになると急に「やりづらさ」を感じるのか?

「ミドルリーダーになったら、なんだか教室よりうまくいかない…」
これは多くの先生がぶつかる、いわば“ミドルリーダーあるある”です。
では、なぜこの「やりづらさ」が生まれるのでしょうか。

①「相手が変わる」と、コミュニケーションの力学も変わる

教室の子どもたちは、基本的には先生の指示を前提に動きます。
教師には評価権や支援の役割があり、子どもたちは“指導される側”として協力しやすい関係にあります。

しかし、ミドルリーダーとして関わるのは「大人同士」です。
職歴も価値観も異なる教師たちは、自分のやり方や信念を持っています。
そうした相手に「こうしてください」と言ったところで、素直に動いてくれるとは限りません。納得感が重要となってきます
相手を尊重しながら、対話で合意をつくる。
これは、子どもとの関わりとはまったく異なる“別次元のスキル”なのです。

②「力を抜く」のが逆にむずかしい

まじめで責任感の強い先生ほど、ミドルリーダーになると「ちゃんとまとめなければ」「結果を出さなければ」と頑張りすぎてしまいます。さらに自分もクラスの担任をしていると、学年も学級もと無理をしてしまいます。

ところが、張り切るほどにチームとの距離が生まれ、孤立感や空回りを感じてしまう。
これは「リーダーシップの逆説」です。
心理学では、権限ではなく“関係性”に基づくリーダーシップが、組織にとって最も有効だとされています。
つまり、仕事で頑張っても、「関係づくり」が雑になってしまうと、周囲の信頼を得にくくなるのです。

③「自分の価値」が問われる場面に立たされる

ミドルリーダーになると、会議や話し合いの場で、様々な判断や調整を求められます。
しかもそれらはほとんどが白黒はっきりしない、グレーな問題に対する決断。
そのとき、「自分の意見が否定されたらどうしよう」「ベテランの先生に反論されたら困る」そんな不安が一気に押し寄せます。

教室では、教師としての立場が比較的守られていました。
しかし、教師チームのなかでは「自分自身の在り方」が問われるのです。
これは誰にとっても、心理的に大きなプレッシャーになります。

ミドルリーダーとしての第一歩に感じる「違和感」や「やりづらさ」には、このように心理的・構造的な背景があります。
問題なのは、あなたの能力ではなく、前提条件が変わったことへの戸惑いなのです。

Example:ミドルリーダーとして“巻き込む”ための3つの工夫

「指導する」のではなく「巻き込む」

これがミドルリーダーの仕事で最初につまずきやすいポイントです。
では、具体的にどんなことを意識すればよいのでしょうか。
ここでは、わたし自身の失敗や支援経験をもとに、3つの工夫をご紹介します。

①まず「聴く」から始める:意見ではなく“気持ち”を汲む

ミドルリーダーになったばかりの頃、「まず自分がビジョンを示さなければ」「自分のクラスで結果を出さなければ」と張り切って、学年会でさまざまな提案を出したことがあります。

ところが、反応は薄く、やがて「ひとりで進めている感じ」が強くなり、孤立してしまいました。
そのとき、先輩から言われたのが「頑張っているのはわかるけど・・・」というひと言。
正直、ハッとしました。相手の考えや温度感を聞かず、自分だけが走っていたのです。
それ以降、「提案」よりも先に「ヒアリング」を意識しました。

たとえば…

  • 会議の冒頭で「最近、どうですか?」と一言声をかける
  • 相手の発言に対して「なるほど、そう思われるのですね」と返す
  • 違う意見でも「そういう考えも大事ですね」といったん受け止める

「聴くこと」は、チーム運営において“最初のリーダーシップ”です。
人は、自分の意見を聴いてもらえたときこそ、相手の提案を受け入れやすくなります。

②「見えない感情」を扱う:事実より“温度差”に注目する

ある中学校で、学年主任の先生が「行事の分担表を整えたのに、まったく機能しない」と悩んでいました。
話をよく聞いてみると、メンバーには「今年は無理をしたくない」という疲労感が広がっていたのです。

形式上の公平性ではなく、「今の気持ち」を読み取る力。
これは、心理的なリーダーシップにおいて欠かせません。

たとえば、こんな問いかけが有効です

  • 「この案、ちょっと無理があるとしたら、どこでしょう?」
  • 「いま、気になっていることってありますか?」
  • 「この案、実際にやるとしたら、どんな不安がありますか?」

こうした言葉は、“感情の揺れ”に目を向けるための手がかりになります。
感情を見ないで進めると、やがて反発や無関心として返ってくることが多いのです。

③「自分がやる」ではなく「誰とやるか」を考える

ミドルリーダーになると、「責任感」から何でも自分でやろうとしてしまいがちです。
でも実は、チームが動き出す鍵は、「誰に何を任せるか」にあります。

ある若手の先生に、「○○の件なんだけど、私の相談役になってくれませんか?」とお願いしたとき、「任されるって、ちょっと嬉しいですね」と言ってもらったことがあります。

大切なのは「振る」のではなく「託す」こと。
仕事のやり方を細かく指示するのではなく、目的だけ共有して、任せる余白をつくるのです。 

  • 「このこと、○○先生が得意そうなのでお願いできますか?」
  • 「自分じゃない方が伝えやすいと思うんですが、助けてもらえますか?」
  • 「先生のやり方でいいので、形にしていただけませんか?」

リーダーは“任せる勇気”が求められます。
それによって、メンバーは「自分ごと」として関わってくれるようになります。

こうした小さな工夫を積み重ねていくことが、やがてチームに「信頼の輪」を育てていきます。
ミドルリーダーとしてのスタートは、“結果”より“関係性”を耕すことから始まるのです。

Point:主任としての一歩は「聴き、汲み、任せる」から始まる

主任になって最初にぶつかる「やりづらさ」は、能力の不足ではありません。
子どもと向き合う力と、大人と関係を築く力は、似ているようでまったく異なるスキルなのです。

そしてその違いに気づいたときこそ、本当の意味での“学び直し”が始まります。
大人のチームを動かすには、次の3つの意識が大切です。 

  • 指示する前に「聴く」こと
  • 意見の背景にある「気持ち」を汲むこと
  • 自分でやるのではなく「任せる」こと

ミドルリーダーという役割に完璧さは必要ありません。
むしろ、揺れながら進む姿こそが、周囲の信頼を呼び込むのです。

「自分にはまだ早い」「うまくできない」と感じるその不安は、きっと誰もが抱えています。
だからこそ、まずは今日、誰かの声に丁寧に耳を傾けてみてください。
チーム運営の第一歩は、そこから始まります。
そしてそれは、あなた自身を大切にすることにもつながっていきます。

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