「管理職を目指すかどうか迷ったときに考えるべき3つの問い」

- 管理職に推薦されたけれど、自分に務まるのか不安…
- 家庭との両立、本当にできるのだろうか?
- 子どもと関わる時間が減るのが嫌で、どうしても踏み切れない
そんな迷いを抱えている方は、あなただけではありません。むしろ、今の時代、教頭・校長を目指すかどうかで立ち止まる教員の方が圧倒的多数です。責任の重さ、激務、そして何より「自分が適任なのかどうか」という漠然とした不安。それらが決断を難しくしています。
私は、これまで管理職・主任・若手教員へのカウンセリング・コーチングを通じて、「迷っている人」が持つ“共通の迷い”と、その先の“納得解”に向けた道筋を数多く見てきました。
この記事では、管理職を目指すかどうか迷ったときに、自分に問いかけるべき3つの本質的な質問をご紹介します。これを読むことで、自分が進むべき方向が見えてくるはずです。
管理職を目指すべきか迷ったときは、”自分自身に3つの問い”を投げかけてください
「管理職をやってみないか?」 ある日、校長や教育委員会の誰かにそう言われたとき、あなたの頭に浮かぶのは、おそらくこういうことではないでしょうか。
- 本当に自分にできるのだろうか
- 今よりもっと忙しくなるのではないか
- 家族との時間が減るのではないか
- 子どもたちとの関わりが薄くなるのではないか
- 責任が重すぎて、プレッシャーに押しつぶされないだろうか
- 教職員との人間関係がうまくいくだろうか
そして気がつけば、「もう少し今のままで…」と先送りにしている。でも、どこかでずっと気になっている。
実際、多くの先生方が同じような迷いを抱えています。教員歴15年以上のベテランであっても、管理職への道筋が見えてくると、急に自信を失ってしまう方は少なくありません。それは当然のことです。なぜなら、これまでとは全く違う役割と責任を背負うことになるからです。
しかし、この迷いや不安こそが、実は大切な成長のサインでもあります。真剣に教育に向き合ってきた証拠だからです。
そんな”心の揺らぎ”に折り合いをつける方法。それが、「自分に問いを立てる」ことです。感情的な不安や周囲からのプレッシャーに流されるのではなく、自分自身の価値観や将来像と向き合うプロセスを通じて、納得のいく選択をしていくのです。
なぜなら、管理職になるという選択には、正解がないからです
管理職の仕事は、想像以上に多忙で複雑です。
学校経営、教職員のマネジメント、保護者対応、教育委員会との調整、地域連携、予算管理、危機管理…。
そして何より、”結果がすぐに見えにくい”仕事でもあります。
授業であれば、子どもたちの反応や成長がダイレクトに伝わってきます。
しかし管理職の仕事は、学校全体の雰囲気や文化を変えていく長期的な取り組みが中心となるため、成果を実感するまでに時間がかかります。
時には、理解されずに孤独感を感じることもあるでしょう。
一方で、自分のビジョンや教育観を形にできる自由度の高い仕事であり、学校という組織の「文化」や「風土」を変える力を持つポジションでもあります。一人の教師として影響を与えられる範囲を超えて、学校全体、さらには地域の教育環境そのものを変革する可能性を秘めているのです。
また、次世代の教師を育成し、教育界全体の質向上に貢献できる立場でもあります。優れた管理職は、多くの教師の成長を支え、結果的により多くの子どもたちの学びを豊かにすることができます。
「やったほうがいい」でもない、「やらないほうがいい」でもない。どちらにもメリットとデメリットがあり、個人の価値観や人生設計によって最適解は変わります。
だからこそ、自分にとって何が大切か、自分が何を目指したいのかを、内側から問い直すプロセスが必要なのです。他人の基準や社会的な期待ではなく、自分自身の軸で判断することが重要です。
キャリアを左右した”3つの問い”を活かした実例
ここでご紹介するのは、管理職の道を進むかどうかで迷っていた教員が、「3つの問い」を通じて自分なりの決断をした実例です。それぞれ異なる結論に至っていますが、共通しているのは「自分軸での選択」ができたということです。
◯事例①:「教師として何をしたいのか?」を問い続けたGさん(小学校教諭)
Gさんは教務主任を7年務めたベテラン教員。「子どもと触れあう現場が好き」「担任が好き」と言い続けてきましたが、校長から「あなたのような人こそ、教頭になるべき」と言われ、深く悩みました。
当初は「管理職になったら子どもと接する時間がなくなる」という不安で頭がいっぱいでした。しかし、じっくりと自分と向き合う時間を作り、こんな問いを自分に投げかけました。
「自分は教師として何をしたいのか?」
この問いと向き合う中で、Gさんは自分の本当の願いに気づきました。子どもたちのための授業改善、先生方の働きやすさ、自分を育ててもらった地域とのつながり。これらすべてが、実は一つの大きな目標に向かっていることに気づいたのです。
「子どもたちのために良い学校を作りたい」
この目標を実現するために、Gさんは管理職を「子どもたちの環境を、学校現場をより良くするための手段」と捉え直しました。管理職になっても子どもとの関わりは続く、むしろより多くの子どもたちの学習環境を改善できると考えを転換したのです。
試験を受け、現在は校長として活躍しています。「教室にいる時間は減ったが、学校全体の子どもたちを見守れる喜びがある」と語っています。
◯事例②:「何を大切に働きたいか?」を見つめ直したHさん(中学校教諭)
Hさんは50代の教諭。管理職の推薦は3度断ってきました。理由は、「子どもと関わる時間が減ることへの不安」と「家族との時間を確保したい」という思いでした。
周囲からは「経験も実力もあるのにもったいない」「逃げているのではないか」といった声も聞こえてきて、自分の選択に確信が持てずにいました。
そこで自問した問いは、「自分は何を大切にして、働きたいのか?」
この問いに向き合う中で、Hさんは自分にとっての「教師としての幸せ」とは何かを深く考えました。生徒一人ひとりの成長を間近で見守ること、授業を通じて学ぶ楽しさを伝えること、クラスの絆を育むこと。そして、家族と過ごす時間を大切にしながら、持続可能な働き方を続けること。
考え抜いた結果、担任として生徒と向き合う毎日にこそ喜びを感じることに改めて気づき、あえて「管理職にならない」選択をしました。この決断後、迷いがなくなり、より一層授業や学級経営に集中できるようになったといいます。
現在では校内で”授業と学級経営のエキスパート”として重宝され、若手教員の指導にも力を発揮しています。管理職にならないことで、別の形でのリーダーシップを発揮しているのです。
◯事例③:「10年後、どうしていたいか?」を見据えたIさん(高校教諭)
Iさんは40代前半。小学生の子どもを持つ父親として、家族との時間を重視したくて管理職への道に踏み切れずにいました。「今でも十分忙しいのに、これ以上責任が重くなったら家族に迷惑をかけてしまうのではないか」という不安が大きかったのです。
しかし、ある日こんな問いを自分に投げかけました。「10年後、どんな教師でいたいか?」
この問いと向き合ったとき、Iさんの心に浮かんだのは、「次の世代に学校をつなぐリーダーになっていたい」という強い思いでした。自分が受けてきた教育の恩恵を、次の世代に確実に届けたい。そのためには、個人として優秀な教師であるだけでなく、学校全体を良い方向に導けるリーダーになる必要があると感じたのです。
家族とも話し合いを重ね、「今は大変になるかもしれないが、将来的には家族も誇れるような仕事をしたい」という結論に至りました。
現在は副校長として働きながら、時間管理や職員のチームビルディングに力を入れています。忙しさは確かに増しましたが、効率的な働き方を模索することで、以前よりも充実感を得られているといいます。
「今は忙しい。でも、子どもたちにとっても、教師にとっても働きやすい学校をつくれるならやる意味がある。10年後の理想の姿に向かって進んでいる実感がある」と語っています。
迷ったときこそ、3つの問いを使って”自分軸”で決めよう
管理職を目指すかどうか。これは、「損か得か」「上か下か」という話ではありません。
「自分が、どんな教育者として生きたいのか」に他なりません。
周囲の期待や社会的なプレッシャー、経済的な条件などに惑わされることなく、自分自身の価値観と向き合うことが何より大切です。
なぜなら、最終的にその選択の結果を生きるのは、他でもないあなた自身だからです。
そこで、迷ったときに自分に問うべき3つの問いを、以下に整理します。これらの問いは、単なる思いつきではなく、多くの教育者が実際に使って効果的だった実証済みの方法です。
【問い①】自分は教師として、どんな影響を与えたいか?
「教師としての自分にとっての教育的使命」は何か?
授業改革、働き方改革、生徒指導の充実、地域と学校の架け橋、特別支援教育の推進、グローバル教育の展開…。
教育現場には解決すべき課題が山積みです。
その中で、あなたが最も情熱を注ぎたいのはどの分野でしょうか?そして、その目標を達成するために、現在の立場で十分なのか、それとも管理職という立場が必要なのかを冷静に判断してみてください。
何にエネルギーを注ぎたいかを自覚することが、管理職を”目的”ではなく”手段”にする第一歩です。
目的が明確になれば、手段の選択にも迷いがなくなります。
【問い②】自分が一番大切にしたい働き方・価値観は何か?
家族との時間、子どもと過ごす日常、自分の健康、職場の仲間との信頼関係、趣味や自己研鑽の時間、経済的な安定…。
人それぞれ、大切にしたい価値観は異なります。
管理職になることで、それらがどう変わるのかを冷静に想像してみてください。
失うものもあれば、得られるものもあるはずです。その天秤にかけたとき、あなたにとってはどちらが重いでしょうか?
「大切なものを守るために管理職になる」という考え方もありますし、「今は守りたいから、今じゃない」と判断するのもまた立派な戦略です。
どちらも正しい選択肢なのです。
重要なのは、自分の価値観を明確にした上で選択することです。曖昧なまま進むと、後で後悔する可能性が高くなります。
【問い③】5年後・10年後、自分はどうなっていたいか?
想像してください。5年後、あなたはどんな姿で教壇に立っていますか?
どんな環境で、どんな役割を担っていますか?10年後、退職が近づいたとき、何を「やりきった」と言いたいですか?
この問いに答えるときは、できるだけ具体的にイメージしてみてください。
「充実していたい」「やりがいを感じていたい」といった抽象的な答えではなく、「○○のような学校づくりに貢献していたい」「△△のような教師を育てていたい」といった具体的なビジョンを描くことが大切です。
未来から逆算することで、今の選択に納得感が生まれます。また、現在の迷いも、将来の目標から見れば一時的なものだと気づけることもあります。
【まとめ】答えは外にあるのではない。あなたの内側にある
管理職を目指すべきかどうか。その問いに対して、外から「こうすべき」と言える人はいません。
なぜなら、それはキャリアの選択ではなく、「人生の選択」だからです。
あなたの家族構成、価値観、将来への希望、現在の状況…これらすべてを総合的に考慮できるのは、あなた自身だけです。
だからこそ、他人の意見に振り回されるのではなく、自分自身の価値観やビジョン、生活とのバランスを大切にしながら、「自分にとっての納得解」を探していく必要があります。
3つの問いに、ぜひ紙に書いて答えてみてください。頭の中で考えるだけでなく、実際に文字にすることで、自分の本当の気持ちが見えてくることがよくあります。
「自分は何を変えたいのか、影響を与えたいのか?」
「何を大切にして働きたいか?」
「10年後、どうありたいか?」
この3つの問いに正直に答え、それぞれの答えを見比べてみてください。
そこに一貫性があるか、矛盾がないかを確認することで、自分にとって最適な選択が見えてくるはずです。
その答えが、あなたにとっての”正解の道”を教えてくれます。
たとえ周囲からどう言われようとも、自分で納得して選んだ道であれば、きっと充実した教育者人生を歩むことができるでしょう。
最後に一つ付け加えるなら、この選択は一度きりのものではありません。
人生の状況や価値観は変化するものです。今回の答えがこれからずっと変わらないものである必要はありません。
大切なのは、その時々で真剣に自分と向き合い、納得のいく選択を続けていくことなのです。