管理職として「一皮むける」ために必要な意識の変容:成人発達理論の階梯

こんなこと、感じたことはありませんか

  • 管理職になってから、以前よりも判断が重く感じ、正解が見えなくなった。
  • 教育委員会の方針、保護者の要望、教職員の不満に挟まれ、どの期待に応えればいいのか分からない。
  • 努力しているのに空回りしている感覚があり、「自分はこの立場に向いているのか」と悩む。

若手の頃は、頑張れば成果が見えました。
主任時代は、動けば周囲がついてきてくれた。
ところが管理職になると、同じやり方が通用しなくなります。

「自分は本当に、この立場に向いているのだろうか」
そんな問いが、ふと頭をよぎることがあるかもしれません。

私は長年、学校現場とかかわり、コーチングやカウンセリングを続けてきました。
そこで感じるのは、「能力の問題ではない」 という実感です。

この記事では、成人発達理論、とくにロバート・キーガン(Robert Kegan)の理論を手がかりに、管理職として「一皮むける」ために必要な意識の変容を整理します。
スキルやノウハウでは説明しきれない、成長の壁の正体に光を当てます。

自分を責めるための理論ではありません。
これから先のキャリアを、少し楽に、少し自由に生きるための視点です。

管理職としての成長を、一緒に考えてみましょう。

1.Point:管理職としての壁は「能力不足」ではなく「意識の段階」にある

結論からお伝えします。

管理職として感じる行き詰まりの多くは、能力や努力の不足が原因ではありません。
多くの場合、「これまで機能してきた意識のあり方」が、次の段階では通用しなくなっているだけです。

成人発達理論、とくにキーガンの理論では、人は大人になってからも、ものの見方や意味づけの枠組みを段階的に変化させていくと考えます(Kegan, 1982, 1994)。

管理職として「一皮むける」とは、役職が変わることではなく、世界の捉え方そのものが変わることを指します。

頑張っているのに苦しい。
正解を探し続けて疲れてしまう。
それは、成長が止まっているサインではなく、次の段階に進む直前のサインかもしれません

2.Reason:なぜ管理職になると「これまでのやり方」が苦しくなるのか

キーガンは、人の発達を「主体(subject)」「対象(object)」の関係で説明しました。

  • 主体 : 自分そのものとして埋め込まれており、それによって世界を見ているもの。自覚できず、コントロールできない。
  • 対象 : 一歩引いて眺めることができ、意識的に扱えるもの。

若手から中堅の先生の多くは、キーガンのいう「環境に埋め込まれた意識(第3段階:Socialized Mind)」にあります。
この段階では、以下のような特徴があります。

周囲の期待が「主体」になっている

  • 「求められる役割を全うする」
  • 「組織の期待に誠実に応える」
  • 「自分を律して努力する」

これらが自分そのものとなっており、それに応えることが自己の存在意義になっています。
この段階では、役割遂行能力が高く、組織にとって信頼される存在です。

管理職になると「期待が複数化」する

ところが管理職になると、期待は一つではなくなります。

  • 教育委員会からの方針実行の期待
  • 保護者からの安全・対応の期待
  • 教職員からの働きやすさへの期待
  • 子どもたちの成長への責任

それぞれの価値観や要請が、同時に押し寄せてきます。
このとき、「すべてに応えなければならない」「管理職として正しい判断をしなければならない」という意識のままだと、心はすり減っていきます。

次の段階への移行が求められる

キーガンの理論では、これまで主体だった「期待に応える自分」を対象として扱えるようになることが、次の発達段階(第4段階:Self-Authoring Mind、自己主導的意識)への移行だとされます。

期待に縛られた自分を、少し離れた場所から眺める。
その力が、管理職に求められているのです。

3.Example:「一皮むけた」管理職の先生の変化

ある校長先生の事例を紹介します。

その先生は、とても誠実な方でした。
会議では全員の意見を聞き、調整に時間をかけていました。
ところが、どの判断をしても不満が出る。
「自分の決断が間違っているのではないか」そんな思いに、夜眠れなくなっていました。

対話の中で、その先生はこう語りました。
「管理職として、正しい答えを出さなければならないと思っていました」

そこで、問いを投げかけました。
「正しさは、誰が決めているのでしょうか」
「その正しさを、今の自分はどう扱っているのでしょうか」

しばらく沈黙が続いたあと、先生は言いました。
「正しさに、振り回されていました」

そこから、意識が少しずつ変わっていきました。

この先生に起きた変化

  • 「正しいかどうか」ではなく、「どの価値を、今回は優先するか」という問いで考えるようになった
  • 判断の重さは消えないが、背負い方が変わり、教職員との対話が増えた
  • 「校長が考えていることが見える」と言われるようになり、信頼感が生まれた

この変化は、スキル研修では起きません。意識の段階が一つ変わった結果です。

4.Point:意識の変容を促す三つの視点

管理職として「一皮むける」ために、現場で意識したい視点を整理します。

正解を探すのではなく、前提を問い直す

「何が正しいか」ではなく、「何を大切にしたいか」を自分に問う。
複数の価値観が対立する場面では、「何を優先するか」という選択として捉える。

期待に応える自分を、少し距離を取って眺める

「〇〇であるべき」という思い込みを、一度対象化してみる。
「この期待は、本当に今の状況で最優先すべきか」と問い直す余白をつくる。

判断を「自分の価値選択」として引き受ける

完璧な正解はないことを前提に、「今回は、この価値を選ぶ」という意思決定として判断を行う。
それは孤独な作業ではなく、対話を通じて深めていくプロセスである。

これらは、すぐに身につくものではありません。揺れながら、迷いながら、少しずつ育っていく力です。

参考文献

  • Kegan, R. (1982). The evolving self: Problem and process in human development. Harvard University Press.
  • Kegan, R. (1994). In over our heads: The mental demands of modern life. Harvard University Press.
  • 加藤洋平(2017)『成人発達理論による能力の成長:ダイナミックスキル理論の実践的活用法』日本能率協会マネジメントセンター.

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