「朝、起きられない」背景にある心と体のメカニズムを知る

【この記事は、お子さんが朝起きられない状態が続いており、医療機関への相談を検討されている、または既に受診されている保護者の方に向けて、心理学的な理解を深めていただくために書いています】

【最初に:医学的な問題の除外が最優先です】

「朝起きられない」状態には、以下のような身体的・医学的な問題が隠れている可能性があります。

  • 起立性調節障害(OD):中学生の約10%に見られ、自律神経の問題で朝に血圧が上がらず、立ち上がれない
  • 睡眠障害:概日リズム障害、睡眠相後退症候群など
  • うつ病:思春期のうつは朝の症状が特に強く出る
  • その他の身体疾患:貧血、甲状腺機能の問題など

まだ医療機関を受診されていない場合は、まず小児科や心療内科の受診をお勧めします。
身体的な問題が除外された上で、心理的な要因が関与している場合に、この記事の内容が理解の助けになります。

1.Point:結論・伝えたいこと

朝、お子さんが布団から出られないとき、その背景には身体的な問題に加えて、心が限界を超えて自分を守ろうとしている「防衛反応」が働いている可能性があります。

大切なことなので、最初にお伝えしますね。

お父さん、お母さん。
お子さんが動けなくなってしまったのは、決してあなたの育て方が悪かったからではありません。
そして、お子さんもまた、楽をしたくて寝ているわけではないのです。

心理学の視点で見ると、強いストレスが長く続いたとき、脳は「これ以上進むと危険だ」と判断し、体にブレーキをかけることがあります。
まずはこの状態を「甘え」や「怠け」ではなく、心身を守るための反応の一つとして理解することから始めてみませんか。

2.Reason:心理学的な背景(なぜそうなるのか)

なぜ、心が「ブレーキ」をかけるのでしょうか。
そこには、人間が太古の昔から持っている「生存本能」が関係しています。

脳に備わった「闘争・逃走反応」

心理学では、人間は外からの脅威に対して「闘争・逃走反応(fight-or-flight response)」という本能的な反応を示すことが知られています。
これは、大昔の人が猛獣に襲われた際、「戦うか、逃げるか」を瞬時に判断して生き延びようとした、脳の奥底にある生存のための仕組みです。

現代の子どもたちが受けているストレス――学校での人間関係、目に見えないプレッシャー、将来への不安――は、脳にとっては「猛獣に追いかけられている」のと同じくらいの脅威として認識されることがあります。
脳は常に「警戒モード」に入り、心身をフル稼働させて対処しようとします。

エネルギーが枯渇すると「凍りつき反応」が起こる

しかし、その緊張が長く続き、「戦う」ことも「逃げる」こともできない状態が続くと、脳は第三の選択肢を取ります。
それが「凍りつき反応(freeze response)」です。

これは、ポリヴェーガル理論(スティーブン・ポージェスが提唱)で説明される、自律神経系の防衛反応の一つです。

動物が天敵に遭遇して逃げられないとき、「死んだふり」をして身を守るのと似た反応が、人間にも起こります。
「学校に行かなければ」という理性と、「これ以上行ったら心が壊れてしまう」という本能が、心の中で激しくぶつかり合っています。
その結果、体が動かなくなってしまうのです。

すべてが「凍りつき反応」ではない

ただし、すべての「朝起きられない」が、このような強いストレス反応とは限りません。

  • 思春期の生物学的な睡眠パターンの変化(遅寝遅起きになりやすい)
  • 生活リズムの乱れ
  • 学校への不適応感(必ずしもトラウマレベルではない)

など、さまざまな要因が複雑に絡み合っています。
だからこそ、専門家と一緒に、お子さんの状態を丁寧に見ていく必要があるのです。

3.Example:理解の視点を変えるために

「朝起きられない」状態を理解するために、視点を少し変えてみましょう。

① 「動けない」は「心が必死に守っている」サイン

お子さんが布団から出られないとき、外からは「何もしていない」ように見えます。
しかし、お子さんの心の中では、実は激しい葛藤が起きています。
「行かなきゃ」「でも怖い」「親に申し訳ない」「でも体が動かない」――。
この内的な闘いは、想像以上にエネルギーを消耗します。
「動いていない」のではなく、「心の中で必死に戦っている」と捉え直すことで、お子さんへの見方が少し変わるかもしれません。

② 「怠け」と「防衛反応」の違い

「怠け」と「防衛反応」は、外から見ると似ていますが、本質的に異なります。

「怠け」「防衛反応」
楽をしたい欲求心身を守るための反応
意図的に避けている意図せず体が動かない
他の楽しいことはできる他のことにも意欲がわかない

もしお子さんが、本来好きだったことにも興味を示さなくなっている、表情が乏しくなっているなら、それは「怠け」ではなく、心身の疲弊のサインかもしれません。

③ 保護者自身の感情も大切に

お子さんが朝起きられないとき、保護者の方も不安、焦り、時には怒りを感じるのは当然です。
「なぜうちの子だけ」「このままどうなるのか」――。
その感情を否定する必要はありません。

ただ、その感情をお子さんにぶつける前に、まずはご自身の心を整えることも大切です。
保護者の方が少しでも落ち着いた状態でいられることが、お子さんにとっての「安全基地」となります。

【どのように対応すればよいか――専門家と共に】

「理解はできた。では、どうすればいいのか」と思われるでしょう。
具体的な対応は、お子さんの状態、背景、家庭環境によって大きく異なるため、一律の「正解」はありません。
以下のような専門家との連携をお勧めします:

  • 医療機関(小児科、心療内科、児童精神科):身体的・精神医学的な問題の診断と治療
  • スクールカウンセラー:学校との連携、お子さんの心理的サポート
  • 臨床心理士・公認心理師:カウンセリング、家族支援
  • 学校:出席扱いの配慮、別室登校、オンライン授業などの調整

「何もしない」のではなく、「適切な専門家と一緒に、お子さんに合った対応を探していく」ことが大切です。

4.Point:まとめとエール

朝の静まり返った部屋の前で立ち尽くすのは、本当に辛いことです。
でも、どうか忘れないでください。
お子さんが布団の中にいるのは、今、心身が「修復モード」に入っている可能性があるということを。
そして、その状態を一人で抱え込む必要はないということを。

あなたは今日まで、十分に頑張ってこられました。
お子さんを愛しているからこそ、苦しいのですよね。
その愛情は、必ずお子さんの心の底に届いています。

「朝起きられない」という状態は、決してゴールではありません。
適切な理解と支援があれば、お子さんは少しずつ、自分のペースで歩き出すことができます。
焦らず、専門家の力も借りながら、一歩ずつ進んでいきましょう。

わたしも、ここで応援しています。

【参考文献】

  • Porges, S. W. (2011). The Polyvagal Theory: Neurophysiological Foundations of Emotions, Attachment, Communication, and Self-regulation. W. W. Norton & Company.
  • 日本小児心身医学会「起立性調節障害(OD)」ガイドライン

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