成果主義とリモートワークが生みやすい「見えない孤立」と、失われる組織の力

皆様,こんにちは。
今回から本連載は「課題編:なぜ現代の組織は『つながり』を失うのか」に入ります。
現在のビジネス現場では,リモートワークという働き方や,個人の成果を明確に測る仕組みは,すでに特別なものではなくなりました。
通勤の負担が減り,業務の効率化が進んだという実感がある一方で,「部下が今,何に悩んでいるのか見えにくくなった」「チーム全体に活気がない」と感じるリーダー,マネージャーも少なくありません。
効率と成果を重視する流れそのものが悪いわけではありません。
問題は,その運用の仕方によって,人と人とのつながりを支えていた要素まで削ぎ落としてしまうことです。
今回は,現代の働き方の中で生じやすい「見えない孤立」と,それが組織から奪っていく力について考えていきます。
1.効率化は,ときに職場から「余白」を奪い,孤立を見えにくくする
結論から言えば,成果の可視化やリモートワークの浸透は,使い方によっては業務上の無駄を減らす一方で,人と人との間にあった「余白」を縮小させます。
その結果,職場の孤立は消えるのではなく,むしろ見えにくくなることがあります。
同じオフィスで働いていた頃は,ため息,表情,席での沈黙,廊下や給湯室での短いやりとりなど,業務外の小さなサインから「少し行き詰まっていそうだ」と察知できる場面がありました。
しかし,リモート環境では,チャットやオンライン会議など,どうしても目的に直結したコミュニケーションが中心になりやすくなります。
用件がなければ接点が生まれにくく,悩みや不調が表面化しないまま時間が過ぎてしまうのです。
つまり,孤立していないのではなく,孤立が観察されにくくなっているということです。
2.「成果」と「効率」だけでは,人のモチベーションは長続きしない
なぜ,この見えにくい孤立が組織の力を弱めるのでしょうか。
それは,人間のモチベーションが,成果や評価だけで持続するようにはできていないからです。
自己決定理論では,人が自発的な動機づけを保ちながら成長していくためには,「自律性」「有能感」「関係性」という3つの基本的な心理的欲求が満たされる必要があるとされています(Deci & Ryan, 2000)。
リモートワークや成果ベースの働き方は,設計次第では自律性や有能感を支えることがあります。
しかしその一方で,関係性,すなわち「他者とつながっている感覚」「自分がここにいてよいと思える感覚」が弱くなると,働く意味や安心感は損なわれやすくなります。
実際,職場における孤独に関する研究では,孤独感はバーンアウトの高さ,職務満足感の低さ,パフォーマンスの低下と関連することが示されています(Bryan et al., 2024; Ozcelik & Barsade, 2018)。
人はタスクだけで働いているわけではありません。
「困ったときに声をかけられる」「自分の状況を誰かが気にかけてくれている」と感じられることが,仕事を続ける土台になっています。
3.大学のオンライン授業や学校現場で見えた,「雑談」ではなく「余白」の価値
この「効率化による関係性の縮小」は,私が教壇に立つ大学の現場でも,よく似た形で見られました。
パンデミック期,大学の授業は一斉にオンラインへ移行しました。
学生たちは自宅から課題に取り組み,レポートという成果物を提出していました。
一見すると非常に効率的で,提出物の質も一定程度は保たれていました。
しかし,少なくとも私が接していた学生たちの中には,強い疲弊感や孤立感を訴える人が少なくありませんでした。
彼らが失っていたのは,授業の前後に交わされる「さっきの話,少し難しかったね」「課題,どう進める?」といった何気ないやりとりです。
そうしたやりとりは,一見すると本筋ではないように見えます。
ですが実際には,「自分だけが分かっていないわけではない」「困っているのは自分一人ではない」と確認し合う重要な機会になっていました。
失われたのは単なる雑談ではなく,弱音や迷いが流通する余白だったのです。
また,私が日頃接している学校現場でも同じことを感じます。
パソコンに向かって各自が自分の仕事を黙々と進める職員室は,一見すると効率的です。
しかし,担当外の先生にも「あの子,最近少し気になるんですよね」と自然に話せる職員室の方が,少なくとも私の見聞する範囲では,教員の疲弊を和らげ,対応の選択肢も増えやすくなります。
ビジネスの現場でも事情は似ています。
一見すると無駄に見える短いやりとりや,ちょっとした相談,うまく言葉にならない違和感を出せる場があること。
それが,組織のレジリエンスを支える下地になります。
4.必要なのは,出社強制ではなく「余白」を設計すること
では,見えない孤立を防ぐために,何をすればよいのでしょうか。
ここで「もっとチャットで発言しなさい」「もっと出社しなさい」と行動を強制するだけでは,問題は解決しません。
必要なのは,相手を変えようとすることではなく,リーダーである私たちのかかわり方を少し変えることです。
たとえば,オンライン会議の冒頭に数分だけ業務外の話を入れる。
1on1を進捗管理だけで終わらせず,雑談や壁打ちの時間として使う。
相談しなくてもよい人だけが残る仕組みではなく,相談してもよいことが前提の流れをつくる。
そうした小さな設計が,リモート環境においても「自分は単なるタスク処理要員ではない」と感じられる関係性を支えます。
重要なのは,リモートワークを否定することでも,成果を測ることをやめることでもありません。
効率や成果を追いながらも,その過程で失われやすい「関係性の基盤」をどう補うかを考えることです。
個人の自己責任に帰すのではなく,リーダーがかかわり方のデザインを少し変えること。
それが,見えない孤立から人を守り,組織の本来の力を保つための鍵になります。
引用文献
- Deci, E. L., & Ryan, R. M. (2000). The “what” and “why” of goal pursuits: Human needs and the self-determination of behavior. Psychological Inquiry, 11(4), 227–268.
- Bryan, B. T., Andrews, L., & Harvey, S. B. (2024). Loneliness in the workplace: A mixed-method systematic review and meta-analysis. Occupational and Environmental Medicine.
- Ozcelik, H., & Barsade, S. G. (2018). No employee an island: Workplace loneliness and job performance. Academy of Management Journal, 61(6), 2343–2366.


