震災の避難所で見た「回復の条件」は、ビジネス現場の若手にも共通しているのか?

皆様、こんにちは。前回は、個人のメンタルに原因を求める「自己責任論」が、いかに組織のつながりを分断してしまうかについてお話ししました。
これまでの連載では、私の原体験として東日本大震災での出来事に触れてきました。
震災のような極限状況では、人間や組織の本質が浮かび上がります。
ただし、そこで見えた「回復」や「立ち直り」のメカニズムは、災害時だけに当てはまる特殊な話ではありません。
今回は、震災の現場で見えたことを出発点にしながら、私が日々接している大学生や全国の学校の先生方、さらに現代の組織研究が示している知見を重ね合わせつつ、「組織における回復の条件」について考えてみたいと思います。
1.立ち直るための条件は「個人の強さ」よりも「つながり」である
ビジネスの現場で若手が壁にぶつかったとき、あるいはチームが大きな目標に対して挫折を味わったとき、そこから立ち直るために必要なのは何でしょうか。
「不屈の精神」や「一人で耐え抜く強さ」だと考えるリーダーやマネージャーは少なくありません。
しかし、心理学の知見から見ると、人が挫折から回復し、再び歩み始めるために重要なのは、「個人の心の強さ」だけではありません。
むしろ、いざというときに頼ることのできる支援のネットワークがあること、自分の弱さや困りごとを安心して言葉にできる関係性があることが、回復を支える重要な条件になります(Cohen & Wills, 1985; Masten, 2001)。
2.「自立」を勘違いしている組織は、回復力(レジリエンス)を弱めてしまう
心理学におけるレジリエンス研究では、困難を乗り越える力は、個人の気質や性格だけで決まるのではなく、身近な支援関係や日常的な適応システムによって支えられることが示されてきました。
ある研究では、レジリエンスを特別な才能ではなく、「日常にあるふつうの支え」が生み出すものとして整理されています(Masten, 2001)。
また、ソーシャルサポートがストレスの悪影響を和らげる働きをもつことも示されています(Cohen & Wills, 1985)。
ところが、ビジネスの現場ではしばしば、「自立した社会人」であることが、「誰にも頼らず一人で仕事を完結できること」として理解されがちです。
この定義のままでは、若手は壁にぶつかったときに「助けてください」と言いにくくなります。
一人で課題を抱え込み、周囲から見えないところで疲弊し、結果として回復のきっかけを失ってしまうのです。
自立とは誰にも依存しないことではなく、依存先を分散し、広げていくことと捉えるほうが、実態に即しています(熊谷, 2009)。職場の上司一人だけに頼るのではなく、同期、他部署の先輩、社外の学びの場、あるいは気軽に相談できる知人など、複数のつながりを持っている人のほうが、変化や失敗に直面したときにも立て直しやすくなります。
また、指摘した「弱いつながり」は、新しい情報や別の視点へのアクセスをもたらすという点で重要です(Granovetter, 1973)。回復力とは、孤独に耐える力ではなく、必要なときに適切なつながりへアクセスできる力でもあるのです。
3.大学、教員研修、そしてビジネス書が示す「回復」の共通点
この「つながりこそが回復を支える」という点は、私がこれまで関わってきたさまざまな現場でも共通して見えてきました。
震災後の避難所という極限状態において、比較的早く日常性を取り戻していったのは、ただ歯を食いしばって一人で耐え続けた人たちというよりも、自分の悲しみやつらさを言葉にし、周囲とのつながりを少しずつ回復していけた人たちだったように、少なくとも私の目には映りました。
感情を抱え込まないことと、人との関係を結び直していくことが、立ち直りの重要な条件になっていたのです。
現在、私は大学で教えていますが、学生たちを見ていても、よく似た構図を感じます。
就職活動や研究で行き詰まったとき、一人で抱え込み、完璧な答えを出そうとする学生ほど、次の一歩が遅れがちです。
これに対して、「ここが分からない」「うまくいかなくて落ち込んでいる」と周囲に率直に言える学生は、支援を受けながら次の行動へ移りやすくなります。
回復の速さを左右しているのは、本人の気合いだけではなく、助けを求められる関係性があるかどうかです。
また、学校の先生方との研修など通して感じるのは、教育現場でも同じことが起きているという点です。
多忙な現場で燃え尽きを防ぎ、働き続けている先生は、「教室を自分一人で抱え込まない先生」です。
隣のクラスの先生や学年主任に「あの子への対応で悩んでいて」と相談できるかどうか、互いの知恵を持ち寄れるかどうかが、状態を大きく左右します。
こうしたことは、近年の組織研究とも重なります。
心理的安全性の研究では、安心して発言したり、分からないと言えたり、助けを求めたりできる環境が、学習行動や協働を支える重要な条件だとされています(Edmondson, 1999; Newman et al., 2017)。
問題が起きたとき、それを個人の弱さとして切り離すのではなく、チームの課題として共有できる組織のほうが、結果として立て直しやすいのです。
4.リーダーの役割は「強い個人」を作ることではなく、「かかわり方」を変えること
ここまで見てくると、リーダーやマネージャーが職場で果たすべき役割も見えてきます。
若手が壁にぶつかっているとき、「もっとメンタルを強く持て」と励ますことや、「自分が一対一で何とかしてあげよう」と抱え込むことだけでは、十分ではありません。
必要なのは、対象となる個人の性格を変えようとすることではなく、リーダー自身がチームへのかかわり方を少し変えることです。
たとえば、若手を他部署の人とも接点を持てるプロジェクトにアサインし、上司―部下の一本線だけではない「斜めの関係」をつくること。
あるいは、会議の場で「これは誰か一人の問題ではなく、チーム全体の課題として考えよう」と言語化し、意見や不安を出しやすい空気をつくること。
そうした実践は、弱さや困りごとを表に出しても大丈夫だという感覚を育て、結果として回復力のある組織につながっていきます(Edmondson, 1999; Newman et al., 2017)。
強さを強要するのではなく、弱さを出発点にして人と人とがつながれる環境をデザインすること。
リーダーの仕事は、「一人で耐えられる人」を育てることではなく、「必要なときに支え合える組織」をつくることにあります。
そこにこそ、何度転んでも立ち上がれる、しなやかな組織の土台があります。
引用・参考文献
- Cohen, S., & Wills, T. A. (1985). Stress, social support, and the buffering hypothesis. Psychological Bulletin, 98(2), 310–357.
- Edmondson, A. (1999). Psychological safety and learning behavior in work teams. Administrative Science Quarterly, 44(2), 350–383.
- Granovetter, M. S. (1973). The strength of weak ties. American Journal of Sociology, 78(6), 1360–1380.
- 熊谷晋一郎 (2009). リハビリの夜 医学書院
- Masten, A. S. (2001). Ordinary magic: Resilience processes in development. American Psychologist, 56(3), 227–238.
- Newman, A., Donohue, R., & Eva, N. (2017). Psychological safety: A systematic review of the literature. Human Resource Management Review, 27(3), 521–535.

