頑固なベテランを「改革の協力者」に変えるスモールステップ:「一貫性の原理」の光と影

こんなこと、感じたことはありませんか

  • 職員会議で新しい提案すると、ベテランの先生が違う作業をし出す。
  • 改善案を示したとき、「今までのやり方で問題ない」と一言だけ返され、それ以上話が進まない。
  • 働き方改革の会議で居眠りを始める先生を見て、「またか」と肩を落とす自分がいる。

「どうせ変わらない」「協力する気がないんだ」。
そんな思いが、胸をよぎることもあるかもしれません。

でも、本当にそうでしょうか。
なぜ、あの先生は動かないのでしょうか。
意欲がないからでしょうか。それとも、協力する気がないからでしょうか。

心理学の視点から見ると、そこには 「一貫性の原理(consistency principle)」 という、とても人間らしい心の働きが関係しています。

私は長年、学校現場と関わり、多くの先生方の葛藤に立ち会ってきました。
その経験から言えるのは、頑固さの裏側には、守ろうとしてきた歴史や信念がある ということです。

この記事では、「一貫性の原理」の光と影を整理しながら、ベテランの先生を無理に変えようとせず、改革の協力者へと近づいていくための小さく、現実的なスモールステップを考えていきます。

対立を深めるのではなく、味方を増やす。
そのための視点を、一緒に考えてみましょう。

1.Point:頑固さは「抵抗」ではなく「一貫性の表れ」

結論からお伝えします。
ベテランの先生が動かない理由は、変化を拒んでいるからではありません。
多くの場合、「これまで守ってきた自分の一貫性」を守ろうとしているだけ です。

社会心理学では、これを 「一貫性の原理」 と呼びます(Cialdini, 2009)。
人は自分の言動や価値観を、できるだけ一貫したものとして保とうとします。
過去の判断や行動を否定することは、自分自身の存在や専門性を否定する感覚につながるからです。
そのため、改革や新しい取り組みが 「これまでのやり方は間違っていた」と聞こえてしまうと、人は無意識にブレーキをかけます。
これは 防衛であり、敵意ではありません。

大切なのは、頑固さを問題視することではなく、その一貫性をどう活かすかを考えることです。
ここに視点を切り替えることが、協力関係への第一歩になります。

2.Reason:なぜ「一貫性の原理」が学校現場で強く働くのか

一貫性の原理が、学校現場で特に強く働くのには理由があります。
以下、3つの論点に整理します。

① 実践の蓄積が「自己」を形成している

学校の先生は、長い年月をかけて自分なりの指導観、学級観、教師観を積み上げてきました。
失敗も成功も含めて、日々の実践がその人を形づくっています。
ベテランの先生ほど、
「このやり方で子どもを守ってきた」 「この判断でクラスを乗り越えてきた」
という確かな実感を持っています。

② 変化の要求が「過去の否定」として認知される

そこに突然、 「時代が変わったから」 「新しい方針だから」という理由だけで変化を求められると、これまでの自分の歩みが否定されたように感じることがあります。
認知的不協和理論(Festinger, 1957)によれば、人は自分の態度と矛盾する行動を求められたとき、心理的な不快感を覚えます。
その不快感を避けるため、新しい情報を拒否したり、過去の行動を正当化しようとしたりするのです。

③ 一貫性の原理は「両刃の剣」である

もしかしたら、あなたも 「頭では分かるけれど、納得できない」 そんな経験があるかもしれません。
一貫性の原理は、人を成長させる力でもあります。
同時に、変化の場面では、強い抵抗として現れることもあります。
光と影の両面を持つ心の働きだと理解することが重要 です。

3.Example:頑固なベテランが「協力者」に変わった場面

実際の現場で、一貫性の原理を「てこ」として活用した場面を紹介します。
中学校の主任の先生の事例です。

新しい評価方法の導入を巡り、一人のベテランの先生が強く反対していました。
会議では発言せず、個別に話すと「自分は賛成していない」とだけ伝えてくる。
周囲は次第に距離を取り始めていました。

主任の先生は、最初、説得しようとしていました。
資料を用意し、メリットを説明し、他校の事例も示しました。
しかし、状況は変わりませんでした。

そこで 視点を変えました。
「変えてほしい」ではなく、「これまで大切にしてきたこと」を聞くことにした のです。
その先生は、 「評価は子どもを守るためのものだ」 と何度も語りました。
点数が一人歩きすることへの強い不安がありました。

主任の先生は、こう返しました。
「その考え方は、今回の改革でも大切にしたいです」
「まずは、評価基準を言葉で丁寧に示す部分から一緒に考えてもらえませんか」
変化はごく小さなものでした。
全体の制度には触れず、その先生が大切にしてきた一貫性を、部分的に活かす提案でした。
結果として、その先生は評価文案づくりの中心メンバーになりました。
「守るために関わる」という位置づけが、行動を引き出した のです。

ここで使われたスモールステップ

  • 過去の実践を否定せず、むしろ「大切にしてきた価値」を言語化する
  • 全体ではなく一部の役割をお願いし、参加のハードルを下げる
  • 「変える」ではなく「活かす」文脈で依頼し、一貫性を保てるようにする

一貫性の原理は、敵にも味方にもなります。鍵は、どちらとして扱うかです。

4.Point:一貫性を「てこ」にする関わり方

ここまでの話を整理します。
頑固さに見える行動の多くは、一貫性を守ろうとする自然な反応です。
その一貫性を壊そうとすると、抵抗が強まります。
一貫性を尊重すると、協力が生まれます。
現場で意識したい視点は、次の三つです。

  • 正しさよりも「その人が守ってきた意味」に目を向ける
    新しい取り組みの正当性を主張する前に、相手が何を大切にしてきたかを理解する。
  • 全面的な賛同ではなく、部分的な協力を求める
    すべてを変えようとせず、「この部分だけ」「まずはここだけ」という小さな依頼から始める。
  • 変化を「修正」ではなく「継続の延長」として示す
    「これまでの実践を否定するのではなく、時代に応じて進化させる」という文脈で伝える。
    改革は、スピードより方向性が大切です。

一人の協力者が生まれることで、空気は確実に変わります。

参考文献

  • Cialdini, R. B. (2009). Influence: Science and practice (5th ed.). Pearson Education.
  • Festinger, L. (1957). A theory of cognitive dissonance. Stanford University Press.

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