なぜ今、大人の職場に「つながり」が必要なのか?教育現場の課題から見えた、現代ビジネスの孤立

これまで、このブログでは主に学校の先生方や、子どものことで悩む保護者の皆様に向けて発信を続けてきました。日々の教育現場やご家庭でのヒントとして、多くの方にお読みいただき感謝しております。

今回から、少し視点を広げて「ビジネス現場のリーダー」の皆様に向けた新連載をスタートさせます。
なぜ、教育や臨床心理を専門とする私が、急にビジネス向けの記事を書くのかと不思議に思われるかもしれません。
それは、学校の教室で起きている不登校や人間関係の悩みが、大人の職場の課題――特に「何度1on1をやっても若手が辞めてしまう」「チームに心理的安全性がなく、活気がない」といった孤立の問題と、全く同じ構造を持っていると痛感したからです。

日々部下と向き合い、悩みながらマネジメントに奮闘されている皆様へ。
解決の糸口は、目の前の「相手を変える」ことではなく、職場における「つながり」を再設計することにあります。

1. 大人の職場にこそ「つながり」の再設計が必要である

結論から申し上げます。
今、ビジネスの現場に最も必要なのは、若手のメンタルを鍛え直すことでも、リーダーがより高度なコミュニケーションスキルやコーチングのテクニックを身につけることでもありません。
職場における「つながり」を、意図的に再設計(デザイン)することです。

成果主義やリモートワークの普及により、現代の職場では業務の効率化が進む一方で、「雑談」や「助け合い」といった余白が失われがちです。
その結果、見えないところで孤立を深め、ある日突然心が折れてしまう人が後を絶ちません。
この問題は、仕組みとして「つながり」を構築しなければ解決に向かわないのです。

2. 言葉による励ましや、個人の強さには限界がある

なぜ、つながりの設計が必要なのでしょうか。
それは、個人の「心の強さ」や、上司からの「言葉による励まし」だけでは、人が本当の意味で回復したり、成長したりすることは非常に難しいからです。

「自己責任」が問われがちな現代において、プレッシャーや孤独感に耐えきれず離職していく若手に対し、「もっとストレス耐性をつけてほしい」と個人の資質に原因を求めてしまうことは少なくありません。
また、リーダー自身も「自分の声かけが悪かったのだろうか」と自分を責めてしまいがちです。

しかし、人の心は言葉の励ましだけで簡単に行動を変えられるほど、単純なものではありません。
私自身、それを身をもって痛感した強烈な原体験があります。

3. 震災の極限状態と教育現場で見えた「回復の条件」

私は東日本大震災の際、宮城の実家や親戚、そして教員として過ごした地域の思い出など、多くのものを失いました。
震災直後、私は安否のわからない父親を探すため、避難所や遺体安置所をまわって歩きました。

その過酷な状況下で、私は臨床心理士として、避難している人たちに声をかけ、悲痛な思いを傾聴し続けました。
しかし、すべてを奪われた深い悲しみを抱える人々を前にして、私は「言葉で癒すこと」の圧倒的な無力感を痛感したのです。
専門家としてどんな言葉をかけても、目の前の絶望を前にしては、あまりにも無力でした。

しかし、その極限状態の中で見えてきた一筋の光がありました。
それは、自分の悲しみやつらさといった感情を素直に周囲に伝えられる人、そして、新しい環境で人とのつながりを新たに築ける人は、立ち直りが早く、未来に向けて歩みだす力を得やすいということです。

現代は、極端に言えば人とかかわらずに一人で生きていける便利な社会です。
しかし、いざという時に人を支え、回復させるのは「人とかかわる力」や「協働できる力」(それは強固な絆だけでなく、弱いつながりも含めて)が不可欠であると確信しました。

さらに、私は長年高校教師を務めており、震災当時も被害の大きかった地域の高校に勤務していました。
教員生活の中で、子どもたちの人間関係の悩み、不登校、引きこもりなどを数多く見てきました。

そこで痛感したのは、問題行動を起こしたり孤立したりする「その子自身の性格」を変えようとする指導には限界があるということです。
「将来のことも考えて」「ソーシャルスキルを身に着けよう」と無理に変えようとすると、人はかえって心を閉ざし、自己防衛に走ってしまいます。

大切なのは、対象者を変えるのではなく、教師や周囲の大人が「かかわり方を少し変える」ことです。
指導の矢印を相手に向けるのではなく、自分たちのスタンスを変える。

相手を「今の枠組みに合わせよう」とするのではなく、上司や教師、周囲の大人が少し「かかわり方」を変えることで、その人をありのままに受け入れる場が生まれます。
専門的には前者を「統合(Integration)」、後者を「包摂(インクルージョン)」と呼びます。
そして、そういう「包摂」の場が作れたとき、人は驚くほど自然に他者とのつながりを取り戻し、本来持っているエネルギーを発揮し始めるのです。

4. 個人を変えるのではなく「かかわり方」をデザインする

学校の教室で起きているこの孤立のメカニズムと、その解決策は、現在のビジネス現場における心理的安全性低下や離職の問題と全く同じ構造に思えます。

「なぜうちの若手は自発的に動かないのか」「なぜ本音を話してくれないのか」と、相手をコントロールしようとするのは苦しいだけです。
そうではなく、周囲の人間が「かかわり方」をデザインし直すこと。
リーダーが少しだけアプローチを変え、チーム内に包摂(インクルージョン)の土壌を作ることこそが、人が孤立せず、自律的に動く組織を作るための第一歩となります。

この連載では、私が臨床・教育の現場、そして被災地という極限状態で培ってきた知見をもとに、明日から職場で実践できる「つながりのデザイン」についてお伝えしていきます。
次回は、1on1ミーティングがなぜ形骸化してしまうのか、その言葉の罠について紐解いていきます。
ぜひ、肩の力を抜いてお付き合いいただければ幸いです。

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