“指導”より“支援”を:主任・主幹に求められるミドルリーダーの基本

- 「主任なのだから、もっと厳しく言わなければ」
- 「指導しないと、若手が育たない」
- 「お願いしたつもりが、伝わっていない」
わたしも長年、学校現場でそう思っていた一人です。けれど、あるとき気づいたのです。
“指導”と“支援”は、対立するものではなく、支え合う関係にあるということに。
アドラー心理学では、人は「所属」と「貢献」を感じることで力を発揮すると言われます。
その視点から見ると、上からの指導よりも、隣に立つ支援の方が、職場の力を引き出すこともあるのです。
今回は、主任や主幹といった“ミドルリーダー”として求められる、新しい関わり方をお届けします。
叱咤激励よりも、信頼と対話を軸にした関係づくり。
それこそが、今、学校現場に求められるリーダーシップの基本ではないでしょうか。
一緒に考えてみましょう。
1. Point:支援こそが、リーダーシップの本質
主任や主幹といったミドルリーダーにいま必要とされているのは、「指導力」よりも「支援力」です。
もちろん、時には方針を示す強さも必要です。しかし、それ以上に求められているのは、現場で働く先生方一人ひとりに寄り添い、力を引き出し、共に歩もうとする姿勢です。
「どうしてできないのか」と責めるより、「どうしたらできそうか」と問いかける方が、人は前向きになれます。
それは指導の放棄ではなく、信頼して任せ、支えるという選択です。
これこそが、現代の学校現場で力を発揮する“支援的リーダーシップ”の基本なのです。
2. Reason:なぜ支援が必要なのか
教育現場は今、かつてないほど複雑で不安定な状況にあります。
働き方改革、保護者対応、発達や個別支援の増加、そして教師不足や若手教師の定着の課題。
これまで通りの“指導するリーダー”では、限界を迎えつつあります。
アドラー心理学では、人は「共同体感覚」――すなわち、自分が場に貢献できている・つながっていると感じるときに力を発揮するとされます。
若手も中堅も、まずは「安心して頼れる誰か」「認めてくれる誰か」を必要としているのです。
つまり、リーダーに求められるのは、コントロールではなく、“支える力”。
「困ったとき、あの先生に相談したい」
そんな存在であることこそ、学校という共同体を支えるリーダーの証ではないでしょうか。
3. Example:支援的リーダーシップの具体技法
では、どうすれば「支援的なリーダー」になれるのでしょうか。
ここでは、わたし自身が関わってきた学校現場での事例や、実際に効果のあった技法をいくつかご紹介します。
①【聴くことを急がない:沈黙を受け入れる】
ある若手の先生が授業後に職員室でため息をついていました。
隣にいた主任の先生が「どうした?」と声をかけましたが、先生は黙ったまま。
主任の先生は何も言わず、ただその場に座り続けていました。
しばらくして若手の先生がぽつりと、「…今日の授業、めちゃくちゃだったんです」と口を開きました。
“支援”とは、必ずしもすぐに言葉をかけることではありません。まずは相手の気持ちが落ち着くまで待つことも大切です。特に落ち込んでいる時、ことばはなかなか出てこないものです。
「沈黙もコミュニケーション」という意識を持てるリーダーは、相手に安心感を与えます。
②【質問を変える:問いかけで気づきを促す】
わたしが関わった中学校の主幹の先生は、若手が何かミスをしたとき、「どうしてやらなかったの?」とは聞きませんでした。
代わりに、「やるとしたら、どこが難しかった?」とか「やらないと決めた理由って、何かあったのかな?」と問いかけていました。
そうすると、若手は「自分を責められていない」と感じ、話すことができるのです。
WHY(なぜ)からHOW(どうすれば)へ問いの質を変えるだけで、関係性は驚くほど変わります。
③【任せて、見守る】
ある主任の先生は、若手が作成する学級だよりをいつも楽しみにしていました。
「文章が少し硬いかな」とアドバイスしたい気持ちをぐっとこらえ、「今回は○○くんの紹介のところ、とてもよかったよ。来月も楽しみにしているね」とだけ伝えていました。
結果、その若手の先生は半年後には読みごたえのある学級だよりを発行するようになっていました。
任せるとは、期待していることを伝えたうえで、「口を出さずに見守る」こと。
それは簡単ではありませんが、信頼が伝わる行為でもあります。
④【「できていること」を言葉にする】
人は、「できていないこと」は言われなくても自分でわかっているものです。
ある主幹の先生は、若手が授業に自信を持てずにいるとき、「子どもたち、授業に集中してたね」とか「今日、板書がとても整理されてたね」と、具体的な行動に目を向けて言葉をかけていました。
漠然と「よかったよ」ではなく、目に見える行動に着目して伝える。
そのひと言が、若手の先生にとっては「ちゃんと見てくれてる」と感じられる支えになるのです。
⑤【「わたしも悩むよ」と弱さを見せる】
ある小学校の主任の先生は、若手との雑談の中で「実はわたしも、今でも保護者対応は毎回ドキドキしてるんだよ」とさらっと話していました。
若手の先生はその後、「主任でも緊張するんですね…ちょっと安心しました」と話してくれました。
リーダーが「完璧な人」ではなく、若手の先生と同じように「揺れる人」「悩む人」であることを見せる。
それが、組織の安心感につながっていきます。
⑥【週1回の“声かけチェックイン”】
ある学校では、主任が週に一度、担任全員に「最近どう?」「今は何が大変?」と聞いて回っていました。
特別な内容ではありません。ただの一言、立ち話程度です。
けれど、若手の先生たちは「いつでも話せる」と思えることで、心理的安全性が確保されていました。
定期的な、意図ある“ゆるい声かけ”こそが、リーダーの支援的関わりとして機能するのです。
⑦【「支援=下支え」という視点を持つ】
主任・主幹の役割は、“表に立つ”というよりも“場を整える”ことに近いと、わたしは思います。
時間割調整、行事の準備、学級崩壊のサポートなど、「誰かがやらねばならないこと」を静かに引き受けているリーダーが、学校にはたくさんいます。
そうした見えにくい支援の積み重ねが、職員集団全体の土台を支えています。
支援とは、地味で地道な営み。けれど、そこにこそ真のリーダーシップが宿っているのです。
このように、「支援的リーダーシップ」は特別なスキルやカリスマではなく、日々の小さな関わりの積み重ねで育まれます。
そして、こうしたふるまいは、若手からも「こんなふうになりたい」と自然に模倣されていきます。
それが、“伝わるリーダー”であり、“育てるリーダー”の在り方なのだと、わたしは実感しています。
4. Point:支える力が、チームを動かす力になる
リーダーというと「引っ張る人」「先頭に立つ人」というイメージがあります。
けれど、わたしが学校で出会ってきた素晴らしい主任や主幹の多くは、「背中を押す人」でした。
まっすぐな言葉をかける。静かに話を聞く。適切に任せる。そして、一緒に悩む。
そのふるまいが、信頼を生み、チームの中に力を広げていくのです。
アドラーの言葉に、人は対等であるときに、最も成長するという考え方があります。
支援とは、上下関係ではなく、信頼関係の中で成り立つものです。
あなたの支えが、誰かの「もう一度やってみよう」を引き出す。
その積み重ねが、学校をもっと豊かな場に変えていくのではないでしょうか。
5. まとめ:主任・主幹という立場に込められた意味
主任・主幹という肩書には、「導く人」ではなく「支える人」という役割が込められていると、わたしは思います。
- 指導より、支援
- 評価より、対話
- 管理より、信頼
その姿勢が、チームの安心感と前進力を生み出します。
「強いリーダー」よりも、「温かい支援者」であること。
それが、ミドルリーダーとしての新しい基本です。
今日からできること――
まずは、誰か一人に「最近どう?無理しすぎてない?」と尋ねてみてください。
答えの中に、支えるヒントがきっとあるはずです。