子どもに響く叱り方、響かない叱り方

  • 叱ったつもりなのに、子どもがポカンとしている
  • 同じことを何度言っても、行動が変わらない
  • あとから「先生に怒られてばかり…」と言われてしまう

こんなこと、感じたことはありませんか?
わたしも長年、学校現場にいて、そんな場面をたくさん見てきました。

叱るというのは、ただ注意することではありません。
子どもの心に届いて、初めて「叱った」と言えるのだと思います。
でも、響かせようとすればするほど、逆に響かなくなることもある――それが、叱る難しさです。

わたしは教師として20年、心理学の学びを深めてからさらに10年、
現場の先生や保護者、子どもたちと関わってきました。
そのなかで見えてきたのは、叱り方の違いによって、子どもの反応が大きく変わるという事実です。

今日は、そんな「子どもに響く叱り方と、響かない叱り方」の違いについてお話しします。
読んでいただければ、明日からの子どもとの関わり方が、少し楽になるかもしれません。

一緒に考えてみましょう。

Point|叱るなら「伝える」でなく「伝わる」を目指す

「叱る」とは、怒ることでも、正しさをぶつけることでもありません。
本当に大切なのは、「こちらの思いが子どもに届くこと」、つまり伝わることです。

わたしたちはつい、「ちゃんと注意した」「言うべきことは言った」と、自分の“伝えた感”に満足しがちです。けれど、どれだけ言葉を尽くしても、子どもが納得しない、表情がこわばる、行動が変わらない。
そんなとき、伝えたつもりでも、実は子どもには響いていないのかもしれません。

響く叱り方とは、子どもが「なるほど」と思えること。
反発や萎縮で終わらせず、「次からどうすればいいか」に目を向けられる関わりです。
そのためには、「言う内容」だけでなく、「どう伝えるか」「どう受け止められるか」に意識を向けることが求められます。

叱るという行為を「感情の発散」から、「関係性の中のコミュニケーション」へ。
その視点の転換こそが、響く叱り方の第一歩です。

Reason|なぜ叱っても響かないのか?その背景と心理的メカニズム

「同じことを何度も言っているのに、全然変わらない」
「響いてないのかな……」
「もうどう叱っていいのかわからない」
そんなふうに、叱ることに手応えを感じられなくなった経験はありませんか?
その背景には、大人側の“正しさ”と、子ども側の“受け止められる準備”とのズレがあることが少なくありません。

◆叱り方が響かない5つの典型パターン

① タイミングがずれている

たとえば、子どもが感情的になっている最中に叱っても、耳には入りません。
脳が防御モードになっているため、「今、何を言われているか」ではなく、「どう自分を守るか」に意識が向かいます。
このとき叱っても、反抗するか、黙ってやりすごすだけ。言葉は届きません。

② 人格を否定してしまっている

「本当にだらしない子ね」「あなたって、いつもそう」
こうした言い回しは、行動ではなく存在そのものを否定するメッセージとして受け取られます。
子どもは「また怒られた」ではなく、「自分はダメな人間なんだ」と思い込む危険さえあります。
結果として、反発か萎縮のどちらかに傾いてしまい、関係性にも傷が残ります。

③ 感情に巻き込まれている

先生自身がイライラしているときに出る叱責の言葉は、たとえ正しくても、
「怒られている」としか受け取られません。
その場は静まっても、子どもにとっては“威圧された記憶”だけが残り、
本質的な学びにはつながらないのです。

④ 伝えている内容が抽象的すぎる

「ちゃんとしなさい」「もっと考えて行動して」――
大人には意味が通じるこれらの言葉も、子どもにとってはあいまいで、
「何をどうすればよかったのか」がはっきりしません。
行動を改善するには、具体的なフィードバックが必要です。

⑤ 過去の出来事を蒸し返す

「前もそうだったよね」「また同じことして」
過去の失敗をセットで叱られると、子どもは「どうせまた怒られる」と思い、
今に目を向ける意欲が削がれてしまいます。
このパターンが続くと、子どもは“自分には無理”という学習性無力感に陥りやすくなります。

◆響かない叱り方は、関係性を損なう

叱るという行為は、「関係のなかでの行動修正のサイン」です。
つまり、関係性がなければ成り立ちません。

にもかかわらず、上記のような叱り方は、信頼関係を崩してしまうリスクがあります。
そして一度関係がこじれると、いくら正しいことを言っても、子どもは心を閉ざしてしまうのです。

とくに、思春期の子どもや、過去に傷ついた経験のある子どもほど、「誰に、どんな表情で、どういう声色で」言われたかにとても敏感です。
わたしが現場で関わってきた子の中にも、過去に先生からきつい言葉を受け、以降すべての大人の言葉に反発するようになってしまった子が何人もいました。

◆「叱る」ためには「聴く」が必要

また、響かない叱り方の背景には、「子どもの話を聴いていない」という構造もあります。
叱ることは、つい「こちらが言うこと」に意識が向きがちですが、その前に「子どもは今、どんな気持ちで、どんな事情を抱えているのか」を聴いておくことが、実はとても大切です。

ある養護教諭の先生が、わたしにこう話してくれたことがあります。
「叱られてきた子が保健室に来て、本当の理由をぽつぽつ話すことがある。先生には言えなかったけど、実はお腹が痛かったとか、家でお母さんとけんかしていたとか……」

つまり、大人の正論よりも、まずは子どもを理解しようとする態度がないと、言葉は空を切るのです。
響かない叱り方の背景には、伝え方の技術の問題と同時に、関係性への配慮の欠如や、子どもの心理状態への無理解があると言えます。
だからこそ、「何を言うか」ではなく、「どう関わるか」が問われてくるのです。

Example|響かせる叱り方の具体例と工夫

では実際に、「響く叱り方」とはどういうものなのか。
具体的な場面ごとに比較しながら考えてみましょう。

場面1:授業中にふざけている子どもへの対応

×よくある叱り方:
「何やってるの!ふざけないで!さっきも注意したよね!」

このような言葉は、先生の怒りをぶつけた形になりがちです。
一瞬静かになるかもしれませんが、子どもは「怒られた」という体験しか残らず、次にどうすればいいかが曖昧です。

○響く叱り方の例:
「今のあなたの行動で、周りの子が少し集中しづらくなっていたように見えたよ。どうすれば、もっとみんなが学びやすくなると思う?」

この言葉には、

  • “具体的な状況”に触れている
  • “相手に考えさせている”
  • “責めずに期待を込めている”
    という3つの要素が含まれています。

ここで大切なのは、「今のあなたをダメだ」と言うのではなく、「もっとよくなる力がある」と伝えること。
叱ることが、“成長のきっかけ”として届くようになります。

場面2:友達に強い言葉をぶつけた子への対応

×よくある叱り方:
「なんでそんなひどいこと言うの!相手がどんな気持ちになるか考えなさい!」

先生の気持ちはわかります。相手の子の気持ちも思うと、強く言いたくなります。
でもこのような叱り方は、責められたと感じた子どもが“防御モード”“反発モード”に入りやすくなり、素直に話を聞く余地がなくなります。

○響く叱り方の例:
「その言葉、もし自分が言われたらどう感じるかな? 今日は何があったのか、よかったら教えてくれる?」

ここでは、行動そのものを否定せずに、感情の共有理由の確認を優先しています。
叱るよりも「理解しようとする姿勢」が伝わることで、子どもは心を開きやすくなります。
先生が「対話を大切にしている」と感じられたとき、子どもは自分の言動に向き合う準備ができます。

場面3:繰り返す行動にどう向き合うか

×よくある叱り方:
「また!?前も言ったよね?なんで同じことばっかりするの?」

こうした言い方は、先生のフラストレーションを表していて、ある意味、当然の反応かもしれません。
でも、子どもにとっては「また怒られた」「どうせ自分はダメなんだ」と、自己否定感を強める結果になりがちです。

○響く叱り方の例:
 「前に話したことがうまくできなかったんだね。どんなときに難しく感じた? 一緒に次の方法を考えてみようか。」

この言い方では、「できなかった理由」に焦点をあてています。
そして、「一緒に考える」というスタンスが、子どもの“自分でなんとかしてみよう”という気持ちを引き出します。

叱り方を「関わり方」に変える工夫5つ

以下は、響く叱り方に共通するポイントです。

1.まず落ち着いて、自分の感情を整える

 → 怒りがあるときは、いったん深呼吸。5秒でも冷却時間をとるだけで、伝える力が高まります。

2.「何を」「なぜ」伝えるかを明確にする

 → ただ「叱る」のではなく、「どう変わってほしいのか」をイメージしてから声をかける。

3.子どもの状況や気持ちを想像する
 → 今、何を抱えている? 今日一日、どんな気分だった? 少しでも背景を想像できれば、言葉も変わります。

4.未来を向いた言葉を使う

 → 「どうすればよくなるか」「次はどうしようか」という視点に変えるだけで、子どものモチベーションも変わります。

5.叱ったあとのフォローを忘れない

 →「さっきはきつく言ってごめんね。でも、あなたには変われる力があると思ってるよ」
 このひと言で、子どもは「自分を大切にしてくれている」と感じます。

叱るとは、「悪い行動を責める」ことではなく、「よい方向に導く」ための関わりです。
だからこそ、子どもの尊厳を守りながら伝えることが、何よりも大切なのです。

Point|「叱り」を「信頼のメッセージ」に

叱ることは、「ダメ出し」ではなく「信頼のメッセージ」です。
子どもに伝えるその言葉には、「あなたには、もっと良くなる力がある」と信じる気持ちを込めることができます。

だからこそ、叱るときには「どうすれば伝わるか?」を意識してみてください。
感情のままに言葉を投げるのではなく、相手の心に届く形で差し出す。
それが、子どもの行動を変え、関係を育てることにつながります。

明日からできることは、ほんの小さな一歩です。

  • 叱る前に5秒、呼吸を整える
  • 「どうして?」より「どうしたら?」と声をかけてみる
  • 叱ったあとは、そっとフォローのひと言を添える

そんな小さな工夫が、あなたの叱る力を変えていきます。

叱ることに迷いがあるのは、子どもと本気で向き合おうとしている証拠です。
その優しさを大切に、これからも「伝わる関わり方」を一緒に探していきましょう。

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