「メンタルが弱いから」は本当か?自己責任論がチームの分断と離職を加速させる理由

今回は、若手が離職したり、チームのパフォーマンスが落ちたりしたときに、職場でしばしば語られるある見方について考えてみたいと思います。
それは、「最近の若手はメンタルが弱い」「ストレス耐性が低いから辞めたのだ」という見方です。

成果が出ないことや、組織になじめないことを、個人の心の問題として片づけてしまう考え方は、職場ではとても広がりやすいものです。
しかし、この見方は、問題の背景にある組織の条件や関係性を見えにくくし、結果として孤立や分断を深めてしまうことがあります。
離職や不調を「個人の弱さ」の物語だけで理解しようとすると、組織の側が見直すべき点が置き去りになってしまうからです。

1.「メンタルの弱さ」に原因を求める限り、組織の孤立は防げない

若手の離職が起きたとき、「あの人はうちの文化に合わなかった」「メンタルが弱かった」と結論づけることは、残された組織にとって、ある意味ではもっとも負担の少ない説明です。
なぜなら、原因が本人の内面にあると考えれば、組織の仕組みやマネジメントのあり方を見直さなくて済むからです。

しかし、こうした自己責任的な見方だけでは、孤立や離職の連鎖を防ぐことはできません。
もちろん、個人差やその時々の心身の状態が影響することはあります。
けれども、実際の職場適応は、個人の資質だけで決まるものではなく、周囲との関係性や支援のあり方に大きく左右されます。
とりわけ、安心して発言したり、困りごとを共有したり、失敗を表に出したりできる心理的安全性(対人関係のリスクをとっても大丈夫だと感じられる状態)は、学習や協働を支える重要な条件だと考えられています(Edmondson, 1999; Newman et al., 2017)。

もし職場に、「弱音を吐いてはいけない」「迷惑をかけてはいけない」「できないことは見せないほうがよい」という空気が広がっていれば、困ったときに助けを求めること自体が難しくなります。
そうなると、個人は一人で抱え込みやすくなり、チームのなかのつながりも細っていきます。
問題は「心が弱いこと」そのものではなく、弱さや困りごとを表に出せない関係性の乏しさにある場合が少なくありません。

2.自己責任論が「助けを求める力」を奪っていく

では、なぜ私たちは、問題が起きるとすぐに「本人のメンタルの問題」と考えてしまうのでしょうか。
社会心理学には、「基本的な帰属の誤り(他者の行動を、その人の性格や能力のせいだと見なしやすい傾向)」という考え方があります。
人は、他者の行動を理解するとき、その人が置かれている状況や環境の影響を過小評価し、性格や能力といった内面的要因を過大評価しやすいことが指摘されています(Ross, 1977)。

つまり、部下がミスをしたり、職場でうまく適応できなかったり、離職したりしたとき、私たちは無意識のうちに、職場の支援体制や役割の曖昧さ、関係性の不全といった状況要因よりも、本人の性格やストレス耐性に原因を求めてしまいやすいのです。

この見方が職場に広がると、「強さ」ばかりが評価される文化が生まれます
すると、部下は「できない自分」を見せないようになり、失敗や不安を抱え込むようになります。
リーダー自身もまた、「管理職なのだから弱音を見せてはいけない」と考え、自分を孤立させていきます。
その結果、助けを求めることも、助けを差し出すことも難しくなります。

支え合いのネットワーク(人と人が実際に助け合える関係)が弱い職場では、ストレスが高まったときに個人が守られにくくなることも、古典的な研究で示されてきました(Cohen & Wills, 1985)。
自己責任論は、単に説明のしかたの問題ではなく、職場の支援機能そのものを弱めてしまうのです。

3.極限の避難所と教室で見た、本当の「強さ」とは

私は東日本大震災の際、自らも被災し、多くのものを失うなかで、臨床心理士として避難所をまわり、人々の声に耳を傾けました。
その極限状態のなかで見たのは、それまで自分が持っていた「強さ」のイメージが大きく揺さぶられる現実でした。

すべてを失った苦しみのなかで、歯を食いしばって感情を押し殺し、決して涙を見せないことは、一見すると強さのように見えます。
しかし、少なくとも私が現場で繰り返し見たのは、苦しみを一人で抱え込み続けることが、そのまま回復につながるわけではない、ということでした。
むしろ、自分の悲しみや不安、つらさを言葉にし、他者とのつながりを少しずつ取り戻していけることが、その後の立ち直りを支える重要な条件になっていました。

これは、教育現場でも、繰り返し感じてきたことです。

不登校や引きこもりの状態にある生徒に対して、「もっと強くなりなさい」「気持ちを切り替えなさい」と個人の奮起だけを求め、既存の教室の枠組みにそのまま適応することを促すアプローチは、しばしば生徒の負担を強めます。
問題を本人の弱さだけで説明している限り、その子が安心していられる場は生まれません。

一方で、生徒が少しずつ表情を取り戻していくのは、教師や周囲の大人が「かかわり方を少し変える」ときです。
強さを要求するのではなく、弱さや違いをそのまま排除しないこと。
誰もが居場所を感じられるように、場の側を調整していくこと。
そうした包摂(違いを前提に、場の側を整える発想)の視点が働いたとき、子どもたちは他者とのつながりを回復し、自分のペースで歩き始めます

4.弱さを隠す職場から、弱さでつながる職場へ

ビジネスの現場でも、目指すべきは、「一人で何でも耐え抜く強い個人」を増やすことではありません。
必要なのは、困ったときに「助けてほしい」と言えること、そして、その言葉が不利益ではなく協働の出発点として扱われる関係性です。

そのためには、まずリーダー自身が、「管理職なのだから完璧でなければならない」という自己責任的な発想から少し降りる必要があります。
リーダーが自らのかかわり方を少し変えること。
たとえば、ミーティングの場で「この業務は私一人では見落としがあるかもしれない。みんなの視点を借りたい」と率直に言ってみる。
あるいは、誰かのミスが起きたときに、すぐに個人の問題として処理するのではなく、「どの条件が重なって起きたのか」をチームで振り返る。
そうした小さな実践が、「ここでは困りごとを表に出しても大丈夫だ」という安心感を生み、心理的安全性を育てていきます(Edmondson, 1999; Newman et al., 2017)。

相手のメンタルを変えることが先なのではありません。
私たちのかかわり方を少し変え、弱さや限界、困りごとを共有できる関係性をデザインすること。
それこそが、人が孤立せず、結果として持続的に力を発揮できる組織をつくる第一歩です。

次回は、この「回復と成長」がどのような条件のもとで生まれるのかについて、極限状態の避難所で見えてきたことを手がかりに、さらに掘り下げていきます。

引用・参考文献

  • Cohen, S., & Wills, T. A. (1985). Stress, social support, and the buffering hypothesis. Psychological Bulletin, 98(2), 310–357.
  • Edmondson, A. (1999). Psychological safety and learning behavior in work teams. Administrative Science Quarterly, 44(2), 350–383.
  • Newman, A., Donohue, R., & Eva, N. (2017). Psychological safety: A systematic review of the literature. Human Resource Management Review, 27(3), 521–535.
  • Ross, L. (1977). The intuitive psychologist and his shortcomings: Distortions in the attribution process. In L. Berkowitz (Ed.), Advances in experimental social psychology (Vol. 10, pp. 173–220). Academic Press.

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