趣味が教師を育てる―教壇の外で見つかる学び

最近、仕事以外の時間に何をしているかわからない」「趣味なんて持つ余裕がない」――そんな声を、ベテランの先生方からよく聞きます。
けれども実は、趣味を持つことこそが教師を成長させるのです。
自然の中で過ごす時間、楽器を奏でるひととき、あるいは家庭菜園で土に触れる体験。
それらは一見、仕事とは関係のないように見えますが、心をほぐし、視野を広げ、人としての深みを育ててくれます。
教育心理学でも、こうした「没頭体験(フロー)」が創造性や共感性を高めることが知られています。
教壇を離れて自分の世界を豊かにすることが、結果として子どもたちへのまなざしを温かくし、授業にもにじみ出ていくのです。
今回は、「趣味が教師を育てる」という視点から、仕事の枠を超えて学び続ける生き方について、一緒に考えてみたいと思います。
1.Point:趣味を楽しむことは、教師としての感性を磨く最良の学びです
「忙しくて趣味どころではない」と思うベテランの先生も多いでしょう。
しかし、趣味に没頭する時間は、決して“逃避”ではありません。
むしろ、心にゆとりを生み、子どもへのまなざしを豊かにする“再生の時間”です。
趣味は、教師の人間的魅力を育て、創造的な授業づくりや関係づくりの源になります。
2.Reason:教壇の外にある「学びの源泉」
教師という仕事は、他者のために生きる営みです。
だからこそ、自分を満たす時間を意識的に確保しなければ、やがて心が枯れてしまいます。
心理学者チクセントミハイが提唱した「フロー理論」によれば、人は没頭体験の中で最も幸福感を得るといいます。
何かに集中しているとき、時間を忘れ、内側から充足する感覚――それがフローです。
授業の準備や生徒指導も一見似た体験に思えるかもしれません。
しかし、仕事のフローは常に「他者評価」と隣り合わせです。
一方で、趣味のフローには「純粋な自己充足」があります。
他人のためでなく、自分の喜びのために時間を使う。
この「自己充足感」が、教育者としてのエネルギーを回復させるのです。
もう一つ大切なのが、「視野の拡張」です。
趣味の世界は、学校という小さな社会の外に新しい人間関係を広げてくれます。
年齢も職業も異なる人とつながることで、価値観が柔らかくなり、多様性への理解や共感力が自然と高まります。
たとえば、ある先生は陶芸を始めたことで「子どもが何かを失敗しても、それが味になる」と感じるようになったと話していました。
日常の中に「ゆるみ」や「遊び」を取り戻すこと――それこそ、成熟した教師の学びなのです。
3.Example:サーフィンが教えてくれた“波に乗る感性”
わたし自身、50を過ぎてからサーフィンを始めました。
最初は波に飲まれてばかりで、うまく立てず、何度も波に流されてばかりでした。
しかし、次第に「自然に逆らわない」感覚を覚えたのです。
波に乗るとは、力で押さえつけることではなく、「流れに合わせる」こと。
その感覚は、教育現場にも驚くほど通じるものでした。
たとえば、学生の気分が乗らない授業の日。
以前なら「どうして集中しないんだ」と焦っていましたが、今は「今日は小さな波の日」と受け止められるようになりました。
サーフィンが教えてくれたのは、「コントロールではなく共存」の感覚です。
また、同じく釣りや音楽、ガーデニングに夢中になる先生方からも、よく似た話を聞きます。
釣りをする先生は「静けさの中で自分を取り戻す時間」だと言い、
ギターを弾く先生は「音の余韻が、生徒の言葉を待つ心に通じる」と語ります。
それぞれの趣味が、その人の“授業の温度”を変えているのです。
趣味を通して得た感性や体験は、いつのまにか教室ににじみ出ます。
たとえば、自然に触れる趣味を持つ先生は、授業で「季節の変化」や「生命のつながり」を語るときの言葉がやわらかい。
旅が好きな先生は、生徒の好奇心を引き出す語り手になります。
つまり、趣味は教室の外で育まれる“もう一つの教師研修”なのです。
4.Point:趣味を持つことは、教師としての責任を軽くするのではなく、支えること
「そんなことをしている暇があるなら仕事を」と思う人もいるかもしれません。
けれど、趣味を持つことは怠けではなく、自分を整える責任の一部です。
燃え尽き症候群や感情の枯渇は、真面目な先生ほど陥りやすい。
だからこそ、意識的に“自分のための時間”をつくることが、長く健やかに教師を続ける秘訣です。
以下のような工夫を、少しずつ取り入れてみてください。
- 仕事以外の予定を、あえて先にカレンダーに入れる
- 「やらなきゃいけないこと」より「やりたいこと」を1日1つ
- 趣味を通じて出会った人との交流を大切にする
- 上手・下手より、「心が動く」かどうかを基準にする
こうした小さな積み重ねが、やがて大きな変化を生みます。
教師という仕事を長く続けるためには、“仕事以外の時間の質”が鍵になるのです。
まとめ:教壇の外にこそ、あなたを育てる波がある
趣味とは、「自分をもう一度、教師にしてくれる時間」だとわたしは思います。
サーフィンで波を待つように、時には立ち止まり、流れに身をまかせてみる。
その余白の中に、次の授業のヒントや、子どもへのまなざしの温度が育ちます。
どうか、自分の好きなことを遠慮せずに楽しんでください。
それは、教壇に立つあなた自身を磨き、そして何より、子どもたちに「生きる楽しさ」を伝える最高の教材になるのです。


