個人の「心」は直接変えられない。人と人の「間」に投資する、新しいチームビルディング

皆様、こんにちは。
前回は、困難から立ち直るための条件は「個人の強さ」ではなく、いざという時に頼ることができる「つながり」にある、というお話をしました。
今回は、これからの時代の「新しいチームビルディング」の核心に迫ります。

突然ですが、皆様は部下に対して「もっとやる気を出してほしい」「もっと主体的に動いてほしい」と願ったことはないでしょうか。
リーダーやマネージャーであれば、多かれ少なかれ一度は抱く思いだと思います。

しかし、この「個人の心を変えようとする」アプローチは、ときにマネジメントを苦しくさせます。
なぜなら、問題の焦点が、職場の関係性や環境ではなく、本人の内面に置かれてしまうからです。
その結果、チームの孤立や若手の離職といった問題を、かえって見えにくくしてしまうことがあります。

1.他人の「心」に直接介入するのではなく、「人と人の間」に投資する

結論から言えば、他人の性格やモチベーションを、外側からの言葉や指導だけで直接変えることはできません。
少なくとも、それを狙って持続的な変化を起こすのは、簡単ではありません。

次世代のリーダーに求められるのは、部下の「心の中」を操作しようとすることから降りることです。
そして、個人の心ではなく、人と人との「間(関係性)」に投資し、チーム全体の環境をデザインし直すことです。

何度1on1を重ねても若手が辞めてしまうことがあるのは、リーダーの熱意や言葉が足りないからとは限りません。
むしろ、アプローチの焦点が、個人の内面に偏りすぎている可能性があります。
必要なのは、「本人を変えること」よりも、「本人が動きやすくなる条件を整えること」です。

2.人の行動は「性格」だけでなく「環境」によって大きく左右される

なぜ、人の心を変えようとするアプローチには限界があるのでしょうか。
第一に、人は他者から内面に強く踏み込まれると、防衛的になりやすいからです。
「あなたの考え方が問題だ」「もっと前向きになるべきだ」と言われれば、多くの人は納得するより先に、自分を守ろうとします。
これでは、どれほど正しい助言であっても、相手には届きにくくなります。

第二に、心理学では、人の行動は個人要因だけでなく環境要因との相互作用で生じると考えられてきました。
レヴィンは、人間の行動(B)は、その人の特性(P)と環境(E)の関数であるという考え方を示しました(Lewin, 1936)。

この見方に立てば、部下の行動を変えたいときに、変えにくい個人特性に直接働きかけるよりも、職場のルール、役割、会話の流れ、相談のしやすさといった環境に働きかける方が、現実的で効果的です。

さらに、チームの学習や協働を支えるうえでは、心理的安全性が重要です。
安心して発言できること、分からないと言えること、助けを求められることは、個人の勇気だけで成立するのではなく、チームの関係性によって支えられます(Edmondson, 1999; Newman et al., 2017)。

3.教育現場でも職場でも、行動を変えるのは「関係性の設計」である

私は現在、大学で教えていますが、この「行動は環境によって変わる」ということを、学生たちと接する中で日々感じています。

たとえば、グループワークでほとんど発言せず、主体性がないように見える学生がいたとします。
そこで「もっと積極的に参加しなさい」と本人の内面に働きかけても、たいてい大きくは変わりません。

しかし、指導者である私が、本人ではなく「場」に働きかけると状況は変わります。
たとえば、「全員が1分ずつ話す時間を設ける」「最初に各自がメモを書いてから共有する」「書記や整理役といった役割を明確にする」といった形で、グループのルールを変えるのです。
すると、それまで沈黙していた学生が、安心して発言し始めることがあります。
変わったのは性格ではなく、行動が生まれる条件です。

これは、私が関わってきた現場でも同じです。
業績が停滞したり、離職が続いたりするチームでは、しばしば「部下の意識改革」が課題として掲げられます。
ですが、実際に効果を持ちやすいのは、個人の意識そのものを変えようとすることではありません。
会議を「誰もが否定されずに意見を出せる場」にすること、困ったときに援助要請しやすい仕組みをつくること、共通目標に向けて助け合いが自然に起きるように役割や情報共有を設計することです。

また、包摂(インクルージョン)を考えるうえでも重要なのは、誰かを無理に既存の枠組みに合わせることではありません。
目指すべきは、メンバーが「ここにいてよい」と感じられる所属感と、「自分らしさを失わなくてよい」と感じられる独自性の両方が守られることです(Shore et al., 2011)。

つまり、必要なのは個人を変えることではなく、人と人との「間」を整えることなのです。
リーダーがかかわり方を少し変えるだけで、メンバーの行動が変わり始めることは、決して珍しくありません。

4.「個人の管理」から「関係性のデザイン」へ

「何度言っても部下が変わらない」と悩むリーダーやマネージャーは少なくありません。
ですが、そこで必要なのは、部下を変えられない自分を責めることでも、さらに強く働きかけることでもありません。

発想そのものを切り替えることです。

私たちにできるのは、個人の心に手を入れることではなく、私たち自身の「かかわり方を少し変える」ことです。

  • 一人ひとりが持つ力を自然に引き出せるように、安心して発言できる場をつくること。
  • 困ったときに助けを求めやすい流れをつくること。
  • 違いや弱さが、排除の理由ではなく、協働の出発点になるような環境を整えること。

個人の心ではなく、「人と人の間」に投資すること。
そこにこそ、誰も孤立せず、人が育ち続けるチームビルディングの要があります。

引用・参考文献

  • Lewin, K. (1936). Principles of topological psychology. McGraw-Hill.
  • Edmondson, A. (1999). Psychological safety and learning behavior in work teams. Administrative Science Quarterly, 44(2), 350–383.
  • Newman, A., Donohue, R., & Eva, N. (2017). Psychological safety: A systematic review of the literature. Human Resource Management Review, 27(3), 521–535.
  • Shore, L. M., Randel, A. E., Chung, B. G., Dean, M. A., Ehrhart, K. H., & Singh, G. (2011). Inclusion and diversity in work groups: A review and model for future researchJournal of Management, 37(4), 1262–1289.

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