孤立しない職場は必ずつくれる。臨床・教育の現場から導き出した,人が回復し成長する組織の形

チームの孤立は「設計」で防げる|全20回

皆様,こんにちは。
全20回にわたりお届けしてきた本連載も,今回がいよいよ最終回となります。

これまで,「なぜ1on1をやっても若手が辞めてしまうのか」という問いから始まり,現代の職場が抱える見えない孤立のメカニズム,そして教育心理学や組織論に基づく「関係性のデザイン」についてお話ししてきました。

日々,プレイングマネージャーとして重圧と向き合いながら,何とかチームを良くしようとされている方にとって,本連載が明日からのマネジメントを考える一つの手がかりになっていれば十分です。

最終回となる今回は,これまでの総まとめとして,私が臨床や教育の現場で見てきた「人が回復し,成長していく条件」と,私たちが目指すべきこれからの組織の形について整理したいと思います。

1.孤立を防ぎ,人が育つ組織は「個人の強さ」より「関係性のデザイン」から生まれる

結論から申し上げます。
人が孤立せず,持てる力を発揮しやすい職場は,個人のメンタルを鍛え上げることや,リーダーが完璧な言葉で部下を動かすことだけでは生まれません。

むしろ重要なのは,人と人との関係をどう設計するかです。
メンバーが互いの弱さや限界を前提にしながら支え合い,共通の課題に向かって協働し,失敗や迷いも含めて共有できる。そうした関係性の土台があるとき,組織ははじめてしなやかさを持ちます。

つまり,リーダーが本当に投資すべきなのは,個人の性格を変えることではなく,人と人とのあいだに,安心して働けるつながりをどうつくるかなのです。

2.人は「つながりの網の目」のなかでこそ,回復し,学び,力を発揮しやすくなる

なぜ,私たちは個人の内面だけでなく,関係性に目を向けるべきなのでしょうか。
それは,人はどれほど有能であっても,孤立したままでは回復しにくく,成長もしにくい存在だからです。

心理学では,大きな困難や危機を経験した後に生じうる前向きな変化を心的外傷後成長(posttraumatic growth: PTG)と呼びます。
テデスキ & カルフーンは,その概念を理論的に整理するとともに、その程度を測定する代表的尺度を提示しました(Tedeschi and Calhoun,1996)。
さらに,プラティ & ピエントラントーニのメタ分析では,社会的支援がPTGに関連する重要な要因の一つであることが示されています(Prati and Pietrantoni,2009)。

もちろん,職場の困難とトラウマ体験を単純に同一視することはできません。
しかし,少なくとも人が困難のあとに立ち直り,意味づけを更新し,再び前に進むには,他者とのつながりが重要であるという点には,大きな示唆があります。

職場でも同様です。エドモンドソンは,チームの心理的安全性を「対人的なリスクをとっても大丈夫だと共有されている信念」と捉え,それが学習行動と関わることを示しました(Edmondson,1999)。
要するに,人が力を発揮するのは,一人で完璧に耐え抜くときではなく,助けを求めたり,迷いを言葉にしたり,試行錯誤できる関係の中にいるときなのです。

孤立しない組織とは,強い個人を集めた組織ではなく,弱さを抱えたままでもつながれる組織です。

3.極限状態でも日常の職場でも,人を回復へ向かわせるのは「言葉の正しさ」より「つながり」である

この連載の第1回で触れたように,私にとってこのテーマの原点には,東日本大震災での体験があります。

震災時,私は気仙沼の実家や親・親戚,教員として過ごした地域の思い出など,多くのものを失いました。
安否の分からない父親を探して,避難所や遺体安置所をまわるという過酷な経験もしました。
その極限状態のなかで,臨床心理士として避難している方々に声をかけ,お話を聴き続けるなかで痛感したのは,「正しい言葉」だけで人を癒やすことには限界があるということでした。

しかし同時に,その絶望のなかでも,確かに少しずつ歩み始める人たちがいました。
それは,いわゆる「メンタルが強い人」だけではありませんでした。
むしろ,自分の悲しみや不安を周囲に伝えられる人,人とのつながりを新たに結び直せる人が,少しずつ回復の方向へ進んでいく姿を見ました。

災害という極限状況と日常の職場は同じではありません。
それでも,人が苦しいときに必要とするものとして,孤立しないこと,誰かとつながれること,支えを受け取り直せることには共通点があります。

このことは,学校の教室でも,ビジネスの現場でも繰り返し見られます。
不登校の生徒も,職場で孤立した若手社員も,単純に「本人が弱いから動けない」とは言えません。
しばしば問題なのは,既存のやり方や価値観に無理に合わせることを求められ,関係の逃げ場を失っていることです。

反対に,自分の違いや弱さをそのまま否定されない環境に出会うと,人は少しずつ動き始めます。
包摂的な関係性とは,甘やかしではなく,回復と成長の前提条件なのです。

4.相手を変えようとするより,私たちの「かかわり方を少し変える」

全20回を通して,私がお伝えしたかったことを最後に一つに絞るなら,これです。

相手を変えようとしすぎないこと。
そして,自分たちのかかわり方を少し変えること。

「部下が期待通りに動かない」
「チームがまとまらない」
そう感じたとき,私たちはつい,相手の性格や意識の問題として捉えがちです。
しかし実際に変えられるのは,相手そのものではなく,こちらの関わり方,問いの立て方,場のつくり方です。

たとえば,

  • 1on1で評価や説教を重ねる代わりに,一緒に考える共通課題を置く
  • 「強くあれ」と求める代わりに,リーダー自身が先に限界や迷いを言語化する
  • 「管理する人」であり続けるのをやめて,人と人をつなぐ人になる

このような小さな変化は,すぐに劇的な成果を生むわけではないかもしれません。
しかし,その積み重ねがチームの文化を変えます。

孤立しない職場は,一度の改革でできるのではなく,日々の関わり方の更新によって形づくられる。
私はそう考えています。

だからこそ,孤立しない職場はつくりえます。
完璧な上司がいなくても,特別に強い人ばかりでなくても,互いがつながり直せる組織は設計できます。
その可能性を信じて,この連載を締めくくりたいと思います。

最後までお読みいただき,ありがとうございました。

引用文献

  • Edmondson, A. (1999). Psychological safety and learning behavior in work teams. Administrative Science Quarterly, 44(2), 350–383. 
  • Prati, G., & Pietrantoni, L. (2009). Optimism, social support, and coping strategies as factors contributing to posttraumatic growth: A meta-analysis. Journal of Loss and Trauma, 14(5), 364–388. 
  • Tedeschi, R. G., & Calhoun, L. G. (1996). The posttraumatic growth inventory: Measuring the positive legacy of trauma. Journal of Traumatic Stress, 9(3), 455–471. 

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