思春期の子が「うるさい!」と叫ぶ時、心の中で起きていること

【この記事は特に、中学生〜高校生前期のお子さんで、帰宅後に「別に」「普通」としか答えてくれない、または声をかけると「うるさい!」と返されてしまうと感じている保護者の方に向けて書いています】

1. Point:その言葉は「拒絶」ではなく「パンク寸前のサイン」

結論からお伝えします。思春期のお子さんが放つ「うるさい!」は、あなたという人格への否定ではなく、「今は自分の感情を処理することで精一杯で、これ以上、外からの刺激を受け止められない」という悲鳴に近いものです。

私たちは親として、子どもの異変に気づくと、つい「どうしたの?」「何があったの?」と助け舟を出したくなります。
しかし、心に余裕がない時、その優しさは、お子さんにとっては「さらに考えなければならないタスク」として重くのしかかってしまいます。

大切なのは、その言葉を「正面から受け止めて傷つく」のをやめることです。
お子さんの心は今、あふれそうなコップのような状態。
まずは、それ以上注ぐのをやめ、水面が静まるのを待つ。
この「待つ姿勢」こそが、今の時期に最も必要な愛情の形なのです。

2. Reason:「情動調節」が追いつかない、思春期の脳

なぜ、昨日まで素直だった子が、これほどまでに激しく反応するのでしょうか。
そこには、脳の発達という抗えない理由があります。

① 「ブレーキ」がまだ未完成(情動調節の未熟さ)

心理学では、自分の感情をうまくコントロールすることを「情動調節」と呼びます。
思春期の脳内では、感情を司る「扁桃体」が活発に動く一方で、それを抑える「前頭前野(ブレーキ役)」の発達がまだ追いついていません。
つまり、高性能なエンジンを積んでいるのに、ブレーキが効かない車を運転しているような状態なのです。

② 「心の境界線」を引くための防衛反応

発達心理学の視点で見ると、思春期は「自分は親とは違う人間だ」という境界線を引く大切な時期(個別化・分離個体化)です(Blos, 1967)。
親からの干渉が少しでも境界線を越えてくると、自分を守るために反射的に「うるさい!」と強い言葉で追い返そうとします。
これは自立に向けた健全な防衛反応なのです。

③ 蓄積された「感覚過敏」

学校という外の世界で、友人の目や成績、SNSの通知などに気を配り、お子さんの神経はヘトヘトに疲れ切っています。
家に着いた瞬間、その緊張の糸が切れます。
そんな「感覚の疲れ」がある時にかけられる声は、私たち大人が想像する以上に、大きな音や強い光のように不快に感じられてしまうことがあります。

あなたが悪いわけでも、育て方を間違えたわけでもありません。
お子さんは今、一生懸命に「大人になるための工事中」で、現場が少し混乱しているだけなのです。

3. Example:嵐が起きた時の「心の消火活動」ワーク

お子さんが「うるさい!」と爆発した時、親としてどう振る舞えばいいのか。
私がカウンセリングや自身の経験から学んだ、今日からできる具体的な対応をお伝えします。

① 6秒間の「心のタイムアウト」

反抗的な言葉を投げられると、こちらの脳も「攻撃された!」と判断し、怒りのスイッチが入ります。
まずは深呼吸をして、心の中で「これは脳の工事の音だ」と3回唱えてみてください。
怒りのピークは約6秒と言われています(アンガーマネジメントの技法)。
その6秒をやり過ごすだけで、言い返しによる「親子喧嘩の泥沼化」を防げます。

② 「言葉のトーン」をワントーン下げる

お子さんが高圧的な時ほど、こちらは穏やかに、ゆっくりとしたテンポで話します
心理学には「感情伝染」という現象がありますが(Hatfield et al., 1994)、こちらが落ち着きを見せることで、お子さんの興奮を鎮める「冷却材」の役割を果たせます。
「分かったよ、ゆっくり休んでね」と一言だけ残して、その場を離れるのがベストです。

③ 「何も聞かない時間」というプレゼント

お子さんがリビングにいる間、あえて話しかけずに、お父さん・お母さんも自分の好きなこと(読書や趣味)に没頭してみてください。
これを「静かな共在」と呼びます。会話がなくても、同じ空間で穏やかに過ごせる経験が、お子さんの「心理的安全性」を最も高めてくれます。

④ 調子が良い時に「ルール」を決めておく

お互いが落ち着いている穏やかな時間に、「疲れている時は『今は一人にして』って言ってくれたら、お父さんもお母さんも深追いしないよ」とルールを決めておくのも有効です。
「うるさい!」という爆発的な表現以外の「伝え方」を、あらかじめ共有しておくのです。

4. Point:まとめとエール

「うるさい!」という言葉を投げかけられる毎日は、本当に身が削れる思いがすることでしょう。
でも、どうか覚えておいてください。
お子さんがあなたに対して感情を爆発させられるのは、「この人なら、これくらいのことで自分を見捨てない」という、根底にある絶大な信頼があるからです。
外で気を張っている分、甘えられるあなたに対してだけ、心の膿を出しているのです。

心理学者ウィニコットは、子どもの激しい攻撃性を受けても、親が「壊れず、報復せず、そこにい続けること」の重要性を説きました(Winnicott, 1971)。
子どもは、自分の怒りや攻撃によって親が消えてしまわないという経験を通して、安心感と現実感を獲得していきます。
親が「生き残る」こと——それ自体が、子どもの自立を支える最大の力になるのです。

今日は、お子さんのために頑張っている自分を、たくさん褒めてあげてください。
「今日もうるさかったな、でも私たちは今日もともに過ごしたな」
そんな風に、自分を労いながら、今日はおやすみください。

扉の向こうで丸まっているお子さんの心も、いつか必ず凪のときを迎えます。
その日まで、私はあなたを心から応援しています。

参考文献

  • Blos, P. (1967). The second individuation process of adolescence. The Psychoanalytic Study of the Child, 22(1), 162-186. https://doi.org/10.1080/00797308.1967.11822595
  • Hatfield, E., Cacioppo, J. T., & Rapson, R. L. (1994). Emotional contagion. Cambridge University Press.
  • Winnicott, D. W. (1971). Playing and reality. Tavistock Publications.

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