部下の性格は変えられない。職場の心理的安全性を生む、リーダーの「かかわり方」の小さな工夫

皆様、こんにちは。
前回は、チームのつながりは自然発生するものではなく、リーダーが意図的に「関係性をデザインする」必要があるというパラダイムシフトについてお話ししました。
今回は、その「デザイン」を実践する上で、多くのマネージャーが最初にぶつかる壁について考えてみたいと思います。
日々のマネジメントの中で、「この部下がもう少し積極的な性格だったら」「あの人がもっと打たれ強ければ、チームもうまく回るのに」と、心の中でため息をついたことはないでしょうか。
私たちは問題が起きると、つい「相手の性格」や「個人の資質」に原因を求めてしまいます。
しかし、他人の性格を変えることはできません。
職場の心理的安全性を生み出し、チームを活性化させるために本当に必要なのは、部下の性格を変えようとする苦しい努力を手放すことなのです。
1.「性格」を変える努力を手放し、「関係性のデザイン」に集中する
結論から申し上げます。
部下が主体的に動かない、あるいはチーム内に本音を言えない空気が漂っているとき、リーダーがすべきことは「部下の意識改革」ではありません。
相手の内面を変えようとするアプローチから潔く降り、リーダーである私たち自身の「かかわり方」をデザインし直すことに集中することです。
「もっと自信を持て」「失敗を恐れるな」と言葉で説得しても、人の心はそう簡単には変わりません。
むしろ、無理に性格を変えようと踏み込むことは、相手を萎縮させ、心理的安全性を損なう可能性があります。
2.人の行動は、生来の気質だけでなく「その場のシステム(関係性)」に左右される
なぜ、個人の性格にばかりアプローチしてはいけないのでしょうか。
それは、私たちが「個人の性格の問題だ」と思い込んでいるものの多くが、実は「その人が置かれている関係性のネットワークが生み出した結果」として理解できるからです。
臨床心理学における「家族システム論」では、個人の問題行動や症状を、その人個人の内面だけの問題としてではなく、家族という情緒的単位の中で生じる相互作用の連鎖として捉えます(Bowen, 1978)。
この見方は、職場の人間関係を考える上でも示唆的です。
つまり、ある人が「消極的」に見えるのは、その人が生まれつき消極的だからと断定するのではなく、その組織のコミュニケーションの構造が、その人に「消極的でいるほうが安全だ」と感じさせている可能性があると考えるのです。
職場の心理的安全性も同様です。
それは個人の「メンタルの強さ」や「人当たりの良さ」といった性格特性だけで決まるものではなく、チームの中で、発言や相談、異論の提示といった対人リスクを取っても大丈夫だとメンバーが感じられるかどうかという、共有された認識に関わるものです。
だからこそ、変えるべきは個人の性格ではなく、システムとしての「かかわり方」なのです。
3.「指示待ちの部下」を生み出していた、無意識のコミュニケーション
私がコーチとして相談を受ける中で、多いのが「部下が指示待ちで、自分から動こうとしない」という悩みです。
ある優秀なプレイングマネージャーは、「うちの若手は性格的におとなしくて、主体性がないんです。何度『もっと自分から提案して』と言っても変わりません」と嘆いていました。
しかし、よくよくチームの様子をヒアリングしていくと、原因は若手の性格だけではありませんでした。
そのマネージャーは非常に優秀で責任感が強いため、若手が失敗しないよう、業務を振る際に「完璧で詳細なマニュアル」と「細かすぎる指示」を常にセットで渡していたのです。
若手からすれば、「少しでも違うやり方をすれば修正される」という関係性の中にいるため、自らの意見を封印し、「指示を待つ」という最も安全な行動を選択していただけでした。
これは、評価の枠組みが固定化されやすい学校という組織でも、しばしば見られることです。
教室でいつも反抗的だったり、逆に無気力で孤立していたりする生徒に対し、教師が「性格を直そう」と正面から説教しても、状況は悪化しやすいでしょう。
しかし、教師がアプローチを変え、「この行事のポスター作り、君のセンスが必要だから手伝ってくれないか」と、得意なことで頼るというかかわり方に切り替えると、生き生きと動き出すことがあります。
既存の枠組みに無理やり相手を適応させる「統合(integration)」のアプローチではなく、相手の性格や特性はそのままに、意味のある役割を持って参加できる「包摂(inclusion)」の環境をつくること。
環境が変われば、人は自然と違う側面を見せ始めます。
4.相手を変えず、私たちの「かかわり方を少し変える」具体的な工夫
部下の性格を変えることはできませんが、部下が安心できるコミュニケーションのルールを作ることは、明日からでも可能です。
相手を変えようとするのではなく、リーダーである私たちの「かかわり方を少し変える」のです。
「もっと会議で発言しろ」と性格の変容を迫るのではなく、会議の冒頭で「今日は役職に関係なく、思いついたアイデアを付箋に書き出す時間から始めます」と、誰もが発言しやすいルールをデザインする。
「失敗を恐れるな」と励ますのではなく、リーダー自身が「実は昨日、こんな初歩的なミスをしてしまって」と、自己開示の機会を作る。
こうした「かかわり方の小さな工夫」の積み重ねが、チームのシステムを変え、やがて心理的安全性へとつながっていきます。
次回は、この心理的安全性の上に成り立つ、大人を成長させる「協働」のメカニズムについてお話しします。
引用・参考文献
- Bowen, M. (1978). Family therapy in clinical practice. Jason Aronson.
- Edmondson, A. (1999). Psychological safety and learning behavior in work teams. Administrative Science Quarterly, 44(2), 350-383.


