「死にたい」という言葉の奥にある叫びを聴く――親にできる最初の対応

「死にたい」。
わが子の口からその言葉がこぼれたとき、親の心は凍りつきます。
「育て方が悪かったのか」と自分を責めるのも自然です。

ですが、まず大事なのは、自分を責めることではありません。
その言葉を軽く見ずに受け止めることです。
自殺念慮(自殺を考えること)は、強い心理的苦痛と深く関係します。

この記事では、ゲートキーパー(身近な人の変化に気づき、支援につなぐ人)という視点から、親が最初に何をすべきかを整理します。
大切なのは、励ましの言葉を急いで返すことではありません。
まずは、安全を確かめ、苦しさを言葉にできる場をつくることです。

1.Point:「死にたい」は、強い苦しさのサインです

お子さんが「死にたい」と言ったとき、その言葉はしばしば「今の苦しみから逃れたい」という切迫した気持ちを表しています。
強い心理的苦痛が、自殺念慮と関係することは多くの研究で示されています(Verrocchio et al., 2016; Baryshnikov & Isometsä, 2022)。

ただし、ここで「本気ではないはず」「助けてほしいだけだろう」と決めつけてはいけません。
中には、実際に方法を考えていたり、かなり危険な状態にある子どももいます。
ですから、「死にたい」はSOSかもしれないし、切迫した危険のサインかもしれない、その両方を含む言葉として受け止める必要があります(AACAP, 2001; NIMH, 2025)。

親は、つい「そんなこと言わないで」「生きていればいいことがある」と返したくなります。
ですが、最初の対応で大切なのは、説得より確認です。
「それくらいつらいんだね」「今すぐ傷つけたい気持ちはある?」と、落ち着いて確かめるほうが重要です。
自殺について直接たずねることが、子どもにその考えを植え付けるわけではない、という知見もあります(Gould et al., 2005; NIMH, 2020)。

2.Reason:心の中では「生きたい気持ち」と「消えたい気持ち」が同時に揺れます

心理学や自殺学では、両価性(相反する気持ちを同時に抱くこと)が重視されます。
自殺を考える人は、「消えてしまいたい」と思う一方で、「助けてほしい」「分かってほしい」とも感じていることがあります(Pompili, 2024)。

ですから、「死にたい」という言葉を聞いたときに、周囲がすぐに「そんなこと考えちゃダメだ」と押し返すと、子どもは苦しさの部分を分かってもらえなかったと感じやすくなります。
すると、孤立感が強まることがあります。
まず苦しさを言葉にできる場をつくることには意味があります(Pompili, 2024; AACAP, 2001)。

ただし、ここも大事です。
「受け止めれば大丈夫」とは言えません。
話を聴くことは大切ですが、それだけで安全が確保されるわけではありません。
危険が高いときは、家庭内の対話だけで抱えず、医療や相談機関につなぐ必要があります(AACAP, 2001; Stanley & Brown, 2012)。

3.Example:今日からできる親の対応

① まずは「安全」を確かめる

最初にすることは、気持ちの分析ではなく安全確認です。
次のように、短く、はっきり聞きます。

  • 「今、死にたい気持ちはどれくらい強い?」
  • 「自分を傷つけたい気持ちはある?」
  • 「何か方法を考えている?」
  • 「今、一人にしないほうがいい状態かな?」

こうした質問は、子どもを追い詰めるためではありません。
今の危険度を確かめ、必要な支援につなぐためです。
直接聞くこと自体は有害ではないとされています(Gould et al., 2005; NIMH, 2020)。

もし、方法を口にする、道具を集めている、遺書のような言動がある、別れを告げる、急に落ち着きすぎるといったサインがあるなら、緊急性は高いです。
その場合は、一人にしないこと、刃物・薬・ひも類・火器など危険物を遠ざけること、そしてすぐに専門機関につなぐことが必要です(NIMH, 2025; AACAP, 2001)。

② すぐに励まさず、短く聴く

安全を確かめたら、次は傾聴です。
ここで大切なのは、長い助言ではなく、短い受け止めです。

  • 「そんなにつらかったんだね」
  • 「今まで一人で抱えていたんだね」
  • 「話してくれてありがとう」
  • 「今は解決を急がず、まず安全を一緒に考えよう」

この段階では、正論を言うより、苦しさを言葉にしてもよい場だと伝えることが大切です。
ゲートキーパー支援では、直接たずねること、聴くこと、支援につなぐことが基本になります(Quinnett, 2012)。

「沈黙を共有する」こともときに大切です。
話せないときは、無理に言葉を引き出さなくてもかまいません。
ただし、沈黙だけで終わらせず、安全確認と支援につなぐ流れを必ず持つことが必要です。

③ 「安全計画」を一緒につくる

安全計画(危機のときに何をするかを決めたメモ)は、とても有効です。
ある研究では、危機の前後に使える具体的な手順として、次のような項目を挙げています(Stanley & Brown, 2012)。

  • 危なくなりそうなサインを書き出す
  • 一人でできる落ち着き方を決める
  • 気をそらせる場所や人を決める
  • すぐ連絡する大人を決める
  • 医療機関や相談窓口を書いておく
  • 危険物を遠ざける

親が勝手に決めるのではなく、お子さんと一緒に決めることが大切です。
誰なら話しやすいか、どこなら少し落ち着けるかを、本人の感覚で選べるようにします(Stanley & Brown, 2012)。

④ 親自身も一人で抱えない

「聴いている自分のほうがつぶれそうだ」と感じるのは自然です。
こうした場面では、親も強い不安や無力感にさらされます。
だからこそ、親自身が相談先を持つことが必要です。
これは弱さではありません。
支援を続けるための条件です(AACAP, 2001)。

4.Point:親にできるのは、「全部解決すること」ではなく「安全をつなぐこと」

「死にたい」という言葉を聞くと、親は何とかしてすぐ元気にさせようとしてしまいます。
ですが、親の役割は、一回で解決することではありません。
まずは、危険を見逃さないこと。
苦しさを否定せずに受け止めること。
そして、必要な支援につなぐことです。

「死にたい」は、しばしば強い苦痛の表現です。
そしてその言葉には、苦しみから逃れたい気持ちと、助かりたい気持ちが入り混じっていることがあります(Pompili, 2024)。

明日からできることは、ひとつです。
何かうまい言葉を探すより先に、
「今、どれくらい危ないか」
「一人にしないほうがいいか」
「次に誰につなぐか」
を確認してください。親のまなざしは大事です。
ですが、命を守るには、まなざしに加えて具体的な安全行動が必要です(Stanley & Brown, 2012; NIMH, 2025)。

補足
※ 次のような場合は、家庭だけで抱えず、すぐに専門機関へ相談してください。

  • 具体的な方法を話している
  • 道具を集めている
  • 自分を傷つけた直後である
  • 一人にすると危ないと感じる
  • 酒や薬で判断力が落ちている
  • 「もう終わりにする」など別れを思わせる言動がある

※ 日本で保護者や子どもが使える公的な相談先として、文部科学省の24時間子供SOSダイヤル(0120-0-78310)、厚生労働省の「まもろうよ こころ」の相談窓口一覧があります。

参考文献

  • American Academy of Child and Adolescent Psychiatry. (2001). Practice parameter for the assessment and treatment of children and adolescents with suicidal behavior.
  • Baryshnikov, I., & Isometsä, E. (2022). Psychological pain and suicidal behavior: A review. Frontiers in Psychiatry.
  • Gould, M. S., Marrocco, F. A., Kleinman, M., Thomas, J. G., Mostkoff, K., Cote, J., & Davies, M. (2005). Evaluating iatrogenic risk of youth suicide screening programs: A randomized controlled trial. JAMA.
  • National Institute of Mental Health. (2020). Parent/Guardian Flyer: Asking kids questions about suicide is safe.
  • National Institute of Mental Health. (2025). Warning signs of suicide.
    https://www.nimh.nih.gov/health/publications/warning-signs-of-suicide
  • Pompili, M. (2024). On mental pain and suicide risk in modern psychiatry. Annals of General Psychiatry.
  • Quinnett, P. (2012). QPR gatekeeper training for suicide prevention: The model, theory and research.
  • Stanley, B., & Brown, G. K. (2012). Safety planning intervention: A brief intervention to mitigate suicide risk. Cognitive and Behavioral Practice.
  • Verrocchio, M. C., Carrozzino, D., Marchetti, D., Andreasson, K., Fulcheri, M., & Bech, P. (2016). Mental pain and suicide: A systematic review of the literature. Frontiers in Psychiatry.

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