「正しいこと」を言えば言うほど、子どもが動かなくなる理由 ― 思春期の子の“やる気”を止めない伝え方

【この記事は特に、中学生〜高校生のお子さんに「宿題は?」「スマホばかり見ないで」「そのままだと困るよ」と声をかけるたび、返事が鈍くなる、黙る、反発されると感じている保護者の方に向けて書いています】
「言っていることは間違っていないはずなのに、なぜか子どもが動かない」
思春期の子を育てていると、こうした場面は珍しくありません。
生活リズムが乱れている、勉強が進まない、提出物がたまっている。
放っておけば不利益があると分かるからこそ、先回りして伝えたくなる。
親としては当然です。
ところが、その“正しさ”が、かえって子どものやる気をしぼませることがあります。
これは、親の愛情が足りないからでも、伝え方が極端に下手だからでもありません。
背景には、思春期の子どもが強く求める「自分で決めたい」という感覚と、外から強く押されると反発したくなる心理的リアクタンス、そして感情と行動の調整システムがまだ発達途上にあるという脳の発達特性があります。
1.Point:子どもを止めているのは「自分で決める余地を奪われた感覚」
結論から言えば、子どもが動かなくなるのは、親の言葉が正しいからではなく、その言葉が“統制”として届いたときです。
思春期の子は、まだ未熟でありながらも、子ども扱いされることには敏感です。
そこで「今すぐやりなさい」「そんなの当たり前でしょ」「後で困るのはあなた」と言われると、内容以前に、「自分の頭で考える余地がない」「信用されていない」と受け取りやすくなります(Van Petegem et al., 2015)。
すると、やる気が高まるどころか、黙る、先延ばしする、言い返す、わざと動かない、といった反応が出やすくなります。
保護者が目指すべきなのは、正論を減らして放任することではありません。
そうではなく、必要な方向づけは保ちつつ、最終的な主体を子どもに返すことです。
思春期の支援で効くのは、「正しいことを言うこと」そのものではなく、「この子が自分で動ける形で伝えること」です(Teuber et al., 2022)。
2.Reason:なぜ正論が逆効果になるのか――心理学と脳科学から見る3つの背景
① 人は「自分で選んでいる」と感じるときに、最も動きやすい
自己決定理論では、人が健やかに動機づけられるためには、自律性、有能感、関係性の3つの基本的心理欲求が満たされることが重要だと考えます(Joussemet et al., 2008)。
ここでいう自律性は、「好き勝手にすること」でも「親が何も言わないこと」でもありません。
自分の行動が“自分の意思とつながっている”と感じられることです。
親の関わりがこの感覚を支えると、子どもは親の助言を“管理”ではなく“支援”として受け取りやすくなります。
逆に、正しいことでも統制的に伝わると、子どもは内容を取り入れにくくなります。
② 「正論」そのものより、「言われ方」が反発を生む
人は自分の自由や選択の余地が脅かされたと感じると、それを取り戻そうとして反発しやすくなることが示されています(Steindl et al., 2015)。
心理的リアクタンスと呼ばれる現象です。
特に、“しなさい”“すべき”にあたるような強い命令調・圧力の強い言い回しは、怒りや反論を引き起こしやすく、説得の効果を下げます。
思春期の子どもを対象にした研究でも、統制的な養育は「圧をかけられている」という感覚や反発を高め、その結果として外在化問題・内在化問題の双方と関連することが示されています(Van Petegem et al., 2015)。
つまり、「正しいことを言っているのに響かない」のではなく、“押された”ことで、話の中身に入る前に心が閉じているのです。
③ 思春期の脳は、感情が先に立ちやすく、落ち着いて受け取る力がまだ育ちきっていない
ある心理学者は、思春期を、感情や報酬への反応が高まりやすい一方で、それを長期的視点で調整するシステムがまだ成熟途中にある時期として説明しています(Steinberg, 2005)。
要するに、子どもが「分かっているのにできない」のは珍しいことではありません。
そこへ外から正論が重なると、「考える」より先に「責められた」「管理された」という感情が立ち上がりやすい。
親から見ると怠慢に見える行動も、実際には情動の高ぶりと自己調整の未成熟さが背景にある場合があります。
④ 思春期は、親から離れる時期ではなく、「親とは別の一人として立ち上がる」時期
思春期は「第二の個体化」の時期とも呼ばれます(Blos, 1967)。
現代の発達心理学でこの概念をそのまま理論として用いることは少なくなりましたが、思春期の子どもが親への依存のあり方を変化させながら、自分というものを形成していくという考え方は、今も理解の手がかりになります。
ここで言う「自立」とは、親に逆らうことでも、親と縁を切ることでもありません。
親のサポートを受けながらも、自分で判断し、自分で責任を引き受ける割合を少しずつ増やしていくことが、この時期の発達課題です。
そう考えると、子どもが正論に反発するのは単なるわがままではなく、まだ未熟な形をとった「自立への要求」として見たほうが、実態をよく捉えていると言えます。
3.Example:明日から使える「アドバイスを効く形に変える」4つの関わり方
① いきなり助言せず、先に「聴く」と「許可を取る」を入れる
思春期の子は、話し始めた時点ではまだ整理できていないことが多いものです。
そこに即座に解決策を出すと、「分かってもらえなかった」「結局また指示か」で終わりやすくなります。
まずは、
「それ、かなりしんどかった?」
「今は、意見がほしい? それとも、まず聞いてほしい?」
と、気持ちの受け止めとどうして欲しいのか確認を入れてください。
このひと手間で、親の言葉は“侵入”から“支援”に変わります。
自律性支援とは、何も言わないことではなく、子どもの視点を先に尊重したうえで働きかけることです(Joussemet et al., 2008)。
② 「命令」ではなく、「観察+心配+問いかけ」で返す
たとえば、
「いつまでスマホ見てるの。早く勉強しなさい」
ではなく、
「ここ3日、寝るのが遅くなっているのが気になってる。明日の朝がつらくならないか、私はそこが心配。今日はどうするつもり?」
と伝えます。
この形の利点は、親の役割を放棄していない点です。
事実を見て、心配を言語化し、最後は判断を子どもに返している。
これが自律性支援的な伝え方です。
「私はこう見えている」「私はここを心配している」と親自身を主語にして話すと、子どもも防御的になりにくくなります。
③ 選択肢は“無限”ではなく、“現実的に2つか3つ”渡す
「自分で決めて」は一見よさそうですが、疲れている子には丸投げに聞こえることがあります。
逆に「こうしなさい」は統制になります。
間を取るのが、現実的な選択肢を少数提示する方法です。
たとえば、
「今日は、夕食前に30分だけやるか、食後に1時間やるか、どっちが現実的?」
「提出物は、今夜ここまで進めるか、朝に私と一緒に確認するか、どちらにする?」
という具合です。
選択肢を持てると、子どもは”やらされている”感覚が薄れ、自分がそう決めたという感覚を持ちやすくなります。
近年の研究(Çelik et al., 2024; Teuber et al., 2022)でも、親の自律性支援は、基本的心理欲求の充足や自己統制を通じて学業動機づけを高めることが報告されています。
④ 落ち着いているときに、「声かけの取り決め」を作っておく
揉めている最中に関わり方を変えるのは難しいので、普段、普通に関われている時にルールを決めます。
たとえば、
「勉強のことは20時に一度だけ確認する。それ以外の時間には触れない」
「機嫌が悪いときは“今は後で”と言ったら、30分は追わない」
「困ったときは“手伝って”と言えば一緒に段取りをする」
といった具合です。
この種の取り決めは、親の不安を減らすだけでなく、子どもにとっても見通しになります。
見通しがあると、声かけが“監視”ではなく“約束”として受け取られやすくなります。
長期的に見ると、支える親と管理する親の差は、こういう日々の細かなやり取りに表れます。
4.Point:親の役目は、子どもが自分で動ける土台を守ること
思春期の子に対して、親が毎回“正しいこと”を言う必要はありません。
必要なのは、関係を壊さず、境界を保ち、最後の決定権を子どもに戻すことです。
そのためには、親が沈黙する場面も必要ですし、言うべきことを短く言って引く場面も必要です。
放任ではなく、過干渉でもない。
支えながら、任せる。これが思春期対応の基本です。
子育てに詳しいある心理学者はこう言っています。
親に求められるのは”完璧な親”であることではなく、子どもが激しい感情をぶつけてきたときに、感情的に言い返したり、その場から逃げたりせず、嵐が過ぎたあとも「ここにいるよ」と戻ってこられることだ、と(Winnicott, 1971)。
ただし、これは「親が何をされても耐えるべきだ」という意味ではありません。
暴言や暴力が続く、学校生活が崩れている、抑うつ・不登校・自傷・摂食の問題がある場合は、家庭だけで抱えず、学校、スクールカウンセラー、医療機関につなぐ判断が必要です。
正論を一つ減らした日に、親として負けたわけではありません。
むしろ、子どもが自分の足で立つための余白を作った、ということです。
思春期の親子関係で本当に効くのは、言葉の量ではなく、子どもの主体性をつぶさない関わり方です。
そこを押さえるだけで、家庭内の空気はかなり変わります。
参考文献
- Blos, P. (1967). The second individuation process of adolescence. The Psychoanalytic Study of the Child, 22(1), 162-186.
- Çelik, O., et al. (2024). Academic motivation in adolescents: the role of parental autonomy support, psychological needs satisfaction and self-control. Frontiers in Psychology.
- Joussemet, M., Landry, R., & Koestner, R. (2008). A Self-Determination Theory Perspective on Parenting. Canadian Psychology.
- Steinberg, L. (2005). Cognitive and affective development in adolescence. Trends in Cognitive Sciences, 9(2), 69-74.
- Steindl, C., Jonas, E., Sittenthaler, S., Traut-Mattausch, E., & Greenberg, J. (2015). Understanding psychological reactance: New developments and findings. Zeitschrift für Psychologie, 223(4), 205-214.
- Teuber, Z., et al. (2022). Autonomy-related Parenting Profiles and their Effects on Adolescents’ Academic and Psychological Development: A Longitudinal Person-oriented Analysis. Journal of Youth and Adolescence.
- Van Petegem, S., et al. (2015). Rebels with a cause? Adolescent defiance from the perspective of reactance theory and self-determination theory. Child Development, 86(3), 903-918.
- Winnicott, D. W. (1971). Playing and Reality. Tavistock Publications.

