“断る”ことは、信頼を壊すことではありません

「これ、お願いできるかな?」
「〇〇先生なら、きっと引き受けてくれると思って……」
——こんなふうに、頼まれごとが次々に舞い込む。
そのたびに「いやとは言えない」「断ったら悪い気がする」と感じて、無理をしてでも引き受けてしまう。

ここ数年、先生方からの相談が増えている内容なのですが、もしかしたら、あなたも今、そんな状態かもしれません。
「いい先生でいたい」「嫌われたくない」「チームを乱したくない」「人がいないから」
そう思えば思うほど、断ることに罪悪感を持ち、気づけば抱えきれないほどの仕事に追われる。

しかし、「断る」ことは、信頼を壊すことではありません
むしろ、自分の限界や誠実さをきちんと伝えることで、より深い信頼関係が生まれることもあると。

この記事では、そんな「断ること」にまつわる誤解を解きほぐしながら、
信頼を損なわずにNOを伝えるための、実践的な視点やスキルをお伝えします。

「全部引き受けて、もう限界……」
そう感じているあなたにこそ、読んでいただきたい内容です。

1.Point:断ることは、信頼を壊すことではない

頼まれごとを断ることに、罪悪感を持つ先生は少なくありません。
けれど、断ることは、相手との信頼を壊す行為ではありません。
むしろ、自分の限界や事情を誠実に伝えることで、「本当に信頼できる人」だと感じてもらえることすらあります。

だからこそ、「断る」ことをネガティブにとらえすぎず、
丁寧に、落ち着いて、「NOを伝える」練習を重ねていくことが大切です。

2.Reason:なぜ「断ること=信頼を壊す」と感じてしまうのか?

「頼まれごとを断れない」背景には、いくつかの心理的な働きがあります。
代表的なものを紹介します。

1. 承認欲求と「いい先生願望」

「期待に応えたい」「頼られることがうれしい」——それ自体は悪いことではありません。
けれど、その思いが強すぎると、「頼られる=自分の存在価値」と結びついてしまい、断ることに大きな抵抗を感じてしまいます。

2. 人間関係のこじれを避けたい気持ち

学校現場は人間関係が密接です。だからこそ、「断ったら気まずくなるかもしれない」「冷たい人だと思われるかも」と不安になるのは自然なことです。
しかし、この不安が強すぎると、「人に合わせ続ける人生」になってしまいます。

3. 学校の“がんばる文化”

「先生は忙しくて当たり前」「断るなんて身勝手だ」そんな空気感が、今も学校の中には根強く残っています。
特に管理職や先輩からの頼みごとは「断れないもの」と感じやすく、それが精神的なプレッシャーになります。

4. 人がいなくて、学校がまわらないと感じる

今、教育現場はとにかく人手不足。そのため自分がやらないと学校が回らないと感じてします。
そのため自分がやらないと学校が回らないと感じてしまいます。
「この仕事を引き受けなければ、子どもたちに迷惑がかかる」「同僚がさらに大変になる」という責任感から、つい無理をしてでも引き受けてしまうのです。

でも、少しだけ立ち止まってみてください。
あなたが今、何も言わずに無理をして引き受けている姿を見て、
周囲の人は「まだまだ余裕がある」と誤解しているかもしれません。
逆に、「いっぱいいっぱいです」と伝えることが、職場全体の健全な働き方をつくる第一歩になることもあります。

3.Example:断ることで信頼を築いた3つの実例

わたしがコーチングやカウンセリングで関わった先生たちの中に、
「断ること」でむしろ信頼を得た例がいくつもあります。
その中から、3つの印象的なエピソードをご紹介します。

事例1:若手女性教師(30代前半)

副担任として学年の中核を担っていた彼女は、文化祭、委員会運営、研修準備など、毎年多くの仕事を頼まれていました。
ある日、「もうパンクしそうです」と泣きながら相談に来たのです。
彼女と一緒に整理していく中で、
「それはあなたじゃなくてもできる仕事ですね」
「この仕事は断っても支障がないですね」
ということに気づき、はじめて「それは今回は難しいです」と言ってみました。
結果、意外にも先輩教師は「そっか、それならほかの人にお願いするよ」とあっさり納得。
その後、彼女の仕事量は大きく減り、「正直に言ってくれてありがたかった」と言われたそうです。

事例2:中堅男性教師(40代)

周囲から“便利屋”のように扱われていた先生です。
学年行事もICTも、生徒対応もすべて一手に引き受け、「いつも忙しそう」と周囲からは思われていました。
あるとき体調を崩し、勤務時間中に倒れてしまいます。
それを機に、彼は「何でもやる人」から、「できることを誠実にやる人」に変わる決意をします。
断るときには、
「今この仕事が佳境で、力を注ぎたいから、今回はごめんなさい」
というように、自分の優先順位を明確にしながら伝えるようにしました。
それ以来、依頼は減ったのに、信頼はむしろ高まり、学年主任に推薦されるようになったという話です。

事例3:校長に相談できなかった主幹教諭

「管理職からの依頼は断れない」と思い込み、深夜までの勤務が常態化していた主幹の先生。
心身ともに限界が来たとき、「言わなきゃダメだ」と意を決して校長に話したところ、
「それを言ってくれて助かったよ。気づかなかった」と逆に感謝されたのです。
それからは、校長自身も依頼前に「今、大丈夫そう?」と聞くようになり、関係性も改善。
「言ってよかった。断ることが悪いことではなかった」と、何度も言ってくれました。

これらの事例に共通するのは、
「断る」ことよりも、「無理を続ける」ほうが周囲との信頼を損なう可能性があるという事実です。
そしてもう一つ——
「丁寧に伝えれば、ちゃんと伝わる」ことも実感されたことでした。
忙しくしているあなたは“仕事がとてもできる人”と思われており、“限界でいっぱいいっぱいな人”とは見られていないのです。

4.Point:丁寧なNOは、誠実さの表現です

もう一度、強調します。
断ることは、信頼を壊すことではありません。

もちろん、ぞんざいに断れば関係が悪化するかもしれません。
でも、「できること」「できないこと」を言葉にするのは、
あなた自身を守りながら、相手に誠実でいるための大切な行為です。

▼たとえば、こんなふうに伝えてみてはいかがでしょうか?

  • 「すみません、今これ以上引き受けると、責任を果たしきれないと思うので…」
  • 「その件については、〇〇先生の方が適任かもしれません」
  • 「興味はあるんですが、今は本務を優先したくて……」
  • 「家庭の方がいろいろ大変なので、今は引き受けられません」

断ることが苦手な先生は、まずは一言だけでもいい。
「すぐには答えられないので、考えさせてください」
——それだけでも、自分を守る大事な一歩になります。

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