親自身の「マインドセット」を整える:結果主義からプロセス主義への移行
【この記事は特に、小学校高学年〜中学生のお子さんで、「良い成績を取らせたい」という思いと、「プレッシャーをかけたくない」という思いの間で揺れている保護者の方に向けて書いています】

「テストで良い点を取ってほしい」「試合で勝ってほしい」。
親としてそう願うのは、ごく自然なことです。
しかし、結果ばかりに目が向くと、いつの間にか親子で「結果が出ない恐怖」に縛られ、新しい挑戦が怖くなってしまうことがあります。
心理学では、能力は努力次第で伸ばせると信じる力を「しなやかマインドセット」と呼びます。
この視点を持つと、学習への取り組み方や成績まで変わることがわかっています。
とは言え、日々忙しく、余裕がない中で「プロセスを褒めよう」と意識し続けるのは、本当に難しいことですよね。
つい「何点だったの?」と口に出てしまう自分を責める必要はありません。
この記事では、親御さん自身が結果主義の重荷を下ろし、お子さんと共に「成長する喜び」を感じられるようになるためのヒントをお伝えします。
読み終える頃には、お子さんへの声かけが少しだけ軽やかになっているはずです。
1.Point:結論・伝えたいこと
お子さんの意欲を育むために、もっとも大切なこと。
それは、お父さん・お母さん自身が「結果という重荷」をそっと脇に置いて、今日一日の「プロセス(過程)」を面白がることです。
心理学では、人間の能力は努力や経験によって伸びるという考え方を「しなやかマインドセット(グロース・マインドセット)」と呼びます。
スタンフォード大学の心理学者キャロル・ドゥエックの研究によると、親が「結果だけでなく、努力のプロセスにも価値がある」という視点でお子さんを見るようになると、お子さんは失敗を恐れずに挑戦するようになり、結果として学習成績の向上にもつながることが示されています。
「結果を気にするな」ということではありません。
「結果も大切にしながら、そこに至るプロセスにも光を当てる」。
このバランスが、お子さんの心を軽くし、長期的な成長を支えるのです。
2.Reason:心理学的な背景(なぜそうなるのか)
なぜ、「結果だけ」ではなく「プロセスも」大切にすることが、学習意欲や成績に影響を与えるのでしょうか。
そこには、脳と心の興味深いメカニズムが隠れています。
「才能」を褒めると、挑戦を避けるようになる
「100点なんて、あなたは頭がいいね!」という褒め方は、一見ポジティブに思えます。
しかしドゥエックの研究では、こうした「才能や結果」を褒められた子どもは、次に難しい課題に直面したとき、「間違えたら、もう賢いと思ってもらえない」と不安を感じ、挑戦を避けるようになることがわかっています。
これを「硬いマインドセット(フィックスト・マインドセット)」と呼び、能力は生まれつき決まっていて変わらないと考えてしまう状態です。
「努力のプロセス」を認めると、挑戦する力が育つ
一方で、「今回はあきらめずに、何度も解き直していたね」というように、具体的な努力のプロセスを認められた子どもは、「努力すれば成長できる」という信念を持つようになります。
このとき、失敗は「能力がない証拠」ではなく、「成長のための情報」として受け止められるようになります。
結果として、難しい課題にも積極的に取り組むようになり、長期的には学習成績の向上にもつながるのです。
脳は使えば使うほど、新しい回路を作る
脳科学の研究では、学習や経験によって脳の神経回路が物理的に変化することが明らかになっています。これを「脳の可塑性(neuroplasticity)」といいます。
「間違えたら恥ずかしい」と思って避けるのではなく、「どうすれば解けるかな?」と試行錯誤すること自体が、脳に新しい回路を作る訓練になるのです。
3.Example:具体的な事例や今日からできるワーク
「そうは言っても、受験や成績を無視するなんて現実的ではない」と感じるのが親の正直な心境ですよね。
わたしも、娘たちがテストで振るわない結果を持ち帰ってきたときは、一瞬、心がざわつきます。
ですから、いきなり100%考え方を変える必要はありません。
まずは、次のような「視点の切り替え」を試してみませんか。
① 「結果」の隣にある「プロセス」を1つだけ探す
お子さんがテストを返されたとき、点数を見る前にこう聞いてみてください。
「この問題、正解しているね。ここを解くために、どんな工夫をしたの?」
点数という「動かせない過去」ではなく、工夫という「再現できる力」に光を当てる練習です。
② 失敗を「成長の情報」と言い換える
もし、お子さんが失敗して落ち込んでいたら、チャンスです。
- 小学生向けの声かけ例: 「残念だったね。でも、間違えたところが分かったってことは、次はどうすればいいか分かったってことだね」
- 中学生向けの声かけ例: 「悔しいよね。今回の結果から、次に向けて何か気づいたことある?」
心理学的に見て、失敗は「今のやり方が合っていない」という単なるフィードバックに過ぎません。
それを「ダメなこと」から「成長の種」へと定義し直してあげましょう。
③ 親自身の「試行錯誤」をシェアする
これが意外と効果的です。
「今日、パパ(ママ)仕事で失敗しちゃってさ。でも、次はこうしてみようと思ってるんだ」
完璧な親を演じるのではなく、親自身が試行錯誤して成長しようとしている姿を見せること。それが、お子さんにとって最大の「しなやかマインドセット」のお手本になります。
④ 具体的な「努力の言語化」を増やす
× 抽象的な褒め方
- 「頭いいね!」
- 「すごいね!」
〇 具体的なプロセスの承認
- 「30分も集中して取り組んでいたね」
- 「分からないところを質問できたね」
- 「違うやり方を試してみたんだね」
具体的であればあるほど、お子さんは「何が良かったのか」を理解でき、次回も再現できます。
【マインドセットだけでは解決しないこともあります】
以下のような場合は、声かけの工夫だけでなく、学習環境の見直しや専門家への相談も検討してください。
- 努力しているのに成績が上がらず、お子さんが強い無力感を感じている
- 学習に対する不安が日常生活に影響している
- 学習障害や発達特性が疑われる
マインドセットは「魔法」ではなく、お子さんの成長を支える「土台の一つ」です。
4.Point:まとめとエール
「結果を褒めないようにしよう」と意識しすぎる必要はありません。
点数が良ければ、一緒に喜んでいいのです。
ただ、その喜びの真ん中に「あなたが今日まで積み重ねてきた時間と工夫」を置いてあげてください。
受験や競争がある以上、結果を完全に無視することはできません。
それは当然のことです。
でも、「結果が出たから価値がある」ではなく、「挑戦したこと自体に価値がある」というメッセージを、日々の小さな声かけの中に忍ばせていくこと。
それが、お子さんの心を長期的に支える力になります。
あなたが「育て方が悪かったのかも」と自分を責めてしまうのは、お子さんの未来を誰よりも願っているからです。
その愛情は、すでに十分お子さんに届いています。
今日からは、ほんの少しだけ視点を変えてみましょう。
「結果を出せる子」にするのではなく、「どんな結果になっても、また立ち上がって工夫を楽しめる子」にする。
そんな「心理学の眼鏡」をかけて、お子さんの今日一日の頑張りを見つめてみませんか。
あなたは、今のままでも十分に素晴らしい親です。焦らず、ゆっくり、お子さんと一緒に成長していきましょう。
【参考文献】
- Dweck, C. S. (2006). Mindset: The New Psychology of Success. Random House.
- Dweck, C. S., et al. (1998). Praise for intelligence can undermine children’s motivation and performance. Journal of Personality and Social Psychology.


