失敗を許容し,知見を共有する。組織を強くする「学び合い(ピアラーニング)」の文化づくり

皆様,こんにちは。
前回は,チーム内に対話と助け合いを生み出すための「共通課題」の設計についてお話ししました。
メンバーが互いに依存し合う環境が整うと,チームはこれまでの決められた枠を越えて,新しいアイデアやアプローチに挑戦し始めます。
しかし,新しいことに挑戦すれば,必ずついて回るものがあります。
それが「失敗」です。
マネージャーの皆様は,部下がミスをしたとき,あるいはプロジェクトが計画通りに進まなかったとき,どのような対応をしているでしょうか。
「二度と同じミスをしないように」と厳しく指導し,再発防止策を徹底させている方も多いかもしれません。
もちろん,業務の質を保つ上でミスの削減は重要です。
しかし,「失敗を絶対に許さない空気」は,時にチームから活力を奪い,人が育つ最大のチャンスを潰してしまいます。
今回は,失敗を個人の責任として切り捨てるのではなく,組織を強くする資産へと変える「ピアラーニング(学び合い)」の文化づくりについて紐解いていきます。
1.失敗を個人の責任で終わらせず,チームの資産に変える「ピアラーニング」
結論から申し上げます。
自律的に成長し続ける強い組織を作るためには,失敗を「隠すべき恥ずかしいもの」から「チーム全体で共有すべき価値あるデータ」へと定義し直す必要があります。
一人ひとりが別々に作業をこなし,成功だけを評価される環境では,人は自分の失敗を必死に隠そうとします。
しかし,誰かの失敗は,他の誰かがこれから直面するかもしれない落とし穴です。
それをチーム内で安全に共有し,互いの知見として学び合う「ピアラーニング(仲間同士の学習)」のサイクルが回っている組織こそが,変化の激しい時代を生き抜くことができるのです。
2.自己防衛のメカニズムが「組織の学習」を阻害する
なぜ,私たちは職場で失敗を共有することがこれほどまでに苦手なのでしょうか。
そこには,人間の根源的な心理メカニズムが働いています。
組織心理学者のクリス・アージリスは,人間には自分の有能さを保ち,他者からの脅威や恥を避けようとする「防衛的ルーチン(Defensive Routines)」が備わっていると指摘しました(Argyris, 1990)。
この防衛的ルーチンが組織に蔓延すると,メンバーは自分のミスを正当化したり,問題を他人のせいにしたり,あるいは問題そのものを見て見ぬふりをするようになります。
アージリスは,共同研究を通じて,こうした個人の自己防衛が,組織全体の根本的な問題解決や学習(ダブルループ学習)を決定的に阻害してしまうと警告しています(Argyris & Schön, 1978)。
すなわち,目の前のミスを集めて対処する「シングルループ学習」はできても,その前提にある「なぜこのミスが起きるのか」「自分たちの考え方のどこに偏りがあるのか」を問い直す「ダブルループ学習」が,防御の本能によって封じ込められてしまうのです。
つまり,「ミスをして怒られたくない」「無能だと思われたくない」という個人の防衛本能が働く環境下では,いくらリーダーが「失敗から学ぼう」と口で言っても,誰も本当の失敗を報告しません。
表面的な成功事例だけが報告され,水面下では同じようなミスが静かに繰り返され続けるのです。
これでは,組織としての学習や成長は永遠に起きません。
3.キャリア相談や教室で起きている,「正解」を強要する重圧
この「失敗を許容できない組織」が迎える結末は,多くの現場でも,痛ましいほどよく見られます。
あるマネージャーは,「うちのチームは定例会議で誰も発言しないし,問題が起きてもギリギリまで報告が上がってこない」と深く悩んでいました。
しかし,その会議の様子を知ったとき,理由がすぐにわかりました。
若手が少しでも的外れな意見を言ったり,スケジュールの遅れを報告したりすると,マネージャーが即座に「なぜそうなった?」「もっとしっかり考えてから発言して」と理詰めで問い詰めていたのです。
本人は「厳しく指導している」つもりでも,チームのメンバーからすれば,会議は「正解を言わなければ処罰される裁判の場」になっていました。
結果として,誰もが防衛的ルーチンに入り,知見の共有(ピアラーニング)は完全に停止していたのです。
これは,同調圧力が強い「学校の教室」という閉鎖的な組織でも,全く同じことが起こります。
「間違えることは恥ずかしいことだ」という空気が支配している教室では,生徒は絶対に手を挙げません。
教師が用意したたった一つの「正解」に全員を無理やり合わせようとする指導は,生徒から挑戦する勇気を奪い,無気力な集団を生み出します。
しかし,優れた教師は逆のアプローチをとります。
誰かが間違えた答えを言ったとき,「なるほど,そういう考え方もあるね!なぜそう思ったのか,みんなで考えてみよう」と,その『間違い』をクラス全員の学びに変えるのです。
正解を出せる優れた個人のみを評価するのではなく,間違えたり,つまずいたりするプロセスそのものを価値として認め,全員の居場所を作る「包摂(インクルージョン)」の環境。
これが整ったとき,子どもたちは失敗を恐れず,互いに教え合い,爆発的に成長していきます。
大人同士のビジネス現場でも,全く同じメカニズムが働くのです。
4.相手を責めるのではなく,私たちの「かかわり方を少し変える」
部下が失敗を隠したり,チーム内にノウハウが共有されなかったりするとき,どうか「彼らは責任感が足りない」「もっとオープンに話してほしい」と,部下の性格やマインドを変えようとしないでください。
私たちリーダーにできるのは,部下の心を変えることではなく,失敗が起きたときの私たちの「かかわり方を少し変える」ことです。
例えば,部下がミスを報告してきたとき,第一声で「なぜこんなことをしたんだ」と過去の責任を追及するのをやめてみてください。
代わりに,「早く報告してくれてありがとう。このミスから,チームとしてどんな仕組みの欠陥が学べるだろうか」と,未来の学びへと視点を切り替える(かかわり方を変える)のです。
さらに効果的なのは,リーダー自身が率先して自分の失敗談や,「今週のしくじり」をチームに自己開示することです。
「マネージャーのあの人でも失敗するし,それを笑って話せるんだ」という安心感——心理的安全性(Edmondson, 1999)——こそが,メンバーの防衛的ルーチンを解除します。
個人の心や性格を変えるのではなく,失敗をチームの共有財産として歓迎する「包摂(インクルージョン)」の土壌をデザインすること。
その小さなかかわり方の変化が,失敗をバネにして共に成長し続ける,真の「学習する組織」をつくるのです(Senge, 1990)。
次回からは,本連載の最終章に入ります。
これまでお話ししてきた「関係性のデザイン」を実践する上で,リーダーが具体的にどう振る舞えばよいのか。
その要となる「5つの要素」についてお伝えしていきます。
引用・参考文献
- Argyris, C. (1990). Overcoming organizational defenses: Facilitating organizational learning. Allyn & Bacon.
- Argyris, C., & Schön, D. A. (1978). Organizational learning: A theory of action perspective. Addison-Wesley.
- Edmondson, A. (1999). Psychological safety and learning behavior in work teams. Administrative Science Quarterly, 44(2), 350–383.
- Senge, P. M. (1990). The fifth discipline: The art and practice of the learning organization. Doubleday/Currency.

