関係性をリデザインする要素②:自己肯定感を高め,居場所を作る「役割」と「承認」の与え方

皆様,こんにちは。
前回は,関係性をデザインする土台として,職場の恐怖を取り除き「安全」と「対話」を担保することの重要性をお話ししました。
今回は,その土台の上に築くべき2つの要素,「役割」と「承認」について考えていきます。
マネージャーの皆様は,若手のモチベーションを上げようと「よくやっているね」「期待しているよ」と日々褒めているのに,なぜか彼らの主体性が育たない,自ら動こうとしない,と悩むことはありませんか。
実は,単なる「褒め言葉」だけでは,職場の孤立を防ぎ,真の居場所を作ることはできません。
今回は,人が自律的に動くために不可欠な「自己肯定感」と「居場所」をどのようにデザインしていけばよいのかを紐解いていきます。
1.「褒める」だけでは主体性は育たない。必要なのは「出番」と「存在の承認」である
結論から申し上げます。
部下を動かそうとするとき,私たちはつい「成果」や「能力」ばかりを褒めて(評価して)しまいがちです。
しかし,成果が出たときだけ褒められる環境は,「成果を出せない自分には価値がない」というプレッシャーを生み,長期的にはかえって自己肯定感を下げてしまいます。
この点について,ある一連の実験で,「頭いいね」「賢いね」と能力を褒めた子どもたちは,のちに失敗に直面した場面で挑戦を回避し,努力を諦めやすくなることを示しました(Mueller & Dweck、1998)。
一方,「がんばったね」「工夫したね」と努力や過程を褒めた子どもたちは,困難な課題でも粘り強く取り組みました。
つまり,「能力」を条件にした賞賛は,その褒め言葉が外れた瞬間に自己肯定感を直撃的に損なうのです。
人が「このチームに自分の居場所がある」と確信し,自律的に動き出すためには,条件付きの賞賛は必要ありません。
必要なのは,チームにおける明確な「役割(出番)」と,結果にかかわらずそこにいること自体を認める「存在の承認」をセットでデザインすることなのです。
2. 人が動く原動力は「自分が誰かの役に立っている」というマタリング(Mattering)の感覚
なぜ,評価よりも「役割と承認」がそれほどまでに重要なのでしょうか。
心理学や社会学の領域において,人が精神的に健康で,集団の中で主体的に活動するための極めて重要な概念に「マタリング(Mattering)」があります。
社会学者のモリス・ローゼンバーグらは,マタリングを「自分が他者から関心を向けられ,他者にとって重要な存在である(自分は数に入れられている)と感じる感覚」と定義しました(Rosenberg & McCullough, 1981)。
彼らが同じ研究の中で議論しているように,この感覚の中核には「自分は相手に気づかれている」「自分の行動が相手に影響している」「自分は相手から必要とされている」という3つの認知が含まれており,これらが満たされるとき,精神的な健康と行動の主体性が高まるとされます。
この議論と接続するのが,自己決定理論(Self-Determination Theory)です。
デジとライアン(2000)は,人の内発的動機づけと健全な社会心理的発達を支える3つの基本的心理欲求として,自律性(autonomy),有能感(competence),関係性(relatedness)を掲げました(Ryan & Deci,2000)。
彼らによれば,人が特定の役割を引き受け,「自分の行動が意味を持つ」「自分の強みが生かせている」「チームから必要とされている」と実感できる環境はこの3欲求を満たし,その結果として,自律的な学習や挑戦的行動が自ずと湧き上がってくるのです。
ビジネスの現場で,ここまでのマタリング/自己有能感/関係性が欠如するとどうなるでしょうか。
「自分が休んでも仕事は回る」「自分は単なるタスク処理の代替可能な歯車だ」と感じた瞬間,人は組織へのエンゲージメントを失い,見えない孤立へと向かいます。
逆に,「あなたのこの視点が必要だ」と明確な役割を与えられ,「あなたがいてくれて助かった」と他者への貢献を承認されたとき,人は強烈なマタリング(自己肯定感)を得ます。
この「自分はここで意味のある存在なのだ」という安心感こそが,人が失敗を恐れずに高いハードルを越えようと動き出す最大の原動力となるのです。
3.キャリア相談と教室で見る,「役割を奪われた人」の苦悩
「今の職場に居場所がない」と転職を考えるビジネスパーソンには,ある共通点があります。
それは,能力が低いわけではなく,「意味のある役割を与えられていない」ということです。
ある若手社員は,次のように語ってました。
「上司は優しくて,『無理しなくていいよ』と簡単な入力作業ばかりを振ってくれます。ミスなく終われば『ありがとう,優秀だね』と褒められますが,誰でもできる仕事で,自分がいなくても会社は回る。毎日が空虚で,ここにいる意味が分かりません」。
この上司は「若手に負担をかけまい」という純粋な善意でかかわっています。
しかし,結果として若手から「チームの課題解決に貢献する役割(出番)」を奪い,マタリングを著しく低下させていたのです。
これは,同調圧力が強く,評価の枠組みが固定化しやすい「学校の教室」という閉鎖的な組織でも全く同じことが起こります。
勉強や運動が苦手な生徒に対し,教師が「座って静かに授業を聞いていればいいよ」とお客様扱い(表面的な包括・インテグレーション)をすると,生徒はたちまち居場所を失い,無気力になります。
しかし,どんな生徒であっても「生き物係としてクラスのメダカを育てる」「行事で黒板アートのリーダーを任せる」といった固有の役割を与えられると,彼らの表情は一変します。
能力の有無や学力の優劣にかかわらず,「このクラスには私が必要だ」という感覚が,彼らの自己肯定感を根本から立て直すのです。
大人同士の成熟した職場であっても,このメカニズムは全く変わりません。
4.相手を変えるのではなく,私たちの「かかわり方を少し変える」
「部下が受け身で困る」「もっと自信を持ってほしい」と悩むとき,どうか部下の性格やモチベーションの低さを責めないでください。
そして,言葉で無理に心を奮い立たせようとするマネジメントから降りてください。
私たちにできるのは,相手の内面を変えることではなく,リーダーである私たちの「かかわり方を少し変える」ことです。
能力や成果を「褒める」ことにとらわれるのではなく,業務の中で「〇〇さんの,顧客に寄り添う丁寧なヒアリング力が必要だから,このリサーチをお願いしたい」と,その人の違いを活かした「役割」を手渡すこと。
そして,結果の良し悪しにかかわらず,「会議で反対意見を出してくれてありがとう」「〇〇さんがチームにいてくれると,雰囲気が明るくなって助かるよ」と,行動や存在そのものを「承認」すること。
マジョリティの能力主義の枠に無理やり同化させるのではなく,一人ひとりの違いを前提とし,全員に独自の出番がある「包摂(インクルージョン)」の環境をデザインすること。
この小さなかかわり方の変化が,部下の自己肯定感を高め,誰もが輝く最強のチームをつくるのです。
次回は,この「役割」を組織内に留めず,さらに外の世界へと広げていく「越境学習」のすすめについてお話しします。
引用・参考文献
- Mueller, C. M., & Dweck, C. S. (1998). Praise for intelligence can undermine children’s motivation and performance. Journal of Personality and Social Psychology, 75(1), 33–52.
- Rosenberg, M., & McCullough, B. C. (1981). Mattering: Inferred significance and mental health among adolescents. Research in Community & Mental Health, 2, 163–182.
- Ryan, R. M., & Deci, E. L. (2000). Self-determination theory and the facilitation of intrinsic motivation, social development, and well-being. American Psychologist, 55(1), 68–78.

