チームのつながりは偶然に頼るな。明日からできる「関係性のデザイン」というパラダイムシフト

皆様,こんにちは。
今回から本連載はいよいよ第3章「理論編:教育心理学に学ぶ『関係性のデザイン』」へと入っていきます。

これまでの連載では,現代のビジネス現場において,いかに「見えない孤立」が進行しているか,そして良かれと思って企画する懇親会や雑談タイムといった「自然発生的なコミュニケーション」に頼るアプローチが,なぜ限界を迎えているのかをお話ししてきました。

「飲み会を開いても,結局いつも同じメンバーで固まってしまう」
「雑談を促しても,若手は気を遣うばかりで本音を話してくれない」
そんな悩みを抱えるリーダー、マネージャーの皆様に,今回お伝えしたいのは,マネジメントにおける大きな思考の転換(パラダイムシフト)です。
孤立を防ぎ,人が育つチームを作るための第一歩を踏み出しましょう。

1.チームのつながりは自然発生しない。「関係性のデザイン」へと思考を転換する

結論から申し上げます。
これからのマネジメントにおいて,チーム内の「つながり」を個人のコミュニケーション能力や,偶然の産物に委ねてはいけません。

必要なのは,リーダー自身が職場の環境や業務プロセスの中に,意図的に人と人が関わり合う仕組みを組み込むこと。
すなわち,「関係性のデザイン」へと思考をシフトさせることです。

「気が合えば仲良くなるだろう」「同じ部署にいれば自然と協力するだろう」という期待を手放し,つながりを一つの「設計可能なシステム」として捉え直すことが,現代の組織づくりにおける重要な鍵になります。

2.人間関係は「個人の性格」だけでなく「環境の構造」から大きく影響を受ける

なぜ,私たちは「つながりの設計」に向き合わなければならないのでしょうか。
それは,人間関係や個人の学習・成長が,単に同じ空間にいるだけで自然に生まれるものではなく,「どのような社会的な実践(活動)に参加しているか」という環境の構造から大きく影響を受けるからです。

教育学や心理学の領域には,学習を「個人の頭の中の出来事」だけでなく,「共同体への参加プロセス」として捉える「正統的周辺参加」という理論があります。
レイヴとウェンガーは,人が新しい組織やコミュニティに入った際,初めは周辺的な役割から参加し,他者との関係性の中で徐々に中心的な役割へと移行していくことが,学習や成長を理解するうえで重要だと示しました(Lave & Wenger, 1991)。

つまり,新入社員や中途社員がチームに馴染み,力を発揮できるようになるためには,単に「自由に雑談してね」と場に放り込むだけでは不十分なのです。
彼らがコミュニティの活動に意味を持って参加できる「役割」と「出番」が,環境の中にしっかり設計されている必要があります。
設計図がないまま,個人の社交性に依存する職場では,関係性を築くのが得意でない人ほど参加のきっかけをつかみにくく,孤立に向かいやすくなります。

3.キャリア相談と教育現場が示す「設計」の力

この「関係性のデザイン」の重要性は,私がコーチとして相談に乗る現場でも,強く実感するテーマです。

あるコーチからこんな話を聞いたことがあります。
中途採用で入社した若手が「チームに自分の居場所がない」とひどく落ち込んでいるケースです。
彼の上司は「分からないことがあったら,誰にでも自由に聞いていいからね」と優しく声をかけていました。
しかし,この「自由に誰にでも」という声かけは,関係性のデザインとしては十分に機能しません。
誰が何を知っているかも分からない中で,忙しそうな先輩に声をかけるのは,心理的なハードルが高いからです。

そこで,コーチがその上司に提案したのは,「関係性の補助線」を引くことでした。
例えば,「今週中に,Aさんには過去のプロジェクトの失敗談を,Bさんには顧客の特性について,それぞれ15分ずつヒアリングしてまとめてほしい」と,明確な「役割」と「理由」を与えたのです。

すると若手は,「上司からの業務指示」という大義名分を持って先輩に声をかけることができ,そこから自然な会話とつながりが生まれていきました。

これは,同調圧力が働きやすい場面もある「学校の教室」でもよく見られることです。

新しいクラスになった時,教師はただ「みんな仲良くね」と言うだけでは終わりません。
それでは,一部の活発な生徒しかつながれないからです。
代わりに,掃除当番の役割を細分化したり,グループワークで「あなたは書記,あなたはタイムキーパー」と全員に役割を持たせたりします。
どんなに大人しい生徒でも,その場に「いなくてはならない存在」として機能できるよう,関係性を意図的に設計するのです。

マジョリティに無理に適応させる「統合(integration)」ではなく,違いを持ったまま,全員に意味のある役割が与えられる「包摂(inclusion)」の環境をつくること。
これは,自然発生を待っているだけでは実現しません。

4.相手を変えるのではなく,私たちの「かかわり方を少し変える」

チームのつながりが希薄だと感じたとき,「最近の若手はコミュニケーション能力が低い」「もっと積極的に話しかけてほしい」と,部下の性格や行動を変えようと嘆く必要はありません。

私たちリーダーにできるのは,相手を変えるのではなく,私たちの「かかわり方を少し変える」ことです。

「自由に話して」と言う代わりに,1対1で話さざるを得ない小さな共通タスクを設計する。
会議の進行役を,あえて一番社歴の浅いメンバーに任せてみる。

ほんの少し,日常の業務プロセスの中に「関係性のデザイン」を施すだけで,チームの空気は驚くほど変わります。
次回は,このデザインをさらに深掘りし,部下の性格を変えることなく職場の心理的安全性を生み出す,リーダーの具体的な「かかわり方の小さな工夫」についてお話しします。

引用・参考文献

  • Lave, J., & Wenger, E. (1991). Situated learning: Legitimate peripheral participation. Cambridge University Press.

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 ※ が付いている欄は必須項目です