「テストでいい点とったらゲームOK」が、子どものやる気を奪う理由

「テスト勉強、ちゃんとしてる?」と声をかけても、スマホから目を離さないお子さん。
つい「次のテストで良い点取ったら、あのゲーム買ってあげる!」と提案したくなるお父さん、お母さんのお気持ちはよくわかります。
でも実は、心理学の研究では、この「ご褒美作戦」には少し注意が必要だと分かっています。
とくに、もともとある程度おもしろさや関心を感じられる活動に対して、期待された物的報酬を強く結びつけると、内側からのやる気が弱まることがあると報告されています。
この記事では、良かれと思ったご褒美が、条件によってはなぜ学習意欲を弱めてしまうのか、その心の仕組みを紐解きます。
「私の育て方が悪いのでは」と一人で悩む必要はありません。
子どもが本来持つ「知りたい」という気持ちを育てるヒントをお伝えします。
今日から少しだけ、親子の関わり方を変える「新しい眼鏡」をかけてみませんか。
1.Point:結論・伝えたいこと
「テストで良い点を取ったらご褒美」という約束は、一時的には効果があるように見えます。
しかし、長い目で見ると、とくに“報酬がないと動きにくい状態”をつくってしまう危険があります。
「ご褒美で釣る」ような進め方は、どうしてもここぞという時の“一時しのぎ”になりがちです。
学習へのモチベーションをすべて報酬だけで回そうとすると、どこかで無理が生じてしまうのです。
思い通りに動かないわが子を見て、焦りや無力感を感じるのは当然のことです。
「私の育て方が間違っていたのだろうか」と自分を責めてしまうこともあるかもしれません。
でも、ここで問題にしたいのは、親の愛情の不足ではなく、やる気が“どういう条件で育ち、どういう条件で弱まりやすいか”という仕組みです。
心理学という眼鏡をかけて、その仕組みを見ていきましょう。
2.Reason:心理学的な背景(なぜそうなるのか)
なぜ、ご褒美がやる気を奪ってしまうことがあるのでしょうか。
心理学ではこれを、しばしばアンダーマイニング効果として説明します(Deci, Koestner & Ryan, 1999)。
人は本来、誰から言われなくても「新しいことを知るのが楽しい」「昨日できなかったことができるようになりたい」という、心の内側から湧き上がるエネルギーを持っています。
自己決定理論では、こうした学びを支える基盤として、自律性(自分で取り組んでいる感覚)・有能感(できそうだ、伸びているという感覚)・関係性(大切にされている感覚)という基本的心理欲求が重視されます(Ryan & Deci, 2020; Niemiec & Ryan, 2009)。
幼い頃、お子さんがアリの巣を何時間も観察したり、泥だらけになって砂山を作ったりしていた姿を思い出してみてください。
あれこそが、純粋な「内側からのやる気」です。
しかし、そこに「ゲーム」や「お小遣い」といった外的報酬が前面に出てくると、子どもの心の中で、“勉強そのものの意味”より“報酬を得ること”が主役になりやすいのです。
とくに、報酬が「管理されている」「やらされている」と感じられる形で使われると、自律性が損なわれやすいと考えられています(Deci, Koestner & Ryan, 2001; Ryan & Deci, 2020)。
最初は「知るのが楽しい」から勉強していたはずなのに、いつの間にか「ゲームを手に入れるため」に勉強するようになる。
すると、ご褒美がなくなった途端に勉強が続きにくくなることがあります。
自己決定理論では、報酬や罰によって動く状態は、外発的動機づけの中でもとくに自律性の低い形であり、統制が外れると維持されにくいと整理されています(Niemiec & Ryan, 2009)。
もちろん、ここで「ご褒美は絶対に悪い」と言いたいわけではありません。
研究が示しているのは、報酬の種類や与え方によって影響は変わるということです。
能力や成果を管理するための報酬として機能すると逆効果になりやすい一方で、本人の有能感を支える情報的なフィードバックは、動機づけを支える場合もあります(Deci, Koestner & Ryan, 2001)。
3.Example:具体的な事例や今日からできるワーク
「そうは言っても、ご褒美なしで自分から勉強するなんて、一部の優秀な子だけでしょ。現実はそんなに甘くない」
そう感じる親御さんが多いのは自然です。
私も大学教員や臨床心理士として理屈を語ることはできますが、家では不器用な親です。
現在高校生の娘が中学生だった頃、反抗期も重なり全く勉強しない時期がありました。
焦った私は、つい「次の模試でC判定以上なら、欲しがってた服を買ってやる」と言ってしまったことがあります。
結果はどうだったか。
その場しのぎで詰め込み、服を手に入れた後は、何かを買ってもらわなければ、机に向かわない時期が続きました。
もちろん、これは私個人の体験であって研究そのものではありませんが、報酬が短期的には効いても、学習の自律性を育てるとは限らないことを実感した出来事でした。
では、私たちはどうすればいいのでしょうか。
今日からできる具体的な一歩として、3つの視点をご提案します。
① 「モノ」から「コト」へ、ご褒美の形を変える
いきなりご褒美をゼロにするのは、親も子も不安です。
まずは、ゲームやお金といった「モノ」だけを前面に出す関わりから、一緒に過ごす時間や会話など、関係性を感じやすい関わりへ少しずつシフトしてみましょう。
「この課題が終わったら、一緒に美味しいケーキを焼こうか」
「テストが終わったら、ずっと行きたがっていたあの映画を観に行こう」
こうした関わりは、学習を完全に外から操作するというより、頑張りの節目を一緒に共有する関わりに近づきます。
少なくとも、学習の意味が「物をもらうこと」だけに回収されにくくなります。
関係性や自律性を支える文脈のほうが、学びの内在化を促しやすいと考えられています(Ryan & Deci, 2020; Niemiec & Ryan, 2009)。
② 「結果」だけでなく「過程」を言語化する
結果を認める(褒める)ことは大切です。
しかし、結果だけに焦点を当てた評価や能力そのものを固定的に褒めることは、子どもを「賢く見えること」へ向かわせやすく、失敗場面で粘りを下げることがあります。
一方で、努力の仕方、工夫、粘り強さといった過程への注目は、学習目標志向(能力を伸ばすことや、新しい知識・スキルの習得自体を目的とする姿勢)や成長可能感につながりやすいことが示されています(Mueller & Dweck, 1998; Gunderson et al., 2013)。
ですから、
「100点取ってすごい」
だけで終えるよりも、
「昨日より15分長く机に向かえていたね」
「この数学の問題、何度も消して考えていたね」
のように、取り組み方そのものを具体的に言葉にするほうが有効です。
これは単なる“褒めテクニック”というより、子どもが「何を手がかりに自分を評価すればよいか」を学ぶ支援でもあります(Mueller & Dweck, 1998; Gunderson et al., 2013)。
③ 親自身の「焦り」を紙に書き出す
お子さんに向き合う前に、まずは親自身の状態を整えることも大切です。
「なぜ私はこんなに焦っているのか」
「いい学校に入れないと苦労すると思っているから」
「周りと比べてしまうから」
そんなふうに、自分の不安を紙に書き出してみてください。
これは心理学の研究をベースにした、親御さんが「子どもを無理にコントロール(統制)してしまわないため」の具体的なアプローチです。
親が焦りに飲み込まれるほど、子どもに対する関わりが「支える」より「動かす」に傾きやすいのは自然なことです。
だからこそ、親自身がいったん立ち止まる工夫には意味があります。。
4.Point:まとめとエール
良かれと思った「ご褒美」が、条件によっては、子どもが本来持っている「知る喜び」を弱めてしまうメカニズムについてお話ししてきました。
ご褒美は即効性のある方法ですが、学習そのものの価値よりも、外から与えられる見返りが主役になってしまうと、自律的な学びは育ちにくくなります(Deci, Koestner & Ryan, 1999; Ryan & Deci, 2020)。
焦って結果を出させようとするより、子どもが「自分でやってみよう」と思える余地を残すこと、少しずつでも「できた」「分かった」と感じられるように支えること、そして親子の関係の中で安心して試行錯誤できる空気をつくること。
そうした関わりのほうが、長期的には学習意欲と適応を支えやすいと考えられています(Black & Deci, 2000; Niemiec & Ryan, 2009)。
今日から少しだけ視点を変えて、お子さんが不器用に試行錯誤する「過程」を見てみてください。
親がすべきことは、外から強く引っ張ることだけではありません。
学びたくなる条件を整えることも、立派な支援です。
参考文献
- Black, A. E., & Deci, E. L. (2000). The effects of instructors’ autonomy support and students’ autonomous motivation on learning organic chemistry: A self-determination theory perspective. Science Education, 84(6), 740–756.
- Deci, E. L., Koestner, R., & Ryan, R. M. (1999). A meta-analytic review of experiments examining the effects of extrinsic rewards on intrinsic motivation. Psychological Bulletin, 125(6), 627–668.
- Deci, E. L., Koestner, R., & Ryan, R. M. (2001). Extrinsic rewards and intrinsic motivation in education: Reconsidered once again. Review of Educational Research, 71(1), 1–27.
- Gunderson, E. A., Gripshover, S. J., Romero, C., Dweck, C. S., Goldin-Meadow, S., & Levine, S. C. (2013). Parent praise to 1- to 3-year-olds predicts children’s motivational frameworks 5 years later. Child Development, 84(5), 1526–1541.
- Mueller, C. M., & Dweck, C. S. (1998). Praise for intelligence can undermine children’s motivation and performance. Journal of Personality and Social Psychology, 75(1), 33–52.
- Niemiec, C. P., & Ryan, R. M. (2009). Autonomy, competence, and relatedness in the classroom: Applying self-determination theory to educational practice. Theory and Research in Education, 7(2), 133–144.
- Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2020). Intrinsic and extrinsic motivation from a self-determination theory perspective: Definitions, theory, practices, and future directions. Contemporary Educational Psychology, 61, 101860.

