多様性を活かす組織の条件は「包括」ではない。「包摂(インクルージョン)」がもたらす真の強さ

皆様,こんにちは。
近年,ビジネスの現場において「多様性(ダイバーシティ)」という言葉を聞かない日はありません。
中途採用や,価値観の異なる若手,外国籍のメンバーなど,さまざまなバックグラウンドを持つ人材をチームに迎える機会が増えたマネージャーの方も多いはずです。
しかし,「多様な人材を採用しさえすれば,組織に新しいアイデアが生まれ,強くなる」と期待したものの,現実はそう単純ではありません。
「せっかく採用したのに,チームに馴染めず孤立してしまう」「結局,古株のメンバーだけで仕事を進めている」といった悩みが,多くの職場で生じています。
なぜ,多様な人材を集めても,それがそのまま組織の力にならないのでしょうか。
そこには,私たちが無意識に陥りやすい「同化の罠」があります。
1.「多様な人材」を集めるだけでは,組織の孤立は防げない
結論から申し上げます。
多様な人材を同じ職場に集めるだけでは,組織は自動的に強くなるわけではありません。
多様性が力に変わるための重要な条件は,メンバーを既存のルールに無理に合わせることではなく,違いを持ったまま居場所を感じられる「包摂(インクルージョン)」の環境をデザインすることです(Shore et al., 2011)。
多くの組織がつまずくのは,「多様な人を採用すること(ダイバーシティ)」と,「多様な人が能力を発揮できる環境をつくること(インクルージョン)」を混同しているためです。
この二つは連続しているように見えて,実際には別の取り組みを必要とします。
人を集めることと,その人が安心して力を発揮できることは同じではありません。
2.「包括(インテグレーション)」と「包摂(インクルージョン)」の決定的な違い
これまで,日本の多くの組織やコミュニティ――それは旧態依然とした企業から,同調圧力の強い学校の教室まで――が目指してきたのは,しばしば「違う人を,既存の枠組みにうまく適応させること」でした。
「うちの会社のやり方を早く覚えてね」「みんなと同じように振る舞ってね」と,マジョリティの文化に相手をなじませようとするアプローチです。
しかし,心理学や経営学の研究では,個人が組織の中で真に力を発揮できる包摂の状態とは,単にその場に所属していることではなく,「所属感(belongingness)」と「独自性(uniqueness)」の両方が満たされている状態だと整理されています(Shore et al., 2011)。
つまり,「ここにいてよい」と感じられることと,「自分らしさを消さなくてよい」と感じられることの両方が必要なのです。
この観点から見ると,「みんな同じになろう」というアプローチには限界があります。
その方法では,少数派の立場にある人ほど「自分らしさを押し殺さなければ,この組織に居場所はない」と感じやすくなります。
すると,表面的には職場に在籍していても,心理的には距離を取り,意見や経験を持ち込まなくなります。
結果として,せっかくの多様な視点が生かされず,組織は元の硬直した状態に戻ってしまうのです(Shore et al., 2011)。
3.キャリア支援の現場で見る,「自社の型にはめる」マネジメントの限界
この「同化の罠」について,さまざまな現場で起きていることとして,以前このようなお話を聞いたことがあります。
あるとき,異業種から優秀な中途社員を採用したマネージャーが,「彼がなかなかチームの空気を読んでくれない。もっとうちの『型』にはまるよう指導しているのだが,最近モチベーションが下がっているようだ」とこぼしていたそうです。
話を聞く限り,このマネージャーには決して悪気があるわけではなく,むしろ「早くチームの一員として定着してほしい」という善意から,自社のやり方に適応してもらおうとしていたようでした。
しかし,中途社員の側からすれば,「前職の経験や自分なりの視点を期待されて入社したはずなのに,結局はこれまでのやり方に染まることを求められている」と感じてしまいがちです。
その状態では,「違う見方を出してもよい」「分からないことを尋ねてもよい」という感覚が弱まり,心理的安全性も損なわれやすくなります(Edmondson, 1999)。
大人同士の成熟した組織において,同調圧力をかけて「みんな同じ」にしようとすることは,結果的に個人の強みを弱め,チーム全体の活力を削いでしまいます。
これは企業という組織に限らず,地域のコミュニティやプロジェクトチームなど,あらゆる大人の人間関係に共通する課題なのだと,改めて考えさせられます。
4.相手を染めるのではなく,私たちの「かかわり方」を少し変える
では,多様性を活かす「包摂(インクルージョン)」の組織をつくるために,リーダーはどうすればよいのでしょうか。
答えは,新しく入ってきた相手の性格や仕事のスタイルを「自社の色に染めよう」とするアプローチを手放すことです。
代わりに,リーダーを含めた既存メンバーの「かかわり方を少し変える」のです。
たとえば,会議の場で「うちのやり方ではこうだから」と切り捨てるのではなく,「あなたのこれまでの経験から見ると,この課題はどう映りますか」と,相手の違いを前提に問いかける。
あるいは,暗黙の了解で進めていた業務プロセスを,誰にでも分かるように言語化し直す。
こうしたかかわり方は,メンバーに「違いを出してもよい」「ここで発言しても安全だ」という感覚を与えやすくします(Edmondson, 1999; Shore et al., 2011)。
このように,相手を枠にはめるのではなく,私たちの側が相手とのかかわり方を少し変えること。
その小さなデザイン変更の積み重ねが,誰もが自分らしくいられる「包摂(インクルージョン)」の土壌をつくります。
違いを恐れず,違いを活かせる組織こそが,これからの時代を生き抜くしなやかな強さを持つのです。
参考文献
- Edmondson, A. (1999). Psychological safety and learning behavior in work teams. Administrative Science Quarterly, 44(2), 350-383.
- Shore, L. M., Randel, A. E., Chung, B. G., Dean, M. A., Ehrhart, K. H., & Singh, G. (2011). Inclusion and diversity in work groups: A review and model for future research. Journal of Management, 37(4), 1262-1289.


