愛着理論で紐解く,本当に「心理的安全性」が高い職場と勘違いしている職場の決定的な違い

皆様,こんにちは。
ビジネスの現場で「心理的安全性」という言葉が広く使われるようになって久しいですね。
「うちのチームも心理的安全性を高めよう」と,マネージャーの皆様は,部下の意見を否定せずに聞いたり,言葉を柔らかくしたりと,さまざまな工夫をされていることと思います。

しかし,その努力にもかかわらず,「チームの雰囲気は良くなったはずなのに,なぜか成果が出ない」「若手から新しいアイデアや主体的な行動が生まれない」と感じることはないでしょうか。
実はそこには,多くの職場で起きている「心理的安全性の勘違い」が潜んでいます。
今回は,心理学の愛着理論をヒントに,その違いを紐解いていきます。

1.「ぬるま湯」と「真の心理的安全性」を分けるのは,摩擦を恐れず挑戦できる土壌である

結論から申し上げます。
本当に心理的安全性が高い職場とは,単に「誰も怒らない」「常に優しい言葉がけがある」という,波風の立たない職場のことではありません。

心理的安全性とは,チームにおいて対人関係上のリスクを取っても安全だとメンバーが共有して感じられる状態を指します(Edmondson, 1999)。
したがって,その中核にあるのは「居心地の良さ」そのものではなく,異論を述べること,分からないと言うこと,失敗を共有すること,耳の痛いフィードバックをすることが,人間関係の破壊や不利益につながらないという安心感です。

多くのリーダーやマネージャーが陥りがちなのは,心理的安全性を「ぬるま湯のような居心地の良さ」と混同してしまうことです。
真の心理的安全性とは,意見の対立や厳しい対話があっても,「このチームのつながりは簡単には壊れない」と感じられる状態です。
つまり,摩擦を恐れずに挑戦できる土壌こそが,心理的安全性の本質なのです(Edmondson, 1999)。

2.愛着理論が教える「安全基地」が,大人の挑戦を支える

では,なぜ単なる「優しい職場」では,人が育ちにくく,主体的にも動きにくいのでしょうか。
この点を考えるうえで,愛着理論は重要な示唆を与えてくれます。

Bowlby は愛着理論において,「安全基地(secure base)」という概念を提示しました。
それは,人が信頼できる拠り所を持つことで,安心して外の世界へ出ていき,探索し,挑戦し,必要なときには再び戻って回復できるという考え方です(Bowlby, 1988)。
この安全基地の発想は,子どもだけでなく,青年期や成人期の対人関係や探索にもつながるものとして論じられています(Bowlby, 1988)。

この視点から見ると,職場においても,人は「失敗しても見捨てられない」「率直に意見を言っても関係が壊れない」と感じられるときにこそ,安心して挑戦しやすくなります。
逆に,表面的には優しくても,実際には本音の対立や率直なフィードバックが避けられている職場では,メンバーは無意識のうちにリスクを取らなくなります。
表面上は穏やかでも,挑戦・質問・異論が生まれないのであれば,それは心理的安全性が高い職場というより,摩擦回避が優先されている職場かもしれません。

3.学校現場の相談で見える,「優しすぎる先輩・管理職」の下で若手が育たない理由

私はキャリアコンサルタントやプロコーチとして,多くの学校の先生方のご相談をお受けしていますが,最近特に多いのが,「若手教員に気を使いすぎて,どう指導してよいか分からない」という声です。

「ハラスメントにならないよう,とにかく褒めて,強い言い方はしないようにしています。
でも,彼らは指示待ちのままで,少し大変な分掌やクラス指導をお願いすると『それは無理です』とすぐに引いてしまうんです」と,ある先生(管理職)は深く悩んでいました。

ここで起きているのは,必ずしも心理的安全性の向上ではありません。
むしろ,関係の摩擦を避けることが優先され,挑戦を支える対話が不足している状態です。
若手教員にとって本当に必要なのは,「優しくしてもらうこと」だけではなく,「難しい課題に向き合っても,自分の成長を見捨てず支えてくれる」という感覚です。
つまり,安心と挑戦が両立している関係です。

本当に学校組織の力になるのは,多様な意見や,時には失敗すらもチームの学習資源として扱える環境です。
たとえば,「あの先生は厳しいことも言うが,自分の成長を本気で考えてくれている」と感じられる関係は,単なる甘さではなく,安全基地として機能しやすい関係です。
逆に,表面的な仲の良さを優先して摩擦を避け続けることは,一見平和に見えて,実は若手の成長機会を奪う関わりになりかねません。

4.相手を変えるのではなく,私たちの「かかわり方」を少し変える

では,単なる「ぬるま湯」を脱し,安全基地となるチームをつくるためにはどうすればよいのでしょうか。
「もっと挑戦しろ」「本音を言え」と,若手の心や性格を変えようとしても,あまりうまくはいきません。

必要なのは,私たちリーダー,マネージャーの「かかわり方を少し変える」ことです。

たとえば,若手が失敗したとき,ただ「気にしなくていいよ」と慰めるだけで終えるのではなく,「なぜ失敗したのか一緒に振り返ろう。この経験を次にどうつなげるか考えよう」と,失敗を学習の機会として扱うことです。
あるいは,会議で意見が割れたとき,リーダー自身が「違う意見が出るのは大事なことだ。もう少し深く議論しよう」と,対立そのものを問題視するのではなく,建設的な対話として受け止める姿勢を示すことです。

部下の心を変えるのではなく,リーダーのかかわり方を少し変え,チームを「安心して挑戦できる場」へとリデザインすること。
それこそが,忖度や妥協に流されない,真に心理的安全性の高い強い組織をつくる鍵なのです。

参考文献

  • Bowlby, J. (1988). A secure base: Parent-child attachment and healthy human development. Basic Books.
  • Edmondson, A. (1999). Psychological safety and learning behavior in work teams. Administrative Science Quarterly, 44(2), 350-383.

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