不登校の「充電期間」に、親がコンセントを抜かないために

【この記事は特に、お子さんが不登校になり、「いつ学校に戻れるのか」「このままでいいのか」と不安を抱えている保護者の方に向けて書いています】
「朝、起きてこない我が子の部屋の前で、立ち尽くしてしまう」
「制服を見るだけで胸が締め付けられる」。
お子さんが不登校になったとき、お父さん・お母さんの心は、焦りと不安、そして「自分の育て方が悪かったのか」という自責の念でいっぱいになりますよね
周囲の「少し休めば大丈夫」という言葉さえ、どこか他人事に聞こえ、自分たちだけが社会から取り残されたような孤独感を感じているかもしれません。
心理学の視点から見れば、不登校は決して「怠け」や「逃げ」ではありません。
それは、それまで一生懸命に頑張り続けてきたお子さんの心が、ついに「ガス欠」を起こしてしまった状態なのです。
車がガソリンなしでは走れないように、心のエネルギーが空っぽの状態で無理に動かそうとすれば、エンジンそのものが壊れてしまいかねません。
私自身、多くの親子と向き合う中で、親が「早く学校へ」とコンセント(期待)を差し込もうとするほど、お子さんの充電が漏電してしまう場面を何度も見てきました。
この記事では、不登校を「人生の貴重な充電期間」と捉え直し、家庭を安心できる「充電器」にするための具体的な方法を考えます。
そして何より、焦る親御さん自身の心をどう整えていくか、考えていきたいと思います。
1. Point:不登校は「サボり」ではなく、命を守るための「安全装置」
結論からお伝えします。
お子さんが学校に行けなくなったとき、それは決して「怠けている」のでも「親を困らせようとしている」のでもありません。
お子さんの心が「これ以上無理をしたら壊れてしまう」と判断し、自分を守るために作動させた「緊急停止ボタン(安全装置)」なのです。
私たちがまず理解すべきなのは、今のお子さんに必要なのは「叱咤激励」や「登校への促し」ではなく、「徹底的な休息」だということです※。
車に例えるなら、ガソリンが空っぽ(ガス欠)の状態で、いくらアクセルを踏んでも車は動きません。
それどころか、無理に動かそうとすればエンジンに過度な負荷がかかり、修復不可能な故障を招いてしまいます。
不登校の時期を「ただ休んでいる無駄な時間」ではなく、次のステップへ進むための「心のエネルギーを貯める大切な充電期間」と捉え直すことから、すべてが始まります。
※ただし、登校刺激を促した方がいい場合もあり、その見極めが難しいです。
2. Reason:なぜ「無理に動かそうとする」と逆効果なのか
なぜ、親が焦って「明日は行ける?」と声をかけたり、無理に外へ連れ出そうとしたりすることが逆効果になってしまうのでしょうか。
そこには心理学的・生理学的な理由があります。
① 心理的エネルギーの枯渇と回復のメカニズム
不登校研究の第一人者である滝川は、不登校を心理的エネルギーの枯渇状態として捉えています(滝川, 2017)。
学校での対人関係のストレス、学業のプレッシャー、自己否定感などが積み重なり、子どもの心理的エネルギーは極限まで消耗しています。
この状態で親が「学校」という言葉を出したり、期待の眼差しを向けたりすることは、せっかく貯まり始めたエネルギーを無理やり引き出す「漏電(エネルギー漏れ)」を引き起こします。
コンセントを挿して充電している最中に、無理に大電力を使おうとしてブレーカーが落ちるような状態です。
また、トラウマ研究の視点からも、学校に関連する刺激(制服、時間割、学校の話題)は、お子さんにとってトラウマ記憶を再活性化させる「トリガー」となることがあります(van der Kolk, 2014)。
無意識のうちに身体が警戒状態に入り、エネルギーが防衛反応に費やされてしまうのです。
② 「自己決定感」の剥奪
自己決定理論(Deci & Ryan, 2000)によれば、人間には「自分の行動を自分で決めたい」という基本的欲求(自律性) があります。
親から「行きなさい」と言われるほど、お子さんは「自分の人生をコントロールできていない」という無力感に陥り、かえって動けなくなります。
不登校支援の研究でも、子ども自身が「休む」という選択を主体的に行えることが、その後の回復と再登校に重要であることが示されています(齊藤, 2009)。
自分で「休む」と決め、自分で「動き出そう」と思えるまで待つことが、自立への近道なのです。
③ 親の「不安の伝染」と心理的安全性の欠如
心理学には「感情伝染」という現象があります(Hatfield et al., 1994)。
親の焦りや不安は言葉にしなくてもお子さんに伝わります。
お子さんは親を悲しませている自分に強い罪悪感を持っています。
親が不安げな顔で接すると、お子さんは「自分はここにいてはいけない存在だ」と感じ、心の安全基地であるはずの家庭でさえ、休まらない場所になってしまうのです。
アタッチメント理論(Bowlby, 1988)が示すように、子どもの健全な発達には「安全基地」が不可欠です。
家庭が安全基地として機能するためには、親が安定した状態で「いつでもここにいるよ」というメッセージを送り続けることが必要です。
お父さん・お母さんが悪いのではありません。
ただ、あなたの「我が子の将来を思う愛」が、今は「不安」という形に変換されて、お子さんに届いてしまっているだけなのです。
3. Example:家庭を「安心の充電器」に変える4つのステップ
では、具体的にどうすればお子さんのエネルギーは回復していくのでしょうか。
家庭を、漏電させない「安心の充電器」にするためのワークをご提案します。
① 「学校」という話題を、家の中から一時的に「断捨離」する
まずは1週間、あるいは1ヶ月と期限を決めて、親の側から「学校」「勉強」「将来」というキーワードを一切出さない「沈黙の期間」を作ってみてください。
これは心理療法における「逆説的介入」の考え方に通じます(Haley, 1973)。
「行かなくていいよ」と心から許可を出すことで、お子さんは「自分を守るための戦い(親への抵抗)」にエネルギーを使わなくて済むようになり、その分を自分自身の回復に回せるようになります。
また、不登校の段階論(文部科学省の支援指針など)では、初期の「休息・回復期」において無理な働きかけを避け、安心できる環境を提供することが重要とされています。
② 親自身の「セルフコンパッション(自分への慈しみ)」
お子さんを支えるには、親であるあなたの心が安定していることが不可欠です。
心理学者クリスティン・ネフが提唱したセルフコンパッションとは、自分自身に対して優しく、思いやりを持って接することです(Neff, 2003)。
「あぁ、私は今、子供の将来が不安なんだな」
「学校に行ってほしいと思うのは、親として当然の願いだよな」
このように、自分の黒い感情も否定せず、実況中継するように受け止めてください。
あなたが自分自身を許し、穏やかでいる姿を見せることが、お子さんにとっては何よりの「安心の薬」になります。
③ 「存在承認」のメッセージを無言で送る
「学校に行くあなた」ではなく、「ただそこにいるあなた」を肯定します。
- 一緒にご飯を食べる
- 好きなゲームの話に耳を傾ける(評価せずに)
- 「おはよう」「おやすみ」を笑顔で言う
こうした何気ないやり取りの積み重ねが、「何ができなくても、自分には居場所がある」という自己肯定感の再構築に繋がります(Rogers, 1959)。
これこそが、心の充電器のコンセントをしっかり差し込む作業です。
人間性心理学の創始者カール・ロジャーズは、無条件の肯定的配慮(条件を付けずに相手の存在そのものを尊重すること)が、人間の成長に不可欠であると述べています。
④ 専門家との連携を視野に入れる
家庭での見守りと並行して、専門家との連携も重要です。
- スクールカウンセラー:学校との橋渡し役
- 臨床心理士・公認心理師:心理的サポート
- 児童精神科医:必要に応じた医学的評価
- 適応指導教室(教育支援センター):段階的な学校復帰支援
特に以下のような様子が見られる場合は、早めの専門家相談をお勧めします。
- 極度の不安や恐怖を示す
- 自傷行為や希死念慮がある
- 昼夜逆転が長期間続く
- 家族とのコミュニケーションも拒否する
4. Point:まとめとエール
不登校の期間は、親御さんにとっても「忍耐」という名の長いトンネルかもしれません。
しかし、コンセントを無理に抜かず、じっくりと充電を待ったお子さんは、いつか必ず自らの意志で動き出します。
2年間ひたすら家で好きな絵を描き続けていた子がいました。
親御さんは不安を押し殺して見守り続けました。
その子は今、その時に培った集中力を武器に、デザインの世界で生き生きと働いています。
あの2年間は、彼にとって「自分は何者か」をじっくり耕す、絶対に欠かせない時間だったのです。
あなたは、十分によくやっています。
お子さんが学校に行けないのは、あなたの育て方のせいではありません。
お子さんが人生の荒波に立ち向かうために、今、あえて「錨(いかり)」を下ろして休息しているだけなのです。
今日はお子さんの隣で、ただ一緒に美味しいお茶でも飲んでみませんか。
会話がなくても大丈夫。
あなたがそこにいてくれるだけで、充電は少しずつ、でも確実に進んでいます。
参考文献
- Bowlby, J. (1988). A secure base: Parent-child attachment and healthy human development. Basic Books.
- Deci, E. L., & Ryan, R. M. (2000). The “what” and “why” of goal pursuits: Human needs and the self-determination of behavior. Psychological Inquiry, 11(4), 227-268. https://doi.org/10.1207/S15327965PLI1104_01
- Haley, J. (1973). Uncommon therapy: The psychiatric techniques of Milton H. Erickson, M.D. W. W. Norton.
- Hatfield, E., Cacioppo, J. T., & Rapson, R. L. (1994). Emotional contagion. Cambridge University Press.
- Neff, K. D. (2003). Self-compassion: An alternative conceptualization of a healthy attitude toward oneself. Self and Identity, 2(2), 85-101. https://doi.org/10.1080/15298860309032
- Rogers, C. R. (1959). A theory of therapy, personality, and interpersonal relationships as developed in the client-centered framework. In S. Koch (Ed.), Psychology: A study of a science. Vol. 3: Formulations of the person and the social context (pp. 184-256). McGraw-Hill.
- 滝川一廣 (2017). 『子どものための精神医学』医学書院.
- 齊藤万比古(編) (2017). 『増補 不登校の児童・思春期精神医学』金剛出版.
- van der Kolk, B. A. (2014). The body keeps the score: Brain, mind, and body in the healing of trauma. Viking.

